💤一息
こちらの流れをお借りしています。
▼お借りしました!
いるいさん宅:アマナちゃん
――――……最高だった。
アマナとのバトルは込みあがる熱情と、焦燥が入り混じって、それが終わってもまだ興奮が続いていて。
”ご褒美”を、早々に強請ってしまった。
「……夢、って言ったけど」
「いい夢見れるよ」
ねむり状態のカビゴンの腹の上と、トリミアンのコットンガードのベッドを選べ、と彼女は言う。
はあ、と一つ溜息をついて、トリミアンのコットンガードの方へ近づき、触れる。想像以上にふかふかとしていて、確かに世間一般的に言う、所謂『いい夢』が見れそうだ、と思う。
「……僕が欲しいのはそういうのじゃなくて……」
「え?違った?」
きょとんとするアマナに説明する気も失せて、また溜息混じりにもういいよ、と返す。彼女はシックスがコットンガードのベッドを選んだと判断したようで、カビゴンの腹の上で寝支度を始めた。
シックスが欲しいのは、彼女が思っているような『いい夢』ではない。『悪夢』だ。
表の仕事柄他人の夢を頂くことは多いが、単純にパートナーであるムシャーナ…レーヴの食事になる。
それに、強い悪夢であればあるほど……表以外の仕事に役立つのだ。
強い悪夢は例えそれが他人の物であろうとも、人を恐怖させるには十分だから。
「じゃあ、シックスさん。おやすみなさい」
明るい声で、アマナがそう就寝の挨拶を掛けてくる。目線だけそちらに向けて仕方なくコットンガードに腰掛けると、彼女は満足気に笑った。
「今日は楽しいバトルをありがとう」
彼女が布に包まってしばらくすると、規則的な寝息が聞こえてくる。隣で同じように寝ているヌイコグマも、ベッド代わりにされているカビゴンも気持ちよさそうに眠っていて、目を覚ます気配はない。
少しだけ、イライラしていた。
バトルは最高だった。自分の鬱憤を晴らすために無理矢理誘ったバトルだ。それなのに、彼女は心底嬉しそうだった。そんな相手の突然の要望に応え、無防備に寝姿を晒している。
その、能天気さに。
「……あは、間抜けな顔」
パートナーが入ったムーンボールを空へ放る。夜闇には眩しい輝きを放って、ゆっくりとムシャーナが飛び出した。
シックスは眠るアマナの隣に屈んでいる。レーヴ、と名を呼ぶとムシャーナはふよふよと彼女に近付いていく。レーヴにとっての”いい夢”の気配を感じているのだろう。
「食事の時間だよ、レーヴ」
ゆめのけむりをアマナに纏わせる。そして飲み込むように息を吸うと、断片的にではあるが彼女の夢が顕現する。
マゼンダの髪の少女とビビヨン。彼女の手持ちであろうチラーミィ。感じるのは喪失感と絶望感。しかしそれよりももっと大きな感情はパートナーを守れなかったという自責、悔しさ。
レーヴはそれらを躊躇いなく食していく。シックスはそれを、ただ眺めていた。
「……美味しかった?」
食事をし終えたらしいパートナーに声を掛けると、肯定するようにシックスの隣についてまたふよふよと漂い始める。その頭を緩く撫でて、ふとアマナに視線を向けると、一筋の涙が頬を伝っていた。
それを興味本位で、掬い取る。
「……おやすみぃ、”よい夢”を」
もう彼女に用はない。
さっさとここから離れてしまおう。そう思ったのだが、気まぐれにまたコットンガードのベッドに腰かける。ふわふわで、柔らかくて、その感触に思わず背中から身を預けてしまった。
身を捩って、顔を埋める。とろんとした、眠気がやってくる。
「ま……いっか……」
そんな独り言を呟いて、目を閉じる。先ほどまでの苛立ちが、まるで嘘のような解放感。
いつ振りだろうか。こんなにも、満たされている感覚は。