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知事たちの反乱とそれを黙殺するマスコミ - 消滅自治体の問題の地方への責任転嫁

5/1525道府県の知事が宮崎市で集会を開き、人口減少問題について討議した。「日本創生のための将来世代応援知事同盟」という団体が結成されていて、10回目の会議の開催となる。少子化や東京一極集中が続いている現状に対して各知事から強い危機感が表明され、政府に人口減少対策の司令塔となる組織の設置を求める緊急アピールが採択された。このニュースは朝日と毎日と産経が報じていて、ネットで検索すると記事が見つかる。朝日の配信を Yahoo がトップページに編集し、私はそれを見て情報を知った。そして、NHKの7時のニュースで大きく取り上げられるだろうと予感した。NHKに続いて民放も報道し、国民的議論になるだろうと予想、TBS報道特集やサンモニ「風をよむ」の題材となる図を期待した。(上の写真は産経新聞)

いかにもNHKが注目する問題であり、NHK的な性格と範疇の関心事ではないか。ところが、NHKは全国放送のニュースにせず、民放含めたテレビは全く無視して切り捨て、無かったことにした。信じられない。5/15 の会議では、知事たちから厳しい調子で政府批判の声が上がっている。福井県の杉本達治は、「国は人口減少を地方の問題と決めつけているが違う。出生率が低い東京圏に若い世代が吸い寄せられる構造に問題がある」と指摘した。正論だ。広島県の湯崎英彦も、「それぞれの地方でできることはやっているが、近隣の市町レベルで人口を取り合っているだけ。国が腹をくくって、社会全体の取り組みをしなければ(解決は)無理だ」と直言した。正鵠を射ている。本質を衝く批判だ。二人の発言はテレビで全国に伝えられるべきだった。

この集会は、4/24増田寛也の「人口戦略会議」が発表した「744自治体が消滅する可能性がある」とする報告書に対応して、と言うより対抗して開かれた会議で、きわめて率直な反発が示されている。ほぼ全員が保守系知事で、多くが総務省を始めとする元霞ヶ関官僚であるにもかかわらず、「人口戦略会議」の無責任で冷酷な分析と、自治体間で人口を奪い合わせて傍観しているだけの政府に、業を煮やし、眦を決して立ち向かう場となった。つくばみらい市長は、「消滅都市といわれた市町村のことを考えているのか」「非常に失礼だ」と痛烈に糾弾している。10年前、増田寛也が同じ試算と提言を出したときは、自治体の首長たちは黙って頷いて従うだけで、子育て支援や移住者獲得の競争に奮励するだけだったのだが、今回は態度が一転した。

増田寛也の「人口戦略会議」の報告書の方は、示し合わせたかのようにNHKが大きく取り上げ、7時のニュースでも、NW9でも念入りに放送され、各民放も続いた。政府と経団連が上から散布させ、国民に刷り込んでいる。あれから10年後の結果として、地方は努力不足でした、無能でした、よく頑張った自治体も一部にはあります、日本全体の人口が減るんだから仕方ありません、だから地方に金を配るのは基本的に無駄ですと、そういう結論と示唆になっている。国民全体をそうした気分に平準化させている。人口の多い大都市圏の人間は、このメッセージを至極尤もと了解し、地方に対する侮蔑と偏見をさらに強めるだろう。そして、能登の放置が「正当化」され、災害で壊れたJRの線路が見捨てられ、地方はインバウンドに精を出せという総括になる。

増田寛也の報告書の方をあれだけ大きく報道したのだから、マスコミは、それに対する地方県知事側の反論も公平に取材すべきで、そこから国民的議論を興す方向に持って行くのがジャーナリズムとして当然だった。知事たちの発言は地方に住む国民の意見を代弁している。だが、テレビはそれを反映させず、ニュースにしない。それには理由があり、すなわち、それだけこの問題(地方県知事の反乱)がクリティカルで、現在の支配勢力にとって不都合で、国民に知らせたくない事実だからだ。25道府県の知事が集合して緊急声明を出したのに、そんな政治場面は滅多にないのに、その提起と行動は国民全体に知らせる価値のないものとして処理された。テレビにニュースとして流すと、知事側の主張が正義として世論の支持を集め、彼らの求める政策を政府が受け入れざる得なくなるからだ。

これまでの、地方自治体同士を自己責任で競争させ、疲弊消耗させ、結果的に地方の人口減少を加速化させるだけの政策では、もう何の活路もなく、廃墟と滅亡しかないことを、保守系・元官僚の知事ですら自覚するようになった。私から見れば、ふるさと納税など本当に無意味で弊害だらけのネオリベ政策で、菅義偉が導入推進した政策などすぐに中止した方がいいのだ。その代替に、東京都が大企業本社から徴収する事業税の半分を総務省に移し、財源のない地方県に再分配すればよい。大企業が全国での営業活動で収益を上げていて、労働者も全国から集めた(地方に故郷を持つ)人材だからである。それが公平な税配分というものだろう。田中角栄が制度的前例を作ればよかった。日本国民である以上、誰でも平等な権利を持つはずなのに、今は、あまりにも生まれた場所で経済的差別が大きすぎる。

