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棄民と薬害 - 震災避難所環境の日台の彼我の差と小林製薬紅麹サプリ事件

4/3、台湾の花蓮沖でM7.7の大地震が起き、4/7 までに13人の死亡が確認されている。日本で話題となったのは、地震発生後わずか4時間で避難所が開設され、住民のプライバシーを守る個室テントが屋内屋外に整然と張られた点であり、冷房と温室シャワーも完備され、食事の配給も当日から完璧で、何から何まで行き届いた支援の絵に驚かされた。4/3 当夜の日本のテレビでその様子が報じられ、能登半島地震の避難所環境との違いにネット世論が騒然となった。花連市では、市長が本日(4/3)中に水道インフラを復旧すると言い、それを報ステで紹介していた。まさかと思っていたが、翌 4/4 の朝日の記事を見ると、「水道や電気などのライフラインはほぼ復旧した模様で」と報告がある。揺れの程度や強度が能登よりも小さかった可能性があるけれど、それにしても、こんなにも対応が違うのかと彼我の差に驚嘆させられる。

4/6 のTBS報道特集でも、4/7 のサンデーモーニングでも、この問題が焦点として取り上げられた。が、モーニングショーでの玉川徹のコメントを含めて、「これがなぜ日本でできないんだろう」という発言で止まっている。問題提起を上げるだけで終わり、そこから分析や考察を掘り下げようとせず、具体的な中身のある試論や仮説を提示しない。まるで幼児の感想だ。真相究明する意識がない。政府行政への批判の素振りをするだけで、政策的な視点や指摘が入った論評になっていない。テレビの報道番組のコメントだけでなく、ネット世論(Xの大衆投稿)も同様で、なぜ日本でできないのか、理由と原因について解答を直言したポストは見なかった。その大衆的現実というか、社会的認知の限界に脱力させられる。答えは簡単で、政府の棄民政策の所為なのに、それが共通認識になっていない。マスコミもそれを言わない。

やろうと思えば日本も台湾と同じ救援ができる。同じ速度と品質でサービスの提供が可能だ。だが、意図的にやらないのである。なぜなら、被災者への救助救援は「自助・共助・公助」の名の棄民政策が基本方針であり、それが原理主義的に推進されているから、能登の被災地のような放置の実態になるのだ。菅義偉が20年9月の総理大臣談話で「我々が目指す社会像は『自助・共助・公助、そして絆』です。その認識の下、地方の活性化、人口減少、少子高齢化をはじめ山積する課題を克服していくことが、日本の活力に繋がるものと確信しています」と述べている。この「自助・共助・公助」のドクトリンは、竹中平蔵が20年以上前から唱えていた持論で、「小さな政府」が置き換えられた政策標語に他ならない。それを菅義偉が公式採用して表明した。無論、安倍政権の時代から一貫して考え方は同じであり、その本質は棄民である。

首相談話を閣議決定した同日、菅義偉は記者会見でこう言っている。「まずは自分でやってみる。そして、家族、地域でお互いに助け合う。その上で政府がセーフティネットでお守りする」。この言葉を菅義偉の顔貌とオーラルと共に想起すれば、能登半島地震の後に何があったのか、行政が被災住民に何をしたのか、馳浩とNHKが能登住民に対応した(している)真相が了解される。表面の下の真実が察知される。要するに、政府は何もしないのだ。棄民が根幹の原則であり、災害対策は自治体に全部やらせるのである。被災自治体の責任なのだ。なので、貧乏な自治体は何もできず、住民は寒々とした体育館にスシ詰めにされ、遮るものもなく雑魚寝を強制されるのである。8年前の熊本地震のときの方が、避難所の環境は比較してまだマシだったのではないかと思い当たるのは、避難所の手配がすべて自治体が責任を負う法制度になっているからだ。

菅義偉も麻生太郎も政策思想は同じで、現自民党政権の中枢は強烈なネオリベ主義者が陣取っていて、災害対策のみならず社会保障も「自助・共助・公助」が貫徹している。NHKの報道は能登を取り上げるが、関心とメッセージは一貫していて、集落・地域での助け合いとか、NGOの共助支援活動とか、国民の寄り添いとか、そういうテーマにばかり集中して編集され、欺瞞に満ちたニュース映像が放送されている。救助の怠慢と初動の遅滞を含めた、政府の不作為と責任放棄にマスコミの監視と批判が向けられることはない。NHKだけでなく民放も同じだ。私には弱者いじめのサディズムに見える。4/8 には宮崎県南部で震度5弱の地震が起きた。このところ列島各地で地震が頻発していて、どこかで能登と同規模の震災の再来があるのではないかと恐怖する。そこが能登と同じような過疎の僻地であったなら、またぞろ「自助・共助・公助」の虐待と拷問に遭うだろう。

