💉確かな想い

こちらの流れをお借りしています。

▼お借りしました！
倉橋さん宅：レフティアさん、ミュラッカさん

---

　――――感情を感じ取りやすいというのも、考えものだなと思う。
　目の前の美しいユキメノコはとても好意的に接してくれる。それには僕も悪い気はしない。まだ出会ったばかりの彼女の感情全てを読み取ることは難しいけど、少なくとも、彼女自身も本心から好ましく思ってくれているのだと感じる。
　でも、"それだけ"ではない。

『……そうだね』

　握手を交わした手を離して、歓談しましょうと誘ってくるミュラッカに軽く頷いて答える。テオはテオで感情が忙しいみたいだし、今はあっちに口を出すのも野暮だし、なんて呑気に考えてしまうから、オスカーによくマイペースだなんて怒られちゃうんだろうなあ。
　それに僕はタブンネという種族にしてはあんまり優しい方ではないと思うから、否定も、肯定も、拒絶も、受容もしないんだけど。

『今はテオも、君の主人も忙しいみたいだし……ね。僕でよかったら』

　僕としては、このまま２人がいい感じにならないかな～なんて思ったりするから、邪魔が入らないようにしないとね。

＝＝＝

　彼女の手は暖かだった。
　ふと顔を見ればその頬は少し赤らんでいて、その柔和な微笑みと相まってテオに安心感を与えてくれていた。
　こんなにも触れると壊れてしまいそうな繊細さを持っているのに、とても大きく、強く感じるときがあるのは、何故だろうか。

「ありがとう。……ごめんね、情けなくて」

　傍を離れない。そう約束してくれたレフティアの言葉に、素直に礼を述べる。同時に自分の弱さに謝罪の言葉を含めてしまった。
　弱さ、というものはテオにとって簡単に他人に曝け出せるようなものではなく、しかし彼女には、レフティアには、意図せず言葉と態度に現れてしまうのだ。
　それがどうしてなのか、テオはもう知っている。握りしめていた手を少しだけ緩めて、笑みを返した。

「バトル、本当に久しぶりだから……変に気を張っちゃってるのかも」
「大丈夫です、テオさま。わたくしがついています」

　レフティアが可憐な笑顔で答えてくれ、手を握り返してくれる。テオはまた心強さをもらって彼女の手を握り返した後、自分たちの後ろで握手を酌み交わす二匹に声を掛けた。

「フェイ……あとミュラッカちゃんも、改めてよろしくね」

　あとはキノスくんとかと一緒なの？なんて雑談を交えながら、彼女の手を軽く引くようにして歩き出す。チェックポイントを目指して……なんて言っても、どうせ迷子になってしまうのだから、せめて彼女との時間を不安なものにさせないように。

　ふと、また春の日のことを思い出す。
　あの時の自分たちは、ただレフティアが困っているところに、偶然、たまたまそこに居合わせただけの出会いで、たった数時間だったけれど、彼女の涙を見て、彼女の温かさに触れた。
　弱さ、というものは、テオにとって簡単に他人に曝け出せるようなものではない。それがどうしてなのか、テオは知っている。
　あの日、涙を見せてくれた彼女は、少なくとも自分に、明確に弱さという自覚はなくともそれを見せてくれたのだと思う。

それが今、改めて、嬉しいと―――愛おしい、と思うのだ。