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フジテレビの長丁場会見 - 質問する記者の力不足で真相解明に切り込めず

1/27、中居正広の性加害問題をめぐって、フジテレビによる二度目の記者会見が行われた。前回の失敗の反省から今回はフリー記者の出席も認めたため、総勢470人超の大規模な会見となった。また時間制限も設けなかったため、午後4時から始めて日付を跨いだ午前2時過ぎまで10時間を超えるマラソン会見となった。フジ8chはCMなしで夜の間もずっと中継を続け、日本中がこの会見に集中する異様な一日となった。開始後、1人目と2人目の質問は核心を衝いていて期待させられたが、その後は記者のレベルが下がり、中身のない同じ質問が漫然と繰り返される退屈な進行となったのは残念だ。また視聴者国民の関心とは無縁な、無駄な説教や演説を始めたり、ジェンダー主義のプロパガンダを絶叫する者が出たりで、途中から興趣が殺げる展開となった。会見の場は無秩序な吊し上げの空間と化していた。

意外に感じたのは、フジ経営陣が、一貫して元プロデューサーAの事件への関与を認めず、トラブルは中居正広と被害者X子の二人の間で起きた私的な問題であるという認識を崩さなかった点だ。Aの擁護に徹した。私は、社長の港浩一と会長の嘉納修治が引責辞任するのだから、昨年12月にフジが発表したところの、Aは無関与というコミットを撤回し、関与を認めて謝罪するのではないかと予想していた。したがって、Aについても懲戒処分が発表されるのではないかと思っていた。それは、被害者の要求に応える上でも重要な問題だからだ。被害者の認識では、今回の性加害事件は、Aと中居正広が仕組んで被害者を罠に嵌めた卑劣な陰謀の結果であり、Aによる(上司部下の立場関係を利用した)性上納という組織犯罪である。が、時を同じくして報道された文春の記事訂正によって、この事件構図は少し揺らいでいる。

事件が起きた日の食事会に被害者を誘ったのは、Aではなく中居正広だった。Aが誘ったと週刊文春が書いたのは、伝聞による誤認だった。だが、被害者が、この食事会を設定して被害者に中居宅に来るよう仕向けたのがAであると認識していたのは事実であり、その認識には根拠がある。被害者の一方的誤解とか勘違いという見方をするのは早計だろう。確かに、港浩一が説明するように、事件の日の食事会にAが関与した(Aが設定して被害者に参加を促した)という物理的証拠はないかもしれない。が、LINEのトーク履歴がないからと言って、また、Aが直接に被害者を誘った事実がないからと言って、Aが関与していないという証明にはならない。被害者の証言によれば、中居正広が当日の直前、「今日は大雨でみんな来られなくなってしまったけど、二人でもいい?」と被害者にメッセージを送っている(文春 1/16 P.16)。

被害者は、この食事会が、Aが設定・調整したものだと確信し、部下の自分が参加することは半ば業務だと心得ていたから、他の全員が都合が悪く欠席になって二人きりの食事会になったとしても、自分は出席するべきだろうと判断して中居宅に向かった。この日の食事会は、長い休養明けの中居正広の復帰祝いをフジの仲間が集まって催す会であり、Aも含めた大人数の食事会という予定だったのだ。食事会には目的と趣旨があった。Aが関与したかどうかを見極めるためには、食事会の元々の目的が何で、誰の発案で、計画と規模がどうであったかを問う必要がある。事件が起きた日の食事会の前、Aが被害者に声をかけて、やはり中居宅で10人ほどが集まってBBQパーティが開かれている。被害者は、事件当日の食事会も同じ仕様だと思っていたわけだが、なぜ被害者がそう思ったのか、事情と根拠を調べれば事実は明確になるだろう。

中居正広は被害者に「今日は大雨でみんな来られなくなってしまったけど」とメッセージを送っている。これは証拠として現在も確認可能だろう。この文中の「みんな」とは誰のことなのか、それを調べれば、事実関係は簡単に明らかになるはずで、被害者の勘違いとか思い込みではなく、Aが関与した食事会だった真実が判明するに違いない。被害者がPTSDを発症して重症化した原因も、単に性加害を受けたからだけでなく、信頼していた職場の仲間に裏切られ、特に上司であるAに騙され生贄にされたからという不信と絶望が大きい。X子の被害感情は、中居正広と同質同量にAに対して向けられていて、責任追及の意思も等しく向けられている。さらに、被害を報告したのに「業務外のことだから」と取り合わなかった管理職3人に対しても向けられている。アナウンス室部長の佐々木恭子は、「大変だったね、しばらく休もうね」と言うだけだった。

その上の編成局長(当時)のCは、フジの関係周囲に「(X子は中居正広と)付き合っていたんじゃないの」と軽口を叩いていた(文春 1/16号 P.16)。自業自得だと言っていた。被害者は勇気を出して性暴力被害を報告したのに、フジの管理職はそれを握りつぶすだけでなく、被害者を侮辱して貶める行動に出て、事件を隠蔽する工作をやっていたのだ。これらの管理職の冷酷な仕打ちの影響で、一昨年夏、被害者のPTSDは深刻な症状へと悪化する。1/27 の会見では、この管理職たちの問題に踏み込む質問がなかった。「プライバシー」を盾にしてフジ側が周到に質問をシャットアウトした作戦が功を奏していた面もあるけれど、質問者が力不足で、肝心な急所に切り込むジャーナリズムができていない。おそらく、フジ側の防衛ラインはそこにあり、港浩一や嘉納修治のクビは簡単に差し出せるが、佐々木恭子や編成局長(当時)への責任追及は断固として阻止する構えなのだろう。これから経営幹部になる人間だからである。

