✉️宵の口
こちらの流れをお借りしています。
▼お借りしました!
カナリアさん宅:メイメイさん
「ごめんね、ヘンなこと聞いて!」
そう言って笑う彼女が、少し寂しそうに見えて。
「案内してくれてありがとう!帰りましょっか」
そんな顔をさせたかったわけじゃないのに、そんな顔をさせたのは自分なんだと思い知って。自分の腰を握る手が、震えているように感じて。
はい、と小さく返事をしてから、しばらく静かな時間が続いた。ナハトは確実に帰路につく空路を辿っていたが、全てを察したようにゆっくりと飛行していた。
故郷のことを、今まで聞かれたこともなかったから、明かしたこともなかった。別に隠していたわけではない。でも、楽しい話でもないから、自分から進んで口に出すこともなかった。
しかし何故か次いで出た自分の言葉でメイメイが傷ついてしまったのなら、その気はなくとも間違いなく自分の責任だ。
少しの罪悪感を感じている中で、なぜか、どこか冷静な自分がいて、この人になら話してみてもいいかな、と感じた。
だからその沈黙を、自分から破った。
「……ありますよ」
「……え?」
彼女の静かな返答が聞こえる。
前を向いたまま、イゼットも静かに言葉を続けた。
「ありますよ、故郷が恋しいと思ったこと。しばらく帰ってない、って言いましたけど、実際は帰ってないんじゃなくて、帰れないんです」
もうすぐ日が暮れる。太陽が、海に落ちる。
その様子を目に焼き付けながら、風を受ける。髪が靡く。そういえば帽子を被り損じたな、と思ったが、後ろのメイメイが気にしていなさそうな様子だったので、まあいいか、と思う。
「どうして?」
そう聞き返してくれる声に、少し、安心した。
「オレ、不良息子だから!親父に勘当されてるんです」
それでも彼女に傷付いて欲しくはなくて、出来る限り明るい声で答える。日が暮れて、空が真っ暗になる前に彼女を家に帰してあげたくて、ナハトにスピードをあげるように指示を出した。
「でも、ここは自分で選んだ路だから……後悔してません」
ちらり、と後ろを振り返る。彼女と目が合って、やはり少し寂しそうだったけれど、ぽつり、
「……そっか」
とだけ言った。
その言葉の数秒後、ナハトがくんっと体勢を変える。それから大きく翼を広げて、地面へと着陸した。
幸いにもまだ日は完全には落ちておらず、僅かに残る光が、彼女の家を照らしていた。
イゼットはナハトから飛び降りて、メイメイに手を貸す。その手を取って地面へ足をつけるのを確認してから、そっと手を離した。
「改めて。今日は、本当にありがとうございました!話、聞いてくれて嬉しかったです」
「こちらこそ、楽しかったわ」
持っていた買い物袋をメイメイに渡せば、彼女は楽しそうに笑って答えてくれる。
また何かあればいつでも呼んでください、と、いつもの決まり文句を置いて、背を向けた。一歩、二歩、前に進んで、思い出したかのように振り向く。
「あ、それから」
手に持っていた帽子を被り直しながら、ふ、と目を細めた。