東京で暮らす者と、地方で暮らす者とが、今はあまりに不平等な現実がある。まるで中国や北朝鮮のような地域格差の雰囲気さえ漂わせてきた。人は生まれる場所を選べない。同じ日本であり、同じ憲法と同じ法律の下で社会を営んでいる国民であるはずなのに、地方で生まれて生きる者と、東京で生まれて生きる者には、その経済条件と社会境遇に極端すぎる違いがある。現在は、それが、あからさまな差別(ネット)となり、無視(マスコミ)として存在していて、地方の人々はまるで昔のアメリカの黒人のようだ。人権問題にすら映る。過疎自治体の限界集落的な地域の住民は、個々が、その地域を維持する責務を負わされ、コミュニティを保全すべく役割と責任を負わないといけない。放っておけば潰れる地域社会の維持に挺身するか、そこを見捨てて離れるかを選ばないといけない。青年の身には過酷な負担だろう。

こうした地方の側の論理と抵抗を、最も強烈かつ先鋭に弁明している代表格が、島根県知事の丸山達也である。総務官僚上がりの保守系だが、今の日本で最もラディカルな政治家の一人かもしれない。週刊文春の 5/3 の記事の中で、人口戦略会議の報告書を批判してこう言っている。「根本的なアプローチの違和感というか問題は(中略)東京以外は全部人口が減るわけでしょう。つまり、国の問題だということです。日本全体の問題を自治体の問題であるかのようにすり替えて言われているのは根本的に間違っている」「出生率が(中略)総じてどこも下がっていて、我が国の傾向なわけですよ。そうすると国の政策とか、日本社会全体の問題を解決しないといけないのに、自治体ごとに取り組まないといけない課題であるかのように、誤った世論誘導をしている」。こう断言して、政府だけでなくマスコミ批判の舌鋒をふるっている。

5/21 の朝日の記事では、自民党が「国立大授業料の適正な設定」と称して授業料値上げの提言を行った問題に対して猛然と異を唱え、「高等教育を諦める親が増えていることが少子化の一因になっている、という想像力すらない人たちに、怒りと失望を覚える」と徹底批判、この党提言を政府が採用しないよう求めている。「裏金問題が出てる、そんな政党が提言していい内容じゃない」とまで言ってのけた。収入の少ない、地方の人間には深刻で切実な問題で、丸山達也のこの発言には拍手を送りたい。この問題は、ネットの記事では見かけるが、テレビが無視・黙殺していて、やはり国民的な議論や関心事になっていない。ほとんどの国民は知らないだろう。5/16 に自民党が値上げの提言を出した。座長は柴山昌彦だ。同日、機を一にして「東大授業料値上げ検討」の記事が出た。また、先行して慶大の塾長が「国立大の学費を年150万円に」と提案している。

国立大学の授業料は、私が学生の頃は年9万6000円だった。当時の日本のGDPは現在の3分の1だから、それと比較しても、現行の年53万5800円がいかに高額化していて、親の経済的負担が大きくなっているかが分かる。大学無償化が世界の流れで、欧州諸国では「給付型奨学金」が一般的なのに、日本は逆行して弱者の家計の負担を無理やり重くさせている。今回の動きは、階級を固定させる目的の政策としか考えられず、信じられないという感想しか出ない。丸山達也は 5/13 にABEMAの番組に出演し、ひろゆきらを相手に「東京一極集中を放置していいと言う人は、日本の人口が減り続けてもかまわないと言うのと同じ」と主張している。次の衆院選では、ぜひこの「人口減少と東京一極集中」の問題も争点に浮上させ、時間を割いて討論してもらいたいと思う。野党は対案を出すべきだ。

25道府県の知事同盟は、有識者の賛同と参画を募ってシンクタンクを作るべきだと思う。クラウドファウンディングで資金を集め、増田寛也の人口戦略会議に対抗する分析と提言を、つまりオルタナティブの構想を作成する作業を始めるといい。小泉改革からアベノミクスの20年間に、どれほど東京に高層ビルが建ったか、どれだけ資本が東京だけに集中投下されたか、経済学的に明らかにしてもらいたい。最後に、丸山達也がここまでアグレッシブなオピニオン・リーダーとして前面に出るにおいては、やはり 4/28 の衆院補選の影響が大きいと思われる。島根1区の投票結果は驚くべきものだった。丸山達也は島根県知事だから、特にこの民意に衝撃を受け、国の政策(無策)を根本的に変革する必要性を確信したのだろう。丸山達也が地上波・BSのテレビに出演して、歯に衣着せぬ政府与党批判が生放送される絵を見たい。

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