東京ムカデ 第18話
第18話
「百足さん!ちょっと大丈夫ですか?どっか打ちませんでした?」
半分、笑いをこらえながら育三郎は話しかけた。
「大丈夫ですっ。もぉ〜〜とんでもないところを見られちゃったわ!」
寄子は、こけたところを見られた気恥ずかしさと、久しぶりに育三郎に会えた嬉しい気持ちと、が混ざった複雑な心持ちでひっくり返ったオフィスチェアーを起こし、元に戻した。
「あのあと、防虫剤の効果あります?しかし、百足さんほんとに面白いですね!前を通ったら、なんか物体がスーッと横滑りしたから何かと!」
まだ、クスクス笑いながら育三郎が言った。
寄子は、鼻までずれたアズキルーペを直しながら、「ああ、ありがとうございます。おかげであれから見ないです!まさか、ふざけた格好を見られてたとは、、」
「よかった〜〜!肉じゃがご馳走様でした。めちゃくちゃ美味しかったです。」「もう感動もので! ・・そのお礼っていったらあれなんですがパスタの超美味しい店があるらしいんですけど今度一緒に行きません?」
と育三郎が続けて言ったところで、2人の口から同時に、
「えっ⁇」 というびっくりしたようなリアクションが飛び出した。
(パスタ? しかも えっ?って何よ)寄子は、目が点になって育三郎の顔を見た。
(あれ?いまなんて言った?)
育三郎は自分が、前々から友人に勧められていた1人で行ってみようと思っていた店に寄子を勢いで誘ってしまった自分に、戸惑いつつ、(ああ、肉じゃがのお礼、肉じゃがのお礼)と心の中で唱えてから、
「じゃ、じゃあ、今週土曜日空いています?○○駅に12時くらいに待ち合わせで良いですか?」
と慌てた口調で一気に言ってしまった。
「はぁ、あいてますけど、、あの」 寄子は相変わらずポカンとなったまま、この人何言ってるか?といった表情で育三郎の顔を見ていた。
「そうだ、あの百足さんって、、ごけっこ」
と育三郎が言いかけたその時事務室の扉が勢いよくパーンと開いて、 資料を山積みに載せた台車を重そうによっこいしょと押しながら、富田が帰ってきた。
「はあ、重かった。あ、森くん?」
「富田さん!こ、こんにちは! あ、じゃあ僕これで失礼しますね!」と言い放って育三郎は風のように事務室から飛び出していった。
「元気いいなぁ〜!若いっていいなぁ〜!カカカカ・・・。あ、百足さん、お腹空いたでしょ、休憩どうぞ」と富田に話しかけられたものの、寄子は何を言われたかよく聞き取れないまま
「ヘェ・・。」とため息交じりの蚊の鳴くような声で一言呟くのが精一杯だった。
つづく
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