短編小説|マッチングおやじ|第3話 |サングラスな女
「池袋西口の家電量販店裏側にT路地がありすぐ近くに自動販売機がありますので19時にお願いします」
女からの一方的な待ち合せ場所の指定に、コレはもしかして巷でよく聞く「美人局」なるものなのでは?と若干の恐怖心を抱きながら私はその辺鄙な待ち合わ場所に立っていた。
丁度3日前、いつもは私からのいいねでマッチングが成立するのだが今回はなんと女性側らかのいいねでマッチングが成立したのだ。
いいねが届いた際に私が確認するのは真っ先に写真の印象→年齢→身長だ(まぁ~いいねが届いた事自体が初なのだが)。長々と書かれた自分をいいように語るプロフィールの内容等どうでもよく、むしろ限られた文字数の中で自分の今までの生き様を語ろうとする姿勢に気持ち悪さすら感じていた。
そういう意味ではシンプルに年齢、スリーサイズ、ニックネームに「よろしく」とだけ書かれたこの女のプロフィールは少し魅力的だった。
年齢は36歳、正直に話せば自分の年齢を棚にあげて恐縮だか、出来たらまだ子供が産まれる可能性がある年齢に魅力があった。
身長は自分が小柄な分、相手も小柄と言うのがどうも魅力にかけて、自分より背が高い女性に興味を持ったので、163センチと言う背丈は正直魅力的だった。
そして最後の写真の印象だが…
鼻筋はスッと高く頬骨や顎が鋭利な形をしているわけでは無くシュッとしている。年齢と共に落ちてきても仕方の無いほっぺたの肉も若者とかわらず垂れ下がることもなく普通だった。
さぁ〜では一番の重要ポイント目元の印象だが…
サッパリ分からなかった
女は西部警察の大門の様な馬鹿デカいサングラスをしていた。
3枚の色んなパターンの写真があり、全身写真、顔のアップ、鏡に映リ込む自分を携帯で取った写真、その全てにサングラスをしているのだ。少々不気味な印象でもあるが、マッチングアプリで自分の顔を晒したくないのだろうとその時は左程の違和感を感じていなかった。
「あの~もしかして・・玲子さんですか?」
私は待ち合わせ場所のT路地に大きな旅行用バックを持ちロングヘアーには少々不自然な防止を深めに被り、写真と全く同じ大門サングラスをかけた女に話しかけた。
「はじめまして・・そうです。近くに焼肉屋さんがあるの行きましょう」と冷めた口調で指示され、私がプライベートでは決して行かないような超が付くほど高級な焼肉屋に連れて行かれた。
個室の中で対面に座った私達。コートを脱いで帽子も取って私の前に座る女は、まだサングラスだけは外していない。店員に注文をすませて店員が出て行くと女は私にこう言ってきた。
「ごめんなさい、ちょっとサングラスは外せないんです。写真とか取られたらまずいんで・・」
言われた言葉の意味は理解できないまま乾杯を済ませ高級料理を食べながら二人の会話が続いていく。
私:「玲子さんはこの辺にお住まいなんですか?」
女:「そうね、すぐ近くのタワーマンションに母と息子と3人で暮らしてます」
私:「息子さんは何歳なんですか?」
女:「今は小学校6年生、ちょっと障害を持ってて私では無理なんで母と暮らしてるの」
私:「無理・・?息子さんの障害は大変ですよね・・再婚相手は息子さんのことを第一に考えてくれる人が理想ですよね」
女:「息子のことを・・・私を一番でしょ・・」
女:「もしかして私のこと知ってるの?」
私:「どういうことですか?」
女:「・・・・私、結構有名人なんですけど」
私:「スイマセン・・あまりテレビとかは見ないんでちょっとわからないんですけれど、何のお仕事なんですか?」
女:「音楽・・」
女:「父親が芸能人だからずっと虐めがあって大変だったのよ・・」
私:「へっ~虐められるようには見えませんけど、大変だったんですね・・」
女:「じゃなくて私が虐める方ね・・」
私:「・・・・」
女:「実はねっ・・最近別れた人のことがまだ好きなんです。」
私:「そうなんですね・・どうしてお別れになったんですか?」
女:「相手には家庭があって、別れて私と一緒になるって話しだったんだけれど~色々あって・・・」
私:「相手を忘れようとして新しい相手を探がしているってことですか?」女:「ねぇ~何て言えばまた付き合えるかなぁ~」
私:「・・・・さぁ~・・・」
女:「あのねぇ~もう一緒に住みませんか?一部屋余ってるんで・・勿論家賃とかは半分払ってもらいますよ」
私:「その方ともしも上手くいったら私はどうなるんですか?」
女:「さぁ~」
インパクトの強かった会話の内容を羅列するとこんな感じだった。
会計を済ませエレベーターの中で二人となると、女が「特別にみしてあげるね・・」といってサングラスを外してきた。
想像の何倍も綺麗で、私はさっきまでの成立しない会話を全て忘れてテンションが上がってしまった。
只…決してテレビや雑誌で見た記憶は全く無く、女のサングラスが身バレを防御する為の物なら無駄な心配である。
女は「一緒に住むこと考えてて、また連絡して」と言って帰って行ったが、私達は連絡先の交換すらしていない。アプリ内でと言うことなのだろうか・・
会話の内容を付け足すと、女は後半殆どが別れた男とのヨリを戻す方法を私に相談していた。半ば呆れ気味に相談に乗る私に最後に言ってきたのが「一緒に住みませんか?」である。
サングラスを外したのは私に安心してくれたのかも知れない。
外さなければ女の容姿を知らずにすんだのに
連絡先位交換しとくべきだったのかもしれない。