💤その手に歌を

こちらの流れをお借りしています。

▼お借りしました!
いるいさん宅:アマナちゃん、ミアくん


 白い服、派手な花冠。
 隣に立つ春の色も同じ白のワンピースに、自分のものよりももっと華やかな花冠。
 とっても似合ってるよ、なんて、能天気な顔して笑ってる。そんなことあるはずない。服の良し悪しなんて知らないけど。

 少しだけ苛立ちながら、シックスは春の、アマナの後ろを歩いていた。彼女の傍には綺麗にハートカットされたトリミアンが控えている。シックスは傍にムシャーナのレーヴを漂わせながら、いじけるようにそのゆめのけむりを指でいじった。

「年に一度、夏の季節にラウルタウンにメロエッタが遊びに来るんだって」
「……そう」

 アマナが振り向きながら笑ってそんなことを言ってきた。
 知っている。でも、知っているとは言わなかった。だってこれは、終末に向けての"おつかい"。だから。

 ―――利用してやろう、って、思った。

「会えるといいね、メロエッタに」
「そうだね」

 どこまでも楽しそうに、どこか嬉しそうに、踊るように、歌うように、彼女はころころと笑っている。
 分からない。何が楽しいのか。何がそんなに嬉しいのか。分からない。でも、”メロエッタに会いたい”はその通りだから頷いた。
 メロエッタと接触しデータを収集すること。それが”おつかい”。
 メロエッタは好奇心旺盛で、他人の歌や踊りに誘われてくるとかこないとかで、接触さえすればあとは撮影ドローンロトムがデータ収集をサポートしてくれるらしい。

 シックスは歌も踊りも経験がないし、興味もなかった。
 だからせめて、メロエッタが現れたときに勝手に無邪気にはしゃいでくれる、エウを連れ歩いていればいい。そんな風に思っていたのだけれど、アマナに会って、なんとなく、本当になんとなく、そんな気分ではなくなってしまったのだ。
 だから、傍で一番落ち着く、レーヴを控えさせている。

「どうかした?」

 ひょこ、と花冠を揺らしてアマナがシックスの顔を覗き込む。きょと、と一瞬止まって、何でもないよ、と答えた。
 彼女はまた笑って身を翻して、目の前を指差す。

「ほら、早速会えたよ!」

 そこにいたのは紛れもなくメロエッタで、自分たちの声に反応してきたのか、ボイスフォルムをしていた。
 こんなに早く”おつかい”を達成できるなんて。そう思うと、気分は少し高揚した。また終末に近づける。

 終末が近づけばようやく―――……『   』。

「……じじさま……」
「……シックスさん?大丈夫?」

 思わず口に出した言葉を、彼女の声で噤むことができた。
 しかし同時にカタカタとシックスのボールが揺れ、中から一匹のポケモンが飛び出してくる。

「……ジジさ、……アーネラ」

 ジジーロンのアーネラ。普段彼女のことを”ジジさま”、と呼んでいることもあり、反応して出てきたのかもしれない。
 それでも、穏やかで大人しいアーネラがシックスの指示なく飛び出してくるのはかなり珍しいことだ。
 アマナはアーネラを見上げながら、驚いた顔をしている。

「アーネラ、どうしたの……」

 シックスが問いかけるのを遮るように、アーネラはぐいぐいとシックスとアマナの背を顔で押し、メロエッタの方へと向ける。まるで、歌って、と言っているように。

「わっ……!この子もシックスさんの……?」
「……そう。アーネラ、って言うんだ」
「アーネラ……ふふ」
「……なぁに?」
「ううん。この子なんだか」

 彼女はまた、ふわり、と、微笑んだ。
 まるで、妖精のように。

「とっても楽しそう」

 バウッ、と返事をするようにアーネラが一声する。
 その理由が、シックスには分からなかった。――――――今のシックスは、分かろうとしていなかったのだ。

「っ、待って……”ジジさま”」

 そのままアーネラに押し出されるようにして、メロエッタの前に立つ。メロエッタは楽しそうに、酷く無邪気に、アマナとシックスの手を取った。

 ―――ただの簡単な”おつかい”、のはずだったのになあ。

 心の中でぼやいて、その手を掴み返した。

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