蓮舫陣営が自滅した東京都知事選 - 緊張感と戦略思考の欠如、マスコミによる石丸伸二宣伝の奸計
7/7、 東京都知事選の投開票があり、小池百合子が圧勝、石丸伸二が次点、蓮舫が惨敗という結果に終わった。悄然とさせられるが、蓮舫陣営の敗因分析を中心に論評したい。蓮舫が出馬宣言したのは 5/27 で、公示日 6/20 の3週間前である。 当日、都議会で小池百合子の演説があり、知事選への立候補を表明するのではないかと噂されていて、蓮舫がタイミングをぶつける策に出たのだった。怯んだ小池百合子は回避して待機作戦に後退し、一時は立候補を断念するのではないかという憶測まで立っていた。この時点で勝負は五分五分であり、むしろ 4/27 の3補選に勝利した野党陣営に弾みがついて優勢の感があった。国会では自民党裏金問題への追及が続き、マスコミも岸田政権叩きで連日報道を埋めていて、誰もが都知事選は3補選の民意が継続して反映されると考えていた。
だが、ここから右翼・体制側の猛烈な蓮舫バッシングが始まり、怒涛の巻き返し工作が進行する。二重国籍問題の蒸し返し、「ソビエト蓮舫」連呼の誹謗中傷等々、ネットマスコミ(夕刊フジやデイリー新潮など)とXの匿名右翼によるネガキャンのシャワーが放散され、政治戦の主導権が反蓮舫勢力に握られる展開となった。それが蓮舫の出馬表明から一週間(5/27 - )の状況である。そこへさらに追い打ちをかけるように、6/2 の枝野幸男と蓮舫の街頭演説が公選法違反であるという批判が浴びせられ、二週目(6/2 - )の中心的な話題となり、蓮舫側は反論できず、沈黙して声が上がらなくなった。明らかに右翼側が機先を制することに成功し、情勢を小池優位へと固めてゆく。小池百合子が出馬表明したのは、公示日8日前の 6/13 で、この頃には小池リードの下馬評を田崎史郎らが撒いていた。
都知事選は短期決戦の性格が顕著で、後出しジャンケンを競うゲームである。そして、立ち合いで一瞬で勝負が決まる。公示日前日の 6/19 に記者クラブ主催の討論会があり、直後の週末に世論調査が行われ、6/23 にマスコミが序盤情勢を発表する日程だった。ここで差をつけられると劣勢候補は挽回が難しく、ほぼ勝負あったとなる。各社の調査結果は「小池リード」で揃っていた。勝負が見えた。私が蓮舫敗北を確信したのは、6/19 に山本太郎が「静観」を表明したときである。結果が判明していたから、蓮舫支援の見送りを公言したのだろう。れいわが蓮舫を見捨てたため、無党派左派が関心を失って選挙を諦め醒めた部分がある。また、反自民無党派の若い有権者が、それならと石丸伸二に注目して票を流した可能性がある。以上、ここまでのところで、小括的な敗因分析と戦犯指定ができるだろう。
枝野幸男と蓮舫の勇み足は信じられない。何年議員をやり、何回選挙を経験してきたのだろう。枝野幸男は法律家ではないか。最も重要な序盤に出鼻を挫かれ、陣営のモメンタムを失った。自らの失態で選挙を潰した。これがなければ、立ち合いを制することも可能だった。山本太郎の責任も大きい。「蓮舫支援せず」を言挙げする必要はなかった。静観なら黙っていればよかったのだ。れいわが蓮舫見切りを早々と決定し発表した愚策により、無党派が石丸伸二に流れる波を作ってしまった。この政治は、山本太郎は見通せたはずであり、故意にその動きを作ったと糾弾されても仕方ない。大石あきこは内心どう思っているのだろう。本来なら、彼女はこの都知事選で蓮舫勝利の流れを作り出す原動力として活躍する一人だったはずだ。山本太郎の妄動により、影響力のある大石あきこも場外に去ってしまった。
