💉わたし、は

こちらの流れをお借りしています。
▼お借りしました！
とわさん宅：ユニちゃん、アインくん、リコルくん

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　あれは、何十年前のことだっただろうか。
　今目の前にいる少女よりも、まだ幼かった頃。まだ、旅に出る前、それこそ、自らのパートナーと出会うよりも前のことだ。
　父も母もポケモンドクターで、しかしポケモンセンターなどには勤めず、野生のポケモンが多く生息する洞窟や森の近くに移動しながら治療を営む家系だった。テオも、物心ついた頃には治療の知識を両親から教えられ、その手伝いをしていた。
　幼い頃は、両親が自慢だった。両親は腕の良いドクターで、どんなポケモンのどんな怪我や病気でも治して見せた。自分もそんな風になりたいと、一生懸命に両親の真似をして。
　ある日、怪我をしている野生のポケモンに出会った。幼い彼は今の持てる全ての知識と技量で、そのポケモンを治療した。そして、怪我をしたその子を両親の元へ連れて行った。

「父さん、母さん、この子を助けてあげて」

　両親は、酷く冷たい目をしていた。
　治療が施された、自分の息子が抱えているそのポケモンを見てさらに表情を曇らせて、彼の頬を叩いた。

「どうしてそんな余計なことをした？」
「え……？」
「野生のポケモンを助けても、何の金にもならないだろう」

　その時、ようやく気が付いた。
　野生のポケモンがたくさん生息する、ということは、ポケモントレーナーがたくさんバトルをし、傷付く可能性が高いということだ。さらに近くにポケモンセンターがなければ、おのずと近くにいるドクターを頼ってくる。
　だから、そういった地域に移動するのは、そこに住むポケモンたちを助けるためではなく、怪我をしたポケモンたちを連れてくるトレーナーから治療費を巻き上げるためだった。

　褒めてもらいたいわけではなかった。
　でも、その事実に酷く、嫌悪したのだ。

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「……今まで、どんな街に行ったの？　旅の話、……きいてみたい」

　そう言うユニが、少しだけ寂しそうに見えた。
　テオにとって旅とは、ずっと身近にあるものだったから彼女がどんな気持ちでその問いをしてきたのかの全ては分からない。
　でもきっとこの子は、旅に憧れを抱いているんだろうな、ということは察することが出来た。

「そうだな……。じゃあ、こんな話はどうかな」

　だから、一つ一つゆっくり、自分の旅の話をした。
　といっても、自分は目標や目的地を持たない。野生のポケモンたちを治療しながら、ただただ歩いているだけ。
　一つの小さな出来事の話も、ユニは目を輝かせながら聞いてくれた。それは、純粋に嬉しかった。

「俺が旅に出たとき、パートナーはフェイだけだったんだ。アメリーとオスカーは、旅の途中で出会って」
「……そう、なの？」
「うん。成り行きだったけど……そういうのも、旅の醍醐味ってやつなのかも」

　ふ、と自分のパートナーたちに目をやると、アメリーは同種族の同じ色違いということが嬉しいのか、リコルとじゃれ合っていてとても楽しそうにしている。
　オスカーはというと人見知りなこともあって率先してその輪に入ろうとはしていない。しかし、近くで自分に興味を示してくれているアインを気にかけているようで、ふるる、と小さく鳴いて話しかけているようだった。
　ユニもそれを、楽しそうに眺めている。しかしその表情も、やはりどこか寂しそうだった。

「……余計なことを言ったらごめんね」
「……？うん」

　放っておけなくて、つい、そんな前置きをしてしまって。
　ユニは不思議そうに首を傾げて自分を見上げている。だから、出来るだけ優しく。

「ユニちゃんも、旅に出たいの？」
「……そ、れは……」
「ああ、ごめんね。答えなくていいよ。だから……お節介なお兄さんの独り言だと思って聞いて欲しいな」

　あはは、と誤魔化すように笑って、続ける。

「一歩踏み出すのは、勇気がいるかもしれない。でも、踏み出した先には、新しいことがたくさん待ってる」
「……新しいこと」
「そう。それは辛いことかもしれないし、楽しいことかもしれない。でも、その全部が……自分を成長させてくれるんだって、信じてるんだ」

　信じたい、と。
　自分がその一歩を踏み出した時、そこにはいっぱいの罪悪感と、忌避感しかなかったから。

「俺は一人で旅をしているけど、もちろん一人じゃなくたっていい。信頼できるお友達や……家族……が、一緒でもいいんだ」

　ユニの肩が、少しだけ震えた気がした。
　でも、きっと、今のこの子に、言えるのはきっと、自分だけなんだと―――信じたくて。

「やりたいことや、憧れていること……まずは誰かに聞いてもらうことから始めてみるのはどう？」

　パッ、と彼女が顔を上げる。

「―――……わたし、は」