伊藤和子は劣化ウラン弾問題で小泉悠を相手に公開討論せよ
劣化ウラン弾についてのHPを削除していた広島市は、市民からの抗議を受けて記述を復活させた。この問題はネットの中では大きな騒ぎになったが、テレビ報道は全く伝えず、余波もなく沈静化した結果に終わっている。TW検索で「劣化ウラン弾」と入れて反応を見ると、世論全体としては批判的な意見が多い。英国や広島市や小泉悠らを非難する草の根の声が多い一方、マスコミが取り上げないため公論として盛り上がらず、フェイドアウトの方角に向かって黙過する状況になっている。マスコミの中では、毎日新聞が広島市のHP削除の件を記事にしたが、特に広島市の削除行為を不当視した論調や趣旨ではなく、淡々と広島市の言い分を載せ、それを認めた内容になっている。小泉悠らの佞悪な所論を批判したマスコミは1社もない。
地方紙の中国新聞は、この問題について当初からまともな報道をしていて、3/25の記事では「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」顧問の森滝春子のコメントを載せている。だが、広島市がHPを削除した問題に関する記事は見当たらず、中国新聞が広島市に忖度している様子が窺える。G7広島サミットを前にして、劣化ウラン弾問題で広島の現地が波風を立てる行動に出て、岸田文雄の「業績」を邪魔したくないという、何やら保守的な動機が透けて見える。本来なら、広島市も、中国新聞も、被曝者7団体や森滝春子と声を一つにして、劣化ウラン弾のウクライナ供与に断固反対する動きを作らなければいけなかったはずだ。それが被爆地広島の責任であり使命だろう。ロシアを利する政治姿勢になるから自粛自制するという論理や弁解はナンセンスきわまりない。
広島市はHPの削除と更改に当って、劣化ウラン弾の人体への影響は完全には立証されていないという見方に配慮し、その認識に立つことを表明している。毎日新聞の取材に対してそう答えている。削除前のHPの内容は、人体に有害で放射線障害で健康被害が生じると断定した表現だった。その観点と立場に立っていた。今回、明らかに見解を変え、小泉悠や高橋杉雄の方に寄ったスタンスになっている。劣化ウラン弾の有害性の科学的知見について慎重で臆病な判断になっている。米国や英国や軍事専門家(CIA)の説明に耳を傾けて納得し、その言い分を認めた態度になっている。この態度は明らかに問題であり、後退あるいは日和見と批判されるべきだろう。毎日新聞が大勢順応してこの態度に即くのは看過できるけれど、広島市がそうなるのは座視できない。倫理的に許されないと思う。
前の記事にも書いたが、放射線被曝の深刻な人体影響について、また被爆地の土壌に残留する放射線とその被害について、広島・長崎に原爆を投下したアメリカは、その実態を科学的に調査して確認しながら、その事実を認めなかったのである。自分たちに不都合な事実だから隠蔽し、ウソを言って騙し続けた。グローブスは「残留放射線は皆無です」と断言した。そして調査を担当した研究員に対して、文書やデータをすべて廃棄しろと軍命で指示を出した。実態が科学的に証明されれば、国際政治上のアメリカの立場が悪くなり、冷戦下での核兵器戦略に悪影響を及ぼすから、上から圧力をかけて事実を封印した。同じ事が、湾岸戦争、イラク戦争、ボスニアとコソボの紛争での劣化ウラン弾で起きていて、同じ理由と動機で、アメリカとNATOが事実を隠蔽し歪曲し、今度もまた嘘を信じ込ませていると考えるのは道理ではないか。
英国による劣化ウラン弾のウクライナへの供与と、それを正当化する小泉悠や高橋杉雄の言説の根拠は、「劣化ウラン弾の人体への影響は証明されてない」という命題である。果たして、この命題なり主張はどこまで真実として了解でき、前提できるもので、客観的認識として判断の根拠にできるものだろう。例えば、3/20に放送されたNHK国際報道に登場したイラク環境省の専門家は、劣化ウラン弾の使用と汚染によってイラクの当地でがんが大量発生していると明言している。イラク政府の科学的判断を国際社会に対して示している。単にそれが国際社会全体の共通認識になっていないだけだ。もっと具体的に言えば、米英NATOは人体への影響を認めてないが、EU議会は認めていて禁止を求める決議を上げている。劣化ウラン弾の人体への影響については、「ある派」と「ない派」に政治的に分かれて対立している。