右翼側(反蓮舫側)が徹底的なネガキャンで序盤の空気を塗り固めたのは明らかだが、敢えて言えば、蓮舫側の遊撃隊も右翼勢を上回るネガキャンを浴びせて立場有利を作り出すべきだった。プロジェクション・マッピング以外に材料は幾らでもあった。この選挙戦で小池百合子は3件の刑事告発を受けている。1件目はカイロ大学の学歴詐称問題。2件目は52市区町村長に事前に立候補要請署名の圧力をかけた問題で、これは序盤戦段階で焦点になりかけていた。この二つだけでも十分だが、他にもまだ疑惑があった。6/25 の報道を見ると、神宮外苑再開発の事業者から政治資金パーティー券を購入した疑いが浮上、ネット討論会で蓮舫に追及されている。残念なことに、全て公示後に表面に出ていて、明らかに時機を逸していた。これらは政治倫理に属する問題であり、蓮舫出馬と同時に強力に浴びせかけるタマ(砲弾)だったと言える。
なぜ、5月下旬から6月初旬の時期に、すなわち最も大切な序盤戦(立ち合い)に、これらのミサイルを連射し炸裂させなかったのだろう。ネガキャンの戦略と火力で敵を圧倒して、戦場の主導権を握らなかったのだろう。完全な作戦ミスだ。インフルエンサーとネット匿名者で盛り上げて、瞬時に、爆発的に世論攻勢をかければよかった。音頭をとるのは、泉房穂、米山隆一、郷原信郎、小沢一郎などの外野勢である。今回、彼らインフルエンサーの声が弱く、選挙戦に影響を与える発信と音量を欠いていた。陣営が「公選法違反」で躓いた一件以降、臆病になってネガキャン戦争の自粛に入り、退屈な政策論争に活路を見出す方針に出たからである。しかしこれは相手の土俵に乗る行為で、敵の罠に嵌ったも同然だった。小池陣営にとっては、学歴詐称や外苑パーティ券こそが急所であり、短期決戦で衝かれると痛い弱点に違いなかった。
蓮舫陣営は、出馬時に追い風を受ける好環境にありながら、またさらに、立ち合い勝負で一気に小池百合子を潰す武器(学歴詐称・パーティ券・公約不履行、)を持ちながら、有効に活用できず、ずるずると敵陣営の術中に嵌った。私はその致命的失策を見ながら、無言で憂鬱なまま傍観に徹したが、客観的に、正直、蓮舫は頭が悪いと思った。どういう勝ち方をするか、何が勝敗を分けるかを本人が理解してないといけないし、政治戦のリアルを正確に認識していないといけない。敵の手を読んで機敏に裏をかかないといけないし、リバースとカウンターを仕掛けないといけない。敵の痛い点を連続攻撃しないといけない。攻撃は最大の防御である。蓮舫にはその思考がなく、助言した参謀もいなかった。過去に楽な選挙しか経験しておらず、今回もその延長で、いつものキャラクターのアピールで戦えると考えたのだろう。甘いと言うしかない。
石丸伸二についても言及したい。一部から推察が出ているが、石丸伸二の選挙戦はかなり周到に準備され計画された動きだと直観する。裏で財界が暗躍し、資金を投入し、人を動員し、プロジェクトを動かした気配を感じる。次点という衝撃的な結果は決して偶然の産物ではあるまい。"サクセスストーリー"が予め設計されていたはずだ。具体的に疑念を説明しよう。都知事選に石丸伸二が立候補すると発表したとき、5月下旬だが、世評は否定的な反応一色で、卑劣な売名行為だという厳しい見方が支配的だった。右翼サイドでも非難と揶揄が多く、石丸伸二は売名狙いで都知事選を利用する胡乱な泡沫候補だった。ところが、誰もが泡沫候補と見ていた石丸伸二を、マスコミは主要候補4人のうちの一人に位置づけ、テレビで姿を映して宣伝してやるのである。無名だった石丸伸二は、マスコミが脚光を浴びせる中で一躍有名人になった。