小林製薬の紅麹サプリによる健康被害は、4/7 時点で5人が死亡、212人が入院という大惨事になっている。先週(3/31- 4/6)の国内のテレビ報道は、ずっとこの問題がトップニュースで最大関心事だった。不可解に感じるのは、この問題に対応する説明責任当局としてマスコミに登場するのが、大阪市(3/26 - 3/30)であり、消費者庁(4/1 - 4/8)である点である。厚労省が前面に出て来ない。被害は全国に及び、全国で死者と重篤患者が出る深刻な状況なのに、何で一自治体である大阪市に対策本部が設置され、大阪市の問題として解決が図られているのか。大阪市にそのような能力があるのか。本当に愕然とさせられる。つまり、小林製薬の紅麹サプリは食品の扱いであり、消費者庁の所管であり、消費者庁にはこの種の問題に対処する機能がなく、そのため、弁当や給食にノロウィルスが混入して食中毒被害が発生したとか、そういう法的範疇の事務処理となったのだろう。

この問題を報じるマスコミの言説にも不審を感じる。なぜ薬害事件だと言わないのか。薬害という言葉を使わないのか。 今回の問題は、典型的な令和の薬害事件だ。80年代に起きたHIV汚染血液製剤による薬害エイズ事件と同じである。薬害スモン(キノホルム整腸剤)やサリドマイド薬害(鎮静・催眠剤)と同じ事件だ。被害者たちは、この錠剤を準医薬品として服用していた。食料品や嗜好品として賞味していたわけではない。服用した動機と理由は、悪玉コレステロール(LDL)を抑えるためである。悪玉コレステロールが増えると、動脈硬化を起こして心筋梗塞や脳梗塞を発症させる原因になる。なので、誰でもLDLの検査値には敏感になるし、基準値より高い結果が出れば、何かしら対策を生活の中で心がけようとするだろう。小林製薬のブランドを信じた被害者は本当に気の毒だ。腎機能障害は元に戻らないと言われていて、加齢と共に透析を余儀なくされる者が多く出るに違いない。

薬害をネットで検索すると、明確な定義はないという情報がある。また、「適正使用しても防ぐことができない医薬品等による健康被害」とする専門家もいる。今回の小林製薬の紅麹サプリの事件を薬害事件と呼ぶか、その責任は誰にあるのかについて、これから国会で議論されるだろう。4/8 のクローズアップ現代で特集がされていたが、それを見るかぎり、厚労省と医師会は、安倍晋三が導入・制定した「機能性表示食品」制度の野放しに否定的で、厚労省が前に出て監視と管理をすべきであるという立場のように窺える。国民の間にこれほどの健康被害が出たのだから、それは当然のことだろうし、「機能性表示食品」制度の廃止を含めた法改正が必要だろう。おそらく、今回の薬害について被害者原告団が組織され、小林製薬と国を訴えるという展開になり、長い裁判闘争が始まるものと予想する。まさに「自己責任」の新自由主義原理が生んだ害悪と惨禍であり、そのことが裁判で明らかになることを願う。

LDLコレステロールの問題については、他の人より詳しいと思うので、余談的に若干の解説を加えたい。LDLの値は血液検査で出る。70から139の範囲ならOKとされる。ネットに掲載されている専門家の知見では、120から139を「軽度異常」とする例もある。140を超えるとアラームが出て、医師から改善を指導される。遺伝など個人差はあるが、概ねLDLの基準値オーバーは高血圧症とリンクしていて、50代の場合は、必ず毎日運動しなさいと勧告される。有酸素運動を心がけよという指示が与えられる。ところが、慢心してこれをサボっていたり、仕事でストレスを溜めたり、飲酒を節制しない食生活を続けていると、加齢と共に血管壁の弾力性が失われる悪い進行となる。60歳を超えて基準値オーバーが続くと、医師は「投薬治療が必要です」と診断、血圧を下げる薬とコレステロールを低下させる薬を処方するステップに進む。

で、それを毎日飲むと、LDL値は確かに下がり、血圧値も安定するようになる。が、服用しないと動脈硬化を止められない依存的体質化を免れず、すなわち、基礎疾患を持った高齢者という生理的社会的な身の上になる。という例が一般的なようだ。誰でも、とにかく脳梗塞心筋梗塞にはなりたくない。日本人の死因別死亡確率の統計を見ると、65歳男性で、心疾患と脳血管疾患を合わせた割合は28%で、癌に次いで二番目に多い。80歳男性となると、癌よりも多くなり死因第一位の病気となる。発作に襲われ一命をとりとめたとしても、半身不随で言語障害の車椅子生活の人になってしまう。周囲に大変な迷惑と負担をかけてしまう。それだけは避けたい。脳梗塞の再発率は10年間で50%。2回目3回目と重ねる毎に重症化しやすくなる。なので、人が悪玉コレステロールに神経質になり、予防を心がけるのは当然のことだ。製薬大手の名前なら誰でも信じてしまう。

サプリの効能を信じて被害に遭った人には気の毒としか言いようがない。国民の健康不安を資本が食いものにしている。責任は安倍晋三にある。資本主義(新自由主義)にある。


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