Aについてはフジはどうする気だろう。Aも最後まで守り抜き、取締役に出世させる思惑なのだろうか。港浩一は子飼いのAを後釜に据える意向だという噂だった。1/27 の会見の中で(その前の 1/23 の会見でも)、副会長の遠藤龍之介は、昨年12月に週刊文春が自宅に取材に来て、そのとき初めて事件を知ったと言っている。私はこれは嘘だと疑う。無論、遠藤龍之介のアリバイは万全だろうが、編成局長のCが周囲にペラペラ喋っていたのだから、その情報がコンプライアンス担当取締役でもある遠藤龍之介の耳に届かなかったはずがない。本来なら、アナウンス室部長の佐々木恭子や編成局長のCが、コンプライアンス推進室に報告し、そこから経営幹部に上がらなくはいけない問題だ。だが、なぜか専務取締役だった大多亮に情報が上がり、そこから港浩一に上がったという経緯になっている。1/22 の大多亮の会見のとき、なぜ記者は「誰からその話を聞いたんですか?」と質問しなかったのだろう。質問が出ないから大多亮は何も言わなかった。

推理を組み立てると、佐々木恭子やアナウンス室や編成局のレベルで、さらに専務の大多亮やコンプライアンス推進室のレベルで、また社長の港浩一も含めて、初期の時点で、この事件を二人だけの痴情トラブル(民事事件)として処理するという判断と結論を出していたのだろう。その”定義”を下し、刑事事件ではないという認識を固め、刑事案件にはしないという方針が組織として立てられていたと思われる。「プライバシー秘匿」を理由と根拠にして、すなわち水戸黄門の印籠にして、絶対に外部に漏らさないようにする、フジと中居正広を守るという対応で一貫し徹底させたのに違いない。その理論武装と方針決定に、フジの顧問弁護士である菊間千乃も関わっていたかもしれない。それが崩れたのは、フジ内部の女子アナが週刊誌に匿名告発したからである。文春 1/23 号には、当該女子アナが、自らもAの謀計に嵌められ、上納(未遂)された恐怖の体験を生々しく証言している(P.16)。

10時間も会見時間を要し、100人以上も質問したのだから、その辺の真相が少しでも浮かび上がる結果を残してもらいたかった。が、質問者たちは、回答する経営陣が簡単に逃げて済ませられる幼稚な質問ばかり連発し、そうでなければ感情的に激高して憤懣を吐き出すだけの場面が多かった。フジ側の術中に嵌っていたと言える。ようやく、遠藤龍之介への質疑の中で、「同意・不同意」の急所に一瞬迫ったが、後に続いて問題点を掘り下げる記者がなく、尻切れトンボに終わってしまった。気づかないといけないのは、この会見にフジの弁護士が同席していない点である。フジ側の戦略だろう。フジはこの場で法律論の言質を取らせないため、譬えて言えば、死んで行く特攻隊にこの場を任せたのだ。なので、法律論で切り込む質問者が必要だった。中居正広は民事の不法行為を犯した加害者である。それは本人も認めている。その民事の不法行為は刑事の犯罪行為であり、行為事実は同じなのだ。

具体的には不同意性交である。轢き逃げ事件と同じで、事件は民事事件であると同時に刑事事件である。単刀直入に、被害者に起きた事件を刑事事件として認識していた(している)のかと聴けばよかった。具体的な事実に焦点を当てて聴き出そうとすると、司会がプライバシー保護を盾にして遮断し妨害するから、それを逆手に取り、上昇法ではなく下降法の弁証法を使って、法律の抽象的議論の土俵に引っ張り込み、論理的に追い詰めて、具体的真相を弁明・白状せざるを得ない地平に誘導すればよかった。「同意・不同意」の論点は重要で、だから遠藤龍之介は顔を真っ赤にして立ち往生し、前言を撤回する不首尾となった。そして、フジ新体制とフジお抱えの第三者委に問題を残してしまった。9000万円も解決金が必要な性的トラブルとは何なのか、男女の口喧嘩の諍いでそんな大金が必要なのかと、民事の一般論を切り口にして徐々に引き出せばよかった。具体的なことは聴いてない、法律の一般論を質問しているだけだという論法で攻めればよかった。

外堀から埋める戦法を採ればよかった。いずれにせよ、真相は明らかにされるし、せざるを得なくなる。会長と副会長と社長が辞任すれば済む問題ではなく、信頼回復には日枝久の退任も必要だし、フジの宿痾である性上納問題の全貌が徹底解明されて総括される必要がある。今後、週刊誌はタレコミで得た新事実を小出しにして行くだろうし、被害者の口も滑らかになって行くだろう。フジ内部から新しいリークや告発もあるだろう。問題の中心人物であるAも、いずれはカメラの前に出て説明せざるを得ない状況になる。Aが隠さず真実を語って被害者に謝罪すれば、事件の解明は一段落して世間も納得する。フジがAを最後まで庇い切れるとは思わない。当然、被害者を傷つけた当時の管理職の責任も問われる。


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