💤非常の日常
こちらの流れをお借りしています。
▼お借りしました!
まにまさん宅:レプスさん
「……ねえ、あの子は放っておいてよかったの?」
冗談交じりに、目の前に立つ彼に問う。
彼―――レプスは少しつまらなさそうな顔をしてシックスを一瞥した後、ふいと顔を背ける。
「無駄口を叩く暇があるなら、さっさと終わらせろ」
質問には答えず顔を背けたまま、彼はそう言った。
深夜。街の明かりが消え、住民が寝静まったころ。この街の宿泊施設にシックスとレプスはやってきていた。宿泊するためではない。シックスの”仕事”のためだ。たまたま自分がこの街に足を運んだ際彼と居合わせたため、気まぐれに誘った。
ただ、それだけのことだ。
「はぁい」
短く返事をして、つまんないの、と続けて返す。
ムーンボールを空へ放る。ポンッと小さな音を立てて、レーヴが飛び出してシックスの周りを漂い始めた。
「レーヴ、今日はぜーんぶ食べていいよ?」
パートナーの”食事”兼、”悪夢”の収集。シックスのメインの仕事の一つであり、もはや趣味になりつつある。
レーヴはゆめのけむりを肥大させて、宿泊施設を薄いピンク色の霧が包み込んだ。
基本的にいつも対象は1人で、施設ごと襲撃することはあまりない。対象人数が増えるほど収集が難しいし、他人に見つかるリスクが高いからだ。
とはいえ侵入する必要もない比較的簡単な仕事だが、気まぐれに施設を襲おうと思ったのは、彼がいるからだ。
「もし異変に気付いた誰かが来たら、応戦よろしくね」
「……相変わらず悪趣味だな。それに、バトルならお前の方が」
眉間に皺を寄せたレプスが怪訝そうに溜息をつく。シックスはへらりと笑顔で返した。
「いいじゃん。そういう気分なの」
「……本当に俺は必要だったか?」
「それなりに」
「おい……」
レプスの眉間の皺が深くなる。それが面白くてクスクスと笑えば、彼の機嫌を完全に損ねてしまったようで、
「興覚めだ。帰る」
踵を返し去ろうとするレプスの背に、
「へえ、あの子のところに?」
マントが靡く。足を止め、こちらを振り返って、一睨。
その空間は時間が止まったかのように、酷い静寂だった。
「なんだ、今日はやけに突っかかってくるんだな」
「別に?」
それでもシックスは気にした素振りなど全く見せず、一歩、一歩、雪を踏みしめてレプスに近付く。彼は顔を顰めたまま、逃げない。
「ねえ」
その襟首を掴んで、引き寄せる。
「レプスさんの悪夢も、僕が取ってあげよっか」
手が振り払われる。
彼のことだ、襟首を掴まれる前に避けることも払うことも出来ただろうが、それをしなかったのは単なる気まぐれだったのか問いかけへの興味だったのかは分からない。
無事腹の満たされたレーヴが満足そうにふよふよと戻ってくる。その頭を撫でて、去っていくレプスの背中を今度は黙って見送った。