ここで提起したいのは、広島・長崎の「黒い雨」の被曝被害の問題である。「黒い雨」の人体への影響とそれをめぐる科学的論争と政治的経過をわれわれは想起すべきだと言いたい。問題の構図と本質が同じだからだ。ここに2021年7月の広島高裁判決の朝日の記事資料がある。この「黒い雨」裁判の判決は画期的なもので、被爆者認定の国の基準を広げ、「黒い雨」が降った地域の住民にも被爆者健康手帳を交付して救済すべしとするものだった。長年にわたる「黒い雨」被曝者の救済運動が成就した瞬間でもあった。被爆者として認定してくれという原告の求めに対して、国は「十分な科学的知見に基づいていない」、つまり十分な証拠がないとして拒否し、原告側の要求を認めた一審判決を不服として控訴していた。高裁判決の判断根拠の論旨について、朝日の記事はこう要約している。
つまり、従来は、「黒い雨」と放射線被曝被害との因果関係が正しく認められず、それが科学的に立証されないとして、国は被害者を被爆者と正式に認めず放置し知らん顔していたのである。救済対象から排除していたのだ。だが、ようやく裁判所は判断を変え、因果関係の科学的立証を唯一絶対の知見にするのではなく、放射線被害を否定できないという点を知見の根拠にせよと論理を逆転させたのである。画期的だ。まさに被曝被害者に寄り添った判決である。これはおそらく、水俣病やサリドマイドなど公害や薬害による健康被害の認定などでも同様の性格の経緯と困難があり、闘争とドラマがあっただろうと想像される。公害や薬害の被害者となった弱者側は、常にこの「科学的立証」の壁によって冷たく門前払いされ、公的救済の道を閉ざされて泣き寝入りさせられてきた。
ここで、「黒い雨」を「劣化ウラン弾」に置き替えたらどうか。発射された劣化ウラン弾が標的に命中すると衝撃で粉塵が空中に飛散する。粉塵は劣化ウラン弾の原料である劣化ウランである。劣化ウランは天然ウランを凝縮する過程で生じた放射性廃棄物だ。放射線を発していて人体に被曝被害を与える。劣化ウラン粉塵は「黒い雨」と同じであり、原発事故で空中に放出された放射性微粒子(ヨウ素、セシウム、プルトニウム、)と同じである。私が言いたいのは、朝日を始めとして、NHKも、ほぼすべての日本のマスコミが、この「黒い雨」訴訟で原告側を応援し、裁判所によるこの最終判断を支持した事実だ。国側の、因果関係を証明する科学的証拠を出せという頑なで非道な主張を支持しなかった。それは、要するに国側の責任逃れの口実であり、門前払いのための「科学」の悪用だったからである。
同じ事が劣化ウラン弾の問題で起きている。さて、前回の記事で名前を挙げた、鎌仲ひとみ、西谷文和、高遠菜穂子らだが、TWのタイムラインを確認するぎり、依然として英国の劣化ウラン弾供与に反対の意見は上げていない。何も触れておらず、全く興味がない如くである。他方、伊藤和子は、前回紹介したアリバイ・エクスキューズ的なツイートに続いて、4/3に1件、4/8に1件、劣化ウラン弾に関する投稿を発信していて、英国政府を糾弾し、劣化ウラン弾を正当化する「評論家」を批判していた。一歩前進が看取できる。けれどもタイムライン全体を見ると、フェミニズムと飲酒性交の問題で室井祐月との喧嘩に熱中していたり、タイのチェンマイに出張で出かけたりと他の件で多忙な様子で、劣化ウラン弾は関心事として二の次、三の次の優先度のようだ。
ヒューマライツ・ナウのTWの方は、SDGsと性的マイノリティとミャンマー一色で、劣化ウラン弾への言及はない。伊藤和子にお願いしたいのは、①ヒューマンライツ・ナウの名前で、英国政府(駐日大使館)に対して直接抗議のメッセージを発信してもらいたいことと、②同様にウクライナ政府(駐日大使館)に対して劣化ウラン弾の配備と使用を中止するよう説得してもらいたいことと、③EU議会とEU委員会にこの問題でオブジェクションを発してもらいたいことである。さらに、④小泉悠・高橋杉雄・東野篤子を相手に公開討論を実施してもらいたい。伊藤和子は劣化ウラン弾問題に長く関わってきたエキスパートであり、正確な知見を持ち、その国際法上の位置づけや経緯もよく承知している。著名なインフルエンサーとして説得力ある議論が期待できる。マスコミも注目するだろう。
この問題の言論リーダーとして登場し、国際社会の論壇に名を馳せることを勧めたい。日本人女性の法曹家で人権団体トップといううってつけの立場であり、必ずスポットを浴びるに違いない。ICBUWの全面的支援も得られるだろう。このままだと確実にウクライナの地上で劣化ウラン弾が使われる。イラクやユーゴと同じように放射能汚染される。否、戦争の規模が大きいだけに、イラクやユーゴを超える大量の使用と放射線被曝が予想される。ウクライナ人が被害者となる。