💉進めるだけ前に

こちらの流れをお借りしています。

▼お借りしました!
倉橋さん宅:レフティアさん、ロスカくん


 バトルに誘ったのは自分だが、こんな形でレフティアの実家に来ることになるとは、そしてそこでバトルをさせてもらえるとは、テオは思ってもいなかった。もちろんそこはたくさんの客が訪れる旅館ではあるが、それでも少し緊張した面持ちで案内されるがままバトルコートへと向かう。
 古風で、趣のある立派な旅館だ、と純粋に思う。ここの客室に以前レフティアが言っていた、彼女の作品があるなら普段のテオであれば素直に見て見たい、と思うのだろうが、そんな心の余裕はテオには存在していなかった。
 リーリオのモンスターボールを握りしめたまま、綺麗に手入れの行き届いた廊下を静かに歩く。その道のりがとても、とても長く感じた。
 しばらくすると、広いバトルコートが見えてきて、テオが躊躇うように入口付近で足を止めると、レフティアは真っすぐ、向かいの位置へと立った。
 自分の突然の誘いを馬鹿にすることも、追及することもなかった彼女は、一つのプレミアボールを大切そうに持ちながら自分を待ってくれているようにも見えた。

「リーリオ」

 一歩、前に出る。
 上へ放ったモンスターボールはそのまま空中で開き、真白の彼はゆっくりと上空を旋回してから地面へと降り立った。
 それを見届けてから、レフティアもプレミアボールを放つ。

「ロスカ、お願いします」

 放たれたきらめきと共に現れたのは、とても精悍な顔つきのラプラスだった。凛としたその雰囲気に少し圧倒されながらもしっかりとレフティアに、ロスカに、向き合う。
 はじめてともに並ぶ子、とレフティアは言った。それはつい最近ゲットしたから……という理由ではないだろう、ということは彼女の顔を見れば分かる。理由は定かではないが、今は深く考えている場合ではないと首を横に振る。

「……テオさま」
「……ううん、大丈夫」

 レフティアの少し心配そうな、それでも励ましてくれるような声に、テオは彼女を見据えて、彼女へと届かない手を伸ばす。

「俺は、君のことをもっと知りたい」

 その手を今度は自分の胸元へ。

「俺のことも、知ってほしい」

 リーリオの背中を撫でると、彼はちらりとテオを見やった後、またふわりと上空へ飛び立った。
 彼女がどんな表情でこの言葉を聞いたのか、読み取り感じ切れぬほどテオは自分に自信がなかったのだ。だから、こそ。

「リーリオ、”でんじは”」

 バトルの合図と同時に、テオは彼に指示を飛ばす。トゲキッスとラプラス、種族的にはトゲキッスであるリーリオの方が素早いはずだ。タイプ相性で言えばひこうタイプを持つリーリオの方がこおりタイプを持つロスカには不利にあたるため、素早くトリッキーな動きで牽制したい、というのがテオの考えだった。
 しかしレフティアの指示はそれよりもさらに早かった。

「ロスカ、”しろいきり”です」

 彼の周りが、言葉通り白い霧で覆われる。目くらましの意味合いと、同時に能力ダウンを防いだのだろう。さすがだ、と身が引きしまる。
 あの霧を早々に払わなければ、後々とても厄介だ。

「”エア”―――ッ」

 リーリオが持つ、唯一のひこう技。その風圧で霧を吹き飛ばそうと指示を出す途中で、テオの言葉は止まってしまった。
 その一瞬を、レフティアは見逃さない。

「”フリーズドライ”」

 凛、と彼女の声が響く。霧の間から冷気を伴った技がリーリオ目掛けて振ってくる。

「っ、”マジカルフレイム”!」

 氷技と相性の良い炎技。間一髪で放ったそれはフリーズドライとぶつかって蒸発し、また白い霧を発生させる。
 もし”マジカルフレイム”がロスカにヒットすれば能力ダウンが狙えるのだが、今はそれも霧のせいで見込めない。
 血の気が引く感覚。手足が震える。攻撃技を―――特にその技を口にすることが、恐ろしくて仕方がない。

「ロスカ、もう一度”フリーズドライ”です」

 彼女の声が聞こえる。自分の為に、彼女は真剣に戦ってくれている。それなのに、自分は。どうして。

「リーリオ!」

 拳を握りしめて、地を踏みしめて、半ば叫ぶように指示を放った。

「―――”エアスラッシュ”!」

 もう、こんな自分は嫌だ、と。




▽リーリオ/トゲキッス♂
【性格】ひかえめ
【特性】てんのめぐみ
【持ち物】なし
【技】でんじは、エアスラッシュ、マジカルフレイム、マジカルシャイン

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