【短編】優しく確かなメッセージ
日曜日の銭湯が好きで、ときどき友人や恋人との約束を入れない日曜日がある。
まだ太陽が高い時間帯、誰もいない大きな湯船につかるのがとっても好きなのだ。
手足を伸ばす。
高い天井を見上げる。
ペンキが剥げているところを探して数えたりするのも好き。
あー最高!
銭湯に行くと決めた日曜日は、思いっきり寝坊をしてラジオをつけてコーヒーをいれ、カリカリに焼いたバケットとベーコンエッグを頬張る。
おなかいっぱいだなぁ、とぼんやりしてからのそのそと動き出す。
桶の中に白い石鹸とシャンプーを入れ、タオルをのせて風呂敷に包む。
風呂氏はおしゃれなやつではない。おばあちゃんちにあった紫色と白色の化繊のやつだ。なんでも昔は結婚式の引き出物を持ち歩くのは紙袋ではなくて、この2色グラデーション化繊風呂敷が主流だった、と子どものころおばあちゃんが言っていた。
着飾った大人が風呂敷包み持ってるのってすごくおもしろいと笑いそうになったのだけど、なんだか笑ってはいけないようにおもって唇に力を入れたことを思い出す。大人になって銭湯に行くために風呂敷を結ぶたび、子どもの時の分プププと笑ってる。
あと私にはもう1つのマイルールがある。化粧水やクリームは持っていかない。コンディショナーも。
いつもは化粧水もクリームもパックもするし、なんなら割引クーポンをみつけてエステなんかにも行く、ごく普通。
なんだけど、白い石鹸で顔を洗ってしまった銭湯あがりの突っ張る感じが何とも心地良いのだ。
なんでだかわからないのだけど、時々無性にやりたくなる。
このパリパリほっぺを掌で覆うのが好きなのだ。
着飾っていない、嘘をついてない清々しい気分になれる。
そして、今日も大きな湯船につかってきた。
富士山の絵をながめながら、高い位置の窓からやってくる風に吹かれてふっと感じた。
「ん?」
突然感じた。
じわりじわり体中に満ちていくものが、確かなものへとかわっていった。
風呂あがりに棒アイスをがぶりとかじってから、
おなかを見て微笑んで、私は言った。
「メッセージありがとう。
今日から一緒なんだね、よろしく。」
頬ずりできるのは、街中がクリスマスで浮かれているころだわね。
おしまい
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