💤新月の名を

こちらの流れをお借りしています。

▼お借りしました！
いるいさん宅：アマナちゃん

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　”シックス”、という名前が嫌いだった。
　6人義兄弟の中で一番落ちこぼれな自分の、それが仮初でも、名が体を表しているようで、大嫌いだった。
　でも、じじさまが”ヒロ”って呼んでくれたから、温かさも、優しさも、幸せも知ってる。アーネラがいて、友達がいて。じじさまがいたら、他には何もいらない。何もいらなかった。
　だから、じじさまがいなくなった世界なんていらない。こんな世界なんて、なくなってしまえばいい。きっとアーネラも友達もそう思ってる。
　一緒に消えよう。ねえ。

　そしたら僕も、じじさまと同じところに、いけるよね？

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　アーネラがあんなに楽しそうなのを、久しぶりに見た。
　いつも慰めるみたいに、寄り添うみたいに、ただ一緒にいてくれるだけのアーネラが、自分からあの子に向かって鳴いた。普段温厚で大人しいアーネラが、あんなに嬉しそうに。

「私にはうまく理解できないかも」

　春の色が言う。
　あたりまえだ。理解して欲しいなんて思わない。

「何か力になれるかもしれないから」

　なれるわけない。

「貴方が願いを叶えるときに、私を思い出してくれたら」

　何も知らないくせに。

「嬉しい……かな」

　どうして？
　分からない。どうしてそんなこと言うのか、理解できない。突き飛ばしたのに、突き放したのに、冷たいことを言ったのに、怒らない。なんでそんな風に笑うの？
　どうしてこっちに、駆け寄って、

「叶うといいね」

　痛い。
　その声に、表情に、本当にそう想ってるんだって思い知らされて、眩しくて、熱くて。痛い。ずっと。胸の奥が、痛い。

「……………、」

　駆け寄ってきたアマナの顔が見れなくて、俯く。
　言葉の返し方が分からなかった。いつもなら皮肉の一つや二つ、すぐ口にできるのに。なぜか、否定したくなかった。
　そして、肯定も。

「……シックスさん？」

　彼女が少し首を傾けて、不思議そうな声色で”僕”の名を呼ぶ。
　咄嗟だった。

「”シックス”、って呼ばないで」
「え……？」

　次は困惑した声。
　自分でもどうしてそんなことを言ったのかは理解できなくて、しかし口から出た言葉をもう止めることは出来なかった。

「僕と、踊ってほしいなら」

　ひとつ。

「僕の笑顔が見たいなら」

　ふたつ。

「僕の力になりたいって思ってるなら」

　みっつ。

「僕が願いを叶えるときに、思い出して欲しいなら」

　よっつ。

「叶うといいって、思ってくれるなら」

　いつつ。

「……”ヒロ”、って、呼んで」

　まるで縋るように、迷子の子供のように、彼女の手を掬った。

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　「じゃあお前さんのことは、”ヒロ”って呼ぼうかね」

　「……”ヒロ”？」

　「そう、今日は新月だから。……それにね」

　「それに？」

　「新月には、”始まり”……そして”リセット”の意味があるんだよ」