薬物相互作用ってなに?
こんにちは、YORIAILabです。今回は治験での薬物相互作用について紹介したいと思います。
相互作用というのは読んで字のごとく、「複数の薬物を併用した場合に、薬効が減弱あるいは増強されたり、有害作用が起こること」です。
飲み薬が効果を発揮するまでには体内で様々な臓器の働きを受けます。
薬を飲む→胃を通過→小腸で吸収→肝臓で代謝→血流に乗って体内へ
という順番で薬は効果を発揮します。薬が効果を発揮する過程で考慮すべき重要なことが薬物相互作用になります。
「グレープフルーツジュースと一緒に飲まないでくださいね」なんて言われたことがある方もいるかもしれないですね。これもグレープフルーツジュースに含まれる代謝酵素が関係して薬の効果を弱めたり強めたりする可能性があるからです。
少し効果が弱まる程度ならいいのですが、これが危険な副作用に直結するとなればなかなか怖いものです。
治験でも、この相互作用については十分にデータ収集を行いながら開発を行います。
肝臓は薬物代謝の要
肝臓は、薬物代謝の主要な場所として薬剤を無毒化します。
肝臓での薬物代謝には、主にシトクロムP450(CYP450)という酵素が関係しています。この酵素系は、薬剤の化学構造を変化させ、体外への排出を容易にします。CYP450には複数のアイソザイム*(例:CYP3A4、CYP2D6、CYP2C19など)が存在し、それぞれが異なる薬剤の代謝に特化しています。
*働きは同じだけども構造が違う酵素のこと
逆に言うと、薬の用量というのは、肝臓で分解(代謝)される分も考慮しながら設定されています。
ここで、このCYPの働きを抑える何か別の物質が現れたらどうなるでしょうか?
イメージ通り、薬は代謝(分解)されません。こうなると薬の血中濃度は増加し、薬が効きすぎてしまったり、副作用が強く出てしまったりします。
代謝における相互作用は、代謝が阻害されると薬物の効果が長引いたり、意図せずに毒性が発現することがあります。逆に代謝が過度に促進されると、薬物の効果が弱まり、治療が不十分になることもあります。
薬物相互作用の一例
代表的な例として、カルシウム拮抗剤(アムロジピン等)とグレープフルーツの薬物相互作用があります。
高血圧や狭心症で用いられるカルシウム拮抗剤は主に肝臓で代謝されます。特にCYP3A4という酵素がこの薬剤の代謝に重要な役割を果たしています。
一方、グレープフルーツにはフラノクマリンという化合物が含まれており、これがCYP3A4を強力に阻害します。
その結果、カルシウム拮抗剤の血中濃度は上昇し、過度の血圧低下を引き起こしたり、浮腫、ほてり、動機などの副作用が強く出てしまったりします。このように、複数の薬物を併用した場合に、薬効が減弱あるいは増強されたり、有害作用が起こることを薬物相互作用と呼びます。
実際の例として、ワルファリン(血を固まりにくくする薬)とミコナゾール(真菌、主に水虫などに効く薬)の相互作用が挙げられます。
ミコナゾールはCYP2C9を阻害し、ワルファリンの代謝を抑制するため、ワルファリンの効果が増強され、出血のリスクが高まることがあります。治験ではこのような相互作用のリスクを予測し、慎重にモニタリングされます。
新薬開発における薬物相互作用
医薬品として開発中の化合物が、他の薬剤とどのように影響し合うかは、試験管レベルの研究段階から注意深く評価されていきます。
具体的には、新薬候補化合物がどのように代謝され得るのか、どの酵素が阻害されると、この化合物の代謝に影響が出るのか、そしてそれは効果や副作用にどのように影響しうるのか。といった具合に、特に注目すべき酵素とその影響の度合いを評価しながら研究は進んでいきます。
薬物間相互作用(DDI: Drug-Drug Interaction)試験
実験室レベルでの研究が終わると、その後健康成人もしくは患者を対象とした試験で実際に治験薬と飲み合わせをしたときの影響を確認します。
このように異なる薬剤が同時に使用されたときにお互いにどのように影響し合うかついて特に注目して評価する試験のことを、薬物間相互作用(DDI: Drug-Drug Interaction)試験と呼びます。
ヒトでの試験はこんな感じ(イトラコナゾールを用いた試験)
よく用いられる方法として、イトラコナゾールという抗真菌薬を用いる方法があります。
イトラコナゾールは抗真菌薬として白癬(水虫)等の治療に使用されている薬ですが、実は強力なCYP3A4阻害作用を持ちます。
いまここに、動物実験までのデータから、どうやらCYP3A4で代謝されるとわかった候補化合物があったとします。
では、実際にヒトで薬物間相互作用(DDI)試験を行うにはどのようなデザインにしたらよいでしょうか。
それは、イトラコナゾールと併用してこの候補化合物をヒトに投与して、影響があるかどうかを観察します。
ただ、実際に薬がどの程度代謝されているか、また代謝が阻害されているかは目には見えないので、"どの程度治験薬が血中に移行しているか"という点に着目してこれを評価します。
もし、イトラコナゾール併用ありの血中濃度の方が大きく上昇している場合、その薬物間相互作用は強く、副作用発現にも注意が必要という考え方になります。
このように、薬物の用法・用量と血中濃度の関係を定量的かつ理論的に取り扱いながら、生体内における薬物の動態を解明する学問を、薬物動態学(PK; Pharmacokinetics)といいます。
実際はこのPKの観点に加え、薬力学(PD; Pharmacodynamics)という、薬物の生体内での曝露と作用(期待される作用及び副作用)に関する評価も並行して行われながら、薬物間相互作用(DDI)試験は進められます。
薬物間相互作用(DDI)試験の結果は、添付文書や薬を処方する際のガイドラインとして使われます。これにより、複数の薬を安全に使用できるよう、投与量や使用のタイミングを調整することが出来ます。
まとめ
今回の記事では、薬物相互作用の基礎について解説しました。薬物相互作用は薬の安全性と効果を確保するための重要な要素であり、研究段階から、主に代謝酵素に注目しながら評価が行われます。
最終的には薬物間相互作用(DDI: Drug-Drug Interaction)試験の結果をもとに、添付文書や薬を処方する際のガイドラインとして使われ、複数の薬を安全に使用できるよう、投与量や使用のタイミングを調整することが可能となります。