💉✉️僕が此処にいる理由

こちらの続きです。

▼お借りしました！
倉橋さん宅：レフティアさん

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　フィンブルは万年雪で覆われた街である、という知識はあったけれど、想像以上に真っ白で幻想的で、驚かされる。とても綺麗だ、と純粋にそう思った。

「じゃあ、オレはここで！」

　重度の方向音痴なテオをここまで連れてきてくれた配達員の彼は明るくそう言って、片手を上げる。テオも微笑みを返して改めて礼を告げる。

「重ねてになるけれど、本当にありがとう。イゼットさんのおかげだよ」
「いーですって！オレもお礼ちゃんともらいましたし。すっげー楽しかった！」

　最初は顔面蒼白になるんでびっくりしましたけど、と肩をすくめるイゼットに、テオは苦笑で返す。ごめんね、と添えれば、彼は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「また何かあったら連絡してください！あ、ロトッチの使い方、覚えましたよね？」
「う、うん。機械も弱くて……ごめんね」

　にか、と今度は子供っぽい笑顔を見せてくれる彼に敬意をこめて会釈して、背を向けた。

　フィンブルに来たのには、理由がある。考えれば考えるほど、この寒さが吹き飛ぶくらいにそれは熱をもっていて、気付けば走り出していた。
　行きたい場所は決まっている。ひとつめは『リュヒテュ』という温泉宿。ふたつめは『フィンブルジム』だ。
　もっといえば行きたい場所―――というよりは、会いたい人、がそこにいる可能性が高い。フィンブルタウンのどこにそれらがあるかは分からないが、大きく有名な施設だろうし方向音痴の自分でも街中を駆ければ見つかるだろう……なんて、そんな安易な考えしか出てこない程、テオは舞い上がっていたのだ。
　しかしそんな考えも、目的の場所に着く前にすべて吹き飛んでしまった。

「……レフ」

　真っ白な雪に攫われてしまいそうな、彼女の姿を捕える。ぽつん、と街の中に佇むレフティアに、テオを思わず足を止めた。実際は周りに人もいただろうが、テオの目には彼女一人しか見えていなかった。
　呟くように口から出た彼女の名は、彼女自身には届かなかったようで振り返ることはない。だから、一歩、一歩、確実に歩みを進めて、彼女の傍へと寄った。

「レフ」

　今度は先ほどよりもしっかりとその名を呼べば、レフティアは一度動きをとめ、それから振り返る。
　彼女の表情を見た瞬間、嬉しさからか、安堵からか、それとももっと別の何か、からか、込み上げるそれらに、何故か、泣きそうになった。
　ただ、涙が溢れることはなかった。

「テオさま」

　彼女が、自分の名を陽だまりのような声で呼ぶのが聞こえる。
　それにたまらなくなって、それでもゆっくりと、彼女の手を取った。

「会いたくて、来ちゃった」

　本当は真っ先に贈り物のお礼を、だとか、約束をしたのに遅くなってごめん、だとか、そういうことを言うつもりだったのに、口から次いで出た言葉はそれだけだった。
　きっと情けない顔をしているだろうな、と、自分でも分かる。

「……会いに来てくださって、ありがとうございます」
「約束、やっと果たせた。遅くなってごめんね」

　彼女が柔らかく微笑んでくれるのを見て、ようやく次の言葉を発つことが出来る。両手で包んでいた彼女の手を片手だけ放して、寒さなんて全く気にせず自分のシャツのボタンを上から一つ、二つと外してキーストーンの留められたネックレスタイを下げた。

「これ、受け取ったよ」

　レフティアが贈ってくれたネックレスを見せるように襟を開く。後に、少しはしたなかったかな、と思ったのはまた別の話だ。

「ありがとう。本当に驚いたし……何より、心から嬉しかった。大切にするね」
「喜んで頂けて、安心しました」

　嬉しかったのはプレゼント自体もそうだが、贈ろうと考えてくれたその気持ちが、自分のことを考えて作ってくれたのだろうと分かる、その感情だ。
　そのことを奥にしまいこんだら月並みな言葉になってしまったことを少しだけ後悔したが、テオにはまだ、伝えなければならないことがあった。

「それでね、俺もお返しをしたくて」
「そんな。わたくしがただしたかったことですので、気を遣って頂かなくても……」

　レフティアが慌ててそう言うも、テオはゆるりと首を振ってそれを制す。そして一つ、自分持つ一番古びたモンスターボールを手に取って、彼女の前に翳す。

「俺と、ポケモンバトルをして欲しい」

　レフティアはとても驚いた顔をしていた。無理もない。
　自分は今まで、彼女にバトルは苦手だと告げてきた。秋の催しでは、情けない姿も見せた。
　だから、こそ。

「手心はいらない。バトル形式も、レフの得意なやり方で構わない」

　レフティアの手を離して、一歩、二歩下がる。
　彼女は知る由もないが、テオの持つモンスターボールの中にいるのは、リーリオだ。それを握る手に少しだけ力を込めて、目を閉じる。
　それからもう一度目を開いて、真剣な表情で、彼女を見据えた。

「バトルが終わったら、伝えたいことがあるんだ」