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2010年代の海外ブロガー達は一体どこへ消えた? 現代の海外出稼ぎブームと重なるワケ

2020年代は、どうやら海外出稼ぎがブームらしい。YouTube、インスタ、Xなど、あらゆる媒体で海外出稼ぎを煽り立てる謳い文句が容易に目に付くようになった。「月収⚪︎⚪︎万円越え!!」などと現地で得た収入を日本円に換算して報告する者で溢れ、また仕事や住居探しのイロハを指南する情報を発信するインフルエンサーも多く見かける。しかし、こうした海外出稼ぎは実は必ずしも新しいものではない。

2010年代においても、現在の海外出稼ぎと全く同じように、ワーホリビザを取得して豪州のファームで荒稼ぎする日本人の若者が一定数いた。ただし、彼らの多くは最初から出稼ぎ目的で来たのではなく、ふと気づいたら思いの外お金が貯まってラッキーだった程度の感覚の人が大半で、あくまでもワーホリの主たる目的は異文化交流や海外体験したいという、ワーホリの趣旨から外れないものであった。実際、現地でほとんど働かなくても良いだけの貯金をしてから渡航しており、海外保険をクレジットカードの付帯保険で節約する人間は少数派だった。

2010年代当時は、今ほど日本衰退論が流行っていなかったし、特に民主党政権下の2012年末までは円高が顕著で、日本で稼いだ金を使って海外旅行を楽しむ余裕すらあった。その後もコロナ禍前までは円が極端に弱くなることはなかったため、高い海外通貨を稼いで日本に戻るという発想が流行りにくかったのだ。

2010年代当時、「海外出稼ぎ」という概念は浸透していなかったが、現在と同じように日本出国・海外生活を積極的に焚き付けるお題目は相変わらず存在した。「ブログ飯」、「海外ノマド」、「新卒フリーランサー」など、呼び方はいくつも種類があったが、いずれにおいても「ブログの広告収入とIT・プログラミングスキルで稼ぎ、好きな所で生活する」という内容だった。

結果を見てみれば分かるように、現在ではブログはすっかり下火になり、もはやお金を稼ぐ手段では無くなった。また、謳い文句にあったITやプログラミングも、実態はWordPressのインストールや初歩的なHTMLの知識といった具合で、ITスキルと呼ぶには物足りず、そもそもプログラム言語ですらないというシロモノだった。職務経歴書で他者と差別化を図るのにはイマイチなスキルセットである。

それにもかかわらず、2010年代の一定数の若者はこうした謳い文句に引っかかってしまい、有名私大の新卒カードを捨てて海外ノマドや新卒フリーランサーを目指して日本を離れていった。

理由はいくつか考えられるが、当時は終身雇用制度が崩壊し、大企業であっても倒産するという事実が世の中に衝撃を与えた直後の時代で、会社に依存せずに個人の力で生きるという意識が強くなり始めた時期である。就活シーズンを迎えた当時の学生に気の迷いを与えるのには十分だったのだ。

確かに個々人のスキルや経験を培うのは重要だが、これらのスキルは一般企業で身に付けていけるもので、特に日本の会社は新人教育にコストをかけてくれるから、個々の力を身につけるのにはまず会社組織に入るのが一番の近道である。働いていて、職務経歴書に書ける内容がこれ以上広がらないと感じたら、その時にレベルアップできるポジションへ異動したり転職すればいい。少なくとも、ブログ運営やWordPressの知識だけを個の力だと定義してしまうのは、あまりにも危うい。

しかしながら、こうした意見は社会人としてある程度働いた経験があるからこそ言えるもので、就活を控えて心理的に不安定になった学生に考える余裕がない。

当時の「海外ノマド」や「フリーランス」ブームとは、言い換えれば経験の浅い若者を食い物にしたものであり、ブロガーを志した多くの若者は、キャリア形成に重要な20代を無為にしてしまったのが現状だ。一部の嗅覚に優れたブロガーは、文字媒体そのものが下火になることを早くに察知して、YouTubeなど映像媒体へ移行するなど多角化を図り、ビジネスとして成功させているが、大半の(当時の)若者たちはそうではない。当時はブログの高いアクセス数を誇り、X上でも多くのフォロワーを持っていた彼らの姿は、ネット上でもう見ることができないのが現状だ。

それでは、現在の海外出稼ぎブームはどうだろうか。

確かに、海外のジャパニーズレストランのサーバーとして働くことで、チップと合わせればそれなりの金額が稼げるかもしれない。しかし、その経験は自身の望むキャリアパスと一致しているのだろうか?ある程度年齢を重ねた後も続けられる仕事なのだろうか?ビザの更新や永住権の取得が難しくなった場合、自ずと日本へ帰国することになるが、「海外在住」では無くなったその時の自分に、一体何が残るのであろうか?

世の中には、経験の浅い若者を利用するものが数多く存在する。海外出稼ぎに賭ける現在の若者の姿に、海外ノマドを夢見たかつての若者たちの姿を重ねずにはいられない。


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