✉️空を臨む
こちらの流れをお借りしています。
▼お借りしました!
カナリアさん宅:メイメイさん、ジェンくん
ナハトが地面に降り立つ瞬間に”じしん”をぶつけられたのは、正直予想外だった。ひこうタイプには地面技は無効、その概念を一気に覆され、イゼットは俄然―――楽しくて仕方がなかった。
ナハトをバトルに選んだのには理由がある。
ひとつめはなかなかバトルをさせてやれないこと。イゼットの配達の相棒であるナハトは長時間飛び回っていることが多く、体力温存の観点からバトルに選ばれないことが多い。だから、次の仕事がない今日という日に、バトルをさせてやりたかったから。
ふたつめはタイプ相性。でんきタイプであるタイカイデンのラオとほのおタイプであるヒノヤコマのアルバでは、ガブリアスであるジェンの相手としては相性が悪すぎる。キャモメであるピピであればその点は解消なのだが、のんびり屋な彼女はあまりバトルを好まないのだ。
そしてみっつめ。相手がメイメイだからこそ、その全てをひっくるめて本気で、全力で戦うための相棒は、ナハトしかいないと思ったのだ。
「めっちゃ分かります!その気持ち!」
滅茶苦茶だからこそ、ポケモンバトルは楽しい。
声を上げて、笑顔を返す。楽しい、嬉しい、負けたくない。勝ちたい。全力でこの人と戦いたい。全力のこの人を、全身で感じたい。
「ナハト」
だからこそ、追撃へ向かう最初の一手は冷静に。
「……”はねやすめ”」
イゼットが息を深く吸い込み、吐き出すと同時に放つ指示に、ナハトも地面へ降り立ったまま翼を閉じる。受けた傷が、全てではないにしろ徐々に癒えていく。
しかし、それを黙って見過ごす彼女ではない。
「ジェン、もう一度”じしん”!」
”はねやすめ”の最中は地面に降り立つ関係でじめん技は有効になる。しかもはがねタイプであるナハトにじめん技は効果抜群だ。それを瞬時に判断して最良の指示を放つメイメイに、そしてそれに応えまた激しく地面を揺らすジェンに、また心が湧きたった。
それの最良の答えは、上空へ躱すこと。分かっている。
「かわすな、ナハト!”てっぺき”!」
”じしん”を”てっぺき”で受け流す。2度目の”てっぺき”は無事”じしん”到達前に発動出来たようで、もちろん無傷とはいかないがイゼットの思惑通りに攻撃をいなし、防御力もあげられた。
「なにそれ!硬すぎるわよ!」
「”ドラゴンクロー”で突っ込まれてたら、危なかったですけどね。”じしん”なら間に合うかもって思いました!」
そう言うメイメイは楽しそうで、イゼットもまた楽しくなる。この時間が、もっとずっと続けばいいと思うほどに。
「”お望み通り”、長期戦といきましょうか!」
”はねやすめ”を終えたナハトはふわりと上空へ飛び立ち、地面を踏みしめるジェンを見下ろす。イゼットは目の前のメイメイを見据えて、少しだけ煽るようにそう告げれば、彼女の口角が上がったように見えた。
「生意気言うじゃない!―――”アイアンヘッド”!」
「こっちも”アイアンヘッド”!」
猛スピードで飛び上がってきたジェンと、上空で待ち構えるナハトの鋼鉄の頭部同士がぶつかり合う。耳につく金属が擦れ合うような音が響き、二匹はお互いに弾かれて宙を舞った。
「ジェン、ナハトの足を掴んで落として!”ドラゴンクロー”!」
メイメイの声が響く。その声に応えてジェンは空中でくるりと体勢を立て直し、腕を伸ばして指示通りナハトの足を掴む。同じく体勢を立て直して空中へ舞い上がろうとするナハトは瞬間にバランスを崩し、その”ドラゴンクロー”は見事に命中した。
その判断も、スピードも、驚くほど速い。あっという間に地へ、堕ちる。
「その腕、絶対に離すなよ!ナハト!」
イゼットは咄嗟にそう指示し、ナハトは掴まれている足とは逆の足でジェンの腕を掴んで見せる。
こんなことで、負けを認めるわけにはいかない。空にいさせてもらえないなら、何度その身を地に伏せようが、
「地面に叩きつけろ!”ボディプレス”!」
ナハトの巨躯が腕を掴まれたジェンと共に地面に堕ち、轟音を立てる。”じしん”を打たれたときのように、地面が揺れ土煙が上がる。
それはなかなか晴れず、シルエットのようなものが見えるがどちらが立っているのか、倒れているのか、それすらも曖昧だ。
「メイさん、ナハトを地上に引きずり下ろしたかったですよね」
土煙で、声を掛ける相手の様子は伺うことが出来ない。それでもきっとその声は届いているだろうと思って、イゼットは続ける。
「それならオレたちは何度でも、空を臨むだけだ」