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言えなかった思い

絵の予備校に通っていた時

「私のいる風景」というテーマでデッサンをする、という課題が出た。

「私」とは何だろう?

ただの人間を描くのはつまらない。
私はかわいい生き物ではない。私とは、妖怪か?
と、色々考えて、
結局、「私とはこんにゃくである」という事にした。
何だかよく分からないと思うけど。
とりあえず、そう仮定して、描いていった。

もうあの絵はないけれど、
台所に母親が立って料理をしていて
娘が椅子に座っていて
中央のテーブルに、私であるこんにゃくが載っている
という絵を描いた。

主役であるこんにゃくを目立たせる為、こんにゃくを中央に配置し、母と娘は背景として暗めに描いた。とにかく、こんにゃくが目立つように!

と思ったけれど、何しろこんにゃくが画面に占める割合が小さすぎる!目立たない!スポットライトを当てたら、不自然になってしまう。こんにゃくを大きくしたら、ぬりかべ(妖怪)になってしまう。
結果、画面はどんどん暗くなっていった。

予備校では、出来上がった皆の絵を並べて、先生がコメントする、講評という時間が設けられている。クライマックスの時間だ!

先生は私の絵を、褒めてくれた。でも、先生は完全に、画面の中の娘を私だと勘違いしている。
違う!!私はそのテーブルの上のこんにゃくなのだ!!
何度も叫びたかったけれど、完全に勘違いしている先生に、言えない・・・。しかも、あの時、かなりの大人数(体験入学だったか?)で、教室に入りきれない程の生徒の目があった。しかも、知らない人ばかり!
結局言えず。悔しい思いばかりが残った。

今なら言えるのだろうか?
いやー、今の私も言える気がしない。

だから、せめてここで言わせてもらう。
「こんにゃくが私です。」


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