マスコミが設定した「主要候補4人」の選定根拠は何なのだろう。基準が全く分からない。5月末から6月初の時点で、選挙の主要候補は2人だった。他にはいなかったし、無理に4人にして石丸伸二と田母神俊雄を祭り上げる必要はなかった。「主要候補4人」の絵柄は、マスコミが勝手に強引に演出した選挙構図である。その証拠に、4番手の田母神俊雄の得票数は、5番手の安野貴博や6番手の内海聡と同レベルで、泡沫候補らしい得票数に過ぎない。マスコミが石丸伸二を「主要候補」として担いで宣伝しなければ、石丸伸二も田母神俊雄と同程度の得票数で終わっていただろう。5月末時点では、田母神俊雄の方が石丸伸二よりも知名度が高かった。なぜ、マスコミは「主要候補4人」の絵を作ったのか。そこにアドミニの意図が看取できる。石丸伸二を宣伝するため、そしてその目的を隠すため、田母神俊雄を配置して4人にしたのだ。
こう言うと、右翼や左翼の方面から脊髄反射的に「陰謀論」のレッテル攻撃が飛んで来るのだが、構わず続けると、私の謎解きの中身は以下である。今年3月、キリンのCMの事件で成田悠輔が迎撃され失墜した。39歳。簡単には復権できない。アドミニ(支配層管理部)としては代替の役者が要る。石丸伸二は41歳。年恰好が都合よく、代役には絶好のキャラである。橋下徹は現在55歳。白髪も増えた。マスコミに登場したとき34歳だった。そろそろ、嘗ての橋下徹の役割を演じて若いネオリベ層から支持を集める「改革」のシンボルが欲しい。ネオリベ体制を維持する守護神のモンスターが欲しい。事故がなければ成田悠輔がそのポジションで出世しただろう。というのが私の裏読みの大筋で、石丸伸二の都知事選の政治の本質の洞察である。アドミニの実務機関であるマスコミは巧妙で、石丸伸二の宣伝に誰も不審感を感じないように"自然に"報道した。
本来、何で「主要候補」がこの4人なのか、2人ではないのか、清水国明の方が知名度が高いではないかという議論が起きてよかった。だが、その時期、ポスター掲示板の乱痴気騒ぎで報道が埋められ、その疑問に注意が向かず、「主要候補4人」の構図がいつの間にか既成事実になって進行する。石丸伸二について、ネットの戦略戦術ばかり評価されているけれど、彼を大物に推し上げたのはマスコミに他ならない。とまれ、私自身は、都知事選候補は泉房穂にすべきというアイディアを持っていて、その実現を密かに期待していた。が、知名度では蓮舫の方が勝っていて、後出しジャンケンの論理と条件を考えると蓮舫の方が妥当であるに違いない。そう思い直したが、選挙戦での拙劣と鈍さを見ると、やはり泉房穂が適任だったと残念に思う。リーダーは優秀な人間でないといけない。衆院選を前に、野党に千載一遇の風が吹いていたのに、この挫折で台無しになってしまった。
勝てる重要な戦いを自滅で落としてしまった。最後にもう一点、反小池側に立って言論攻勢を主導しなければいけない面々が静かだったという問題を指摘したが、中でも特に異常に感じたのは週刊文春である。文藝春秋は都知事選に合わせてカイロ大学の学歴詐称問題を記事にした。当然、選挙への影響を考えての一手だろう。ならば何故、もっと果敢に、ヨリ精力的に小池批判の論陣を張らなかったのか。選挙の行方を左右するゴッドハンドにならなかったのか。文春には十分それが可能だった。逆から考えれば、小池百合子が3選を果たすということは、文春側の思惑が外れ、言論機関である文春の政治的敗北を意味する。序盤戦に突入し、反蓮舫側がネガキャンで主導権を握った後、選挙の最大の争点だったはずの学歴詐称疑惑はすっかり背後に退いて意味を失っていた。公選法違反の学歴詐称は犯罪で、過去に何人も抵触して地位を追われた者がいる。
文春は小池百合子を追い詰めて行くだろう、とどめの一撃を入れるだろうと予想していたが、あえなく空振りに終わった。アドミニ権力側が文春に手を回したのか、文春が自発的に忖度したのか、何があったのかよく分からない。納得できない中途半端な動き方だった。
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