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唐招提寺御影堂障壁画展について

富山県美術館で行われている
「東山魁夷 唐招提寺御影堂障壁画展」
https://tad-toyama.jp/exhibition-event/15114
展示の順序があまりにも残念だったので、ここに記しておく。

東山魁夷(1908-1999)は、20世紀の日本画の中では
横山大観や平山郁夫や片岡球子らと肩を並べ
間違いなく戦後の日本画家10名に選ばれるであろう大家です。
その筆致は、数枚見ただけで、次回違う場所で出会ってもこれ東山じゃない。
と素人でも見分けられるほどのしっかりした画風の画家であるが、
だからといって、灰汁が強いわけではなく、個性が強いわけではない。
どちらかというと薄ぼんやりとした輪郭が特徴。(というと失礼だが)
だけれども、なんとも言えない青や緑を画面にドドーーンと使う画家である。

その東山が、他の仕事を断って、10年もの歳月を費やして完成させた大作が、
今回展示されている唐招提寺御影堂の襖絵です。
いつの日か、国宝指定されてもおかしくない逸品です。

唐招提寺は、日本史の教科書に必ず坐像が載ってる、鑑真さんが立てた寺。
その鑑真さんの坐像(これも国宝)を安置するために作ったお堂。
そこの襖絵です。
日本に呼ばれ、何度も日本海を渡ろうと頑張ったけど阻まれて、4回失敗して、
失明して、それでも頑張って5回目の挑戦でようやく日本に来てくれた鑑真さん。最後は故郷に帰ろうとしましたが中国の途中で命途絶えます。

で、このお堂は昭和39(1964)年に建立。ってことは東山さんが56歳。
そして描いてくれるかな?って打診を受けたけど、結構悩んで
1971年にようやく「いいとも!」ってなって、描き始めます。
が、すぐに描き始めたのではなく、何描く?と
72年、73年は、日本全国を旅してスケッチしてます。

で、ようやく表面を描きはじめました。75年に表面が出来上がります。
途中で天皇陛下からエリザベス女王に絵を上げたいんだよねーってことで
違う絵も描いているのでその仕事だけをやっていたわけではないですが。

で、表が出来たし、裏は描くのかな?と思ったら、中国の風景がいいかも!
ってなって、76年から78年まで今度は中国各地を訪れてスケッチしてます。
中国では、スケッチにいろんな道具を持っていくのが面倒だったのか?
ほぼモノクロでスケッチしてます。
墨に五色あり!と言われますが五色どころではない、多彩なスケッチです。
そして10年経って、全部で5室、全68面を完成させました。

63歳から74歳までかけて作った誰がどう考えても、
本人にしても「一世一代の大仕事」「我が画業の集大成」です。

この作品を作り上げるまでに多くのスケッチを描き、
あーでもないこうでもないと何度も構想を練り直す。
やっぱ、あそこに描くのは滝のほうがいいかな?とか。

実際の襖絵はかなり大きいので割出図(わりだしず)と呼ばれるミニチュアを作り
どれくらい拡大すればいいか計算し、描いていくわけですが
今回の展示ではこれらのスケッチも試行錯誤も割出図も全部展示されています。

で、どうしてこの文章を書いているかというと展示が残念なのです。
そういう10年の紆余曲折や苦労や思い、
そういった物語の先にこの襖絵を見たほうが面白いのです。
絵の中にあるストーリーが見えてくるのです。
割出図の試行錯誤で、結局仕上げはどっちを選んだの?
と最後に襖絵を見たかったです。

なので、私は一回展示を一通りビデオまで順路通りに全部見て、
思いっきり逆走して最初の68枚にもう一度戻りました。

料理でもドラマでそうですが、メインはあとに、が原則です。
まして、今回は、その作品を作るための試作やスケッチ。
それをメインディッシュのあとに見せてどうするんだよ!と。
映画で言えば、最初にネタバレさせたようなもんです。
展示室の関係もあるのかもしれませんが、
どうしてこの絵がスゴイのか?を見に来てくれた方々に
最大限味わってもらうための努力を美術館の学芸員にはしてほしいのです。
それだけストーリーがあって、素晴らしい作品なので。

ストーリー展示をしてほしいのです。

ちなみに唐招提寺に行けばいつでもこの絵が見られるわけありません。
そして、ちゃんと照明をあててくれたり、近寄ったり遠ざかったりして見られる
というのも美術館で見る醍醐味です。
そして今回のメインである「山雲濤声(さんうんとうせい)」の
濤声(とうせい)の楽しみ方ですが、
できるだけ後ろの方、しかも画面右側の後ろから眺めてみてください。
暗い展示室の向こうに真っ青な海が広がります。
それは、海にせり出したガラス張りの建物から見た風景のようになります。
右から大きな波がうねりを上げ、左の浜へと打ち寄せていくように見えます。
パノラマビューの絶景レストラン顔負けです。
波しぶきも波音も老松にあたる風も、全部感じられます。
こればっかりは画像検索では味わえない画家が目指したダイナミックさです。
機会があれば、ぜひ。


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