☀️🌙和裁士双子のお誘い
▼お借りしました!
まにまさん宅:シエルさん
(出張王飯店さんのメニュー)
ケイとユイが知る限り、この地方ではまだ和服を着ている人は少なく、今お祭りで見かける人たちの中にもほとんど見かけない。
そんな中ラフな着物に身を包んだ自分たちはもしかしたら少し目立つかもしれないが、二人ともそんなことを気にする様子はなくのんびりと食べ歩きをしながら歩いている。
それに、満開の桜が見れると聞いている。その花は、自分たちの出身地に縁ある花だ。
「あ、これも美味いなあ。ユイも食べる?」
「ええなあ。ケイ、一口」
持っていたユニランの形をした肉まんを千切って、ケイは片割れの口に放り込む。うまあ、と声を漏らすユイを見て、ケイも笑った。
お返しに、とユイが持っていたバイカラーの紙コップを差し出せば、ためらいなくケイはそこに刺さっていたストローに口を付ける。同じように、うまあ、と声を上げる。
普段の食事の場はともかく、基本的にこういう場では一つのものを二人で分けて食べることが多い。たくさんの種類を多く食べたいという意味合いもあるが、こちらの方が"楽しい"からだ。
仕事帰りにふらっと寄ってみた祭りだったが、正解だった。今日はもう営業終了。このまま食べて飲んで帰るのも悪くはない。
「……あ、ケイ。あれ」
「どうしたん、ユイ。……ああ」
ユイがストローを咥えたまま前方を指差し、それにケイも顔を向ければすぐに察して相槌を打つ。そして二人とも顔を見合わせて、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
視線の先には自分たちよりもはるかに長身の、バイカラーのショートカットの女性。知り合いの後ろ姿だ。
二人は示し合わせてもいないのに彼女の左右を挟み込むように駆け寄る。
「エル、奇遇やなあ」
「エルも来はってたんやね」
するりと左右から顔を出すと、彼女——シエルは少し驚いた表情を見せたが、きちんと返答してくれる。
「ケイ、ユイ。……お疲れ」
お疲れさん、と二人も言葉を返し、ナチュラルに彼女の左右を歩き出す。
シエルとはこの祭りに来るまで、同じ現場で仕事をしていたのだ。お互いの職業柄顔を合わせ言葉を交わすことは少なくはない。とはいえ、ジャンルの違いから全く同じ作業をすることはほとんどないのだが。
「エル、一人なん?」
「せやったら、ボクらと一緒に回らへん?」
「え?」
唐突な誘いに彼女は困惑の表情を見せる。嫌、というわけではなさそうな雰囲気を感じ取った二人は畳みかけるように誘導し始める。
「ボクらの奢りやから、ええやろ?」
「あ、でもエル……確か小食なんやっけ」
「じゃあちょっと食べて、お酒飲むのもええなあ」
「この辺の蜂蜜酒、美味いって言うよなあ」
「まあ、ボクらもほとんどそれ目的やんな」
「せやった!食べ物も美味しくて忘れるとこだったわ」
小気味いい会話を二人で繰り広げたあと、もう一度くるりとシエルの方へ向き直り、笑顔を浮かべる。
「「一緒に行こぉ?」」
二人の声が重なった。