心理的負荷を排除し行動の継続性を高める『小さな習慣』
1.はじめに
目的に向かう行動の過程で挫折する事例が後を絶たない。目的が達成できないとネガティブな感情が生じ、更に目的達成が困難になるという悪循環に陥る。そうならないためにも目的達成の可能性の高い手法を学び、実践していく必要がある。
そこで「何故目的が達成できないのか」、「どうすれば目的を達成しやすくなるのか」を『小さな習慣/スティーヴン・ガイズ(2017)』という文献を参考に考察する。
2.目的達成の定義
目的達成についての考察に先立ち、そもそも目的達成とはどういった状態を指すのかを定義を明確にする。
“目的”の言葉の意味としては「実現しようとして目指す事柄」となる。類似語に“目標”があるが、これは「目的を達成するために設けためあて」となり、目的に包括された概念といえる。また目的は長期的かつ抽象的であり、目標は短期的かつ具体的であるという性質を持つ。
言葉の意味としては“目的達成”は「目指した事柄を実現した状態」であるものと定義できる。例えば目的を「健康的であること」とした場合、「健康的な状態」になれば目的達成となる。
それに対し目標は「5kg痩せる」や「毎日運動する」といったことが挙げられる。これは現状の体重から5kg減った時点、運動した日が一定期間連続すれば目標達成となる。
3.達成の評価基準
先ほど例に挙げた目的と目標を比べると具体性に相違が見られる。目的は抽象的であることを良しとしている以上、間違いではないが、抽象的ゆえに評価基準も曖昧になる。そのため具体性のある目標との関係性から評価基準を明確にする。
目的ひとつに対して目標はいくつかのパターンを想定できるため、目的とは「目標の集合体」とも表現できる。したがって目的達成の度合いは、目標達成の度合いによって測ることができるといえる。つまり「5kg痩せた」状態と「毎日運動する」状態のいずれか、もしくはその両方をもって「健康的である」と評価することが可能である。
4.目的と目標の設定方法
目的と目標の関係性を基に評価基準を定めるには、目的に対して的確な目標が設定されていることが前提となる。
目標とは「目的を達成するために設けためあて」であるため、目的と現状を繋いだ線上に設定すべきである。目的が「健康的であること」に対して、目標が「睡眠時間を削る」というものであったら、目標達成が目的達成に直結しないため不適切である(この場合、睡眠時間を削って運動時間を確保するなど、間接的には目的達成に繋がるといった論理については考えないこととする)。
目的に対して目標として挙げる事柄には個人差があるが、客観的に見て目的と目標の関係性が高いことが好ましい。
5.目的が達成できない要因
前項までの記述を踏まえて最初に挙げた疑問のひとつ「何故目的が達成できないか」について考察する。
今回参考した文献によれば、目的を達成できない要因として大きく2つ挙げている。「出発地点と到達地点の距離が遠すぎる」ことと「自己管理能力を過信している」ということである。
ひとつめの「出発地点と到達地点の距離が遠すぎる」とは、目標が大きいことを示唆している。目標を「毎日腕立て伏せ100回行う」と「毎日腕立て伏せ1回行う」とでは、後者の方が達成しやすいことが想像にたやすい。なぜなら100回を行う過程で1回は必ず通過する目標だからである。
ふたつめの「自己管理能力を過信している」とは、モチベーションありきで目標を設定することの信頼性の低さを述べている。モチベーションが高い状態であれば大きな目標は達成可能である。しかしモチベーションが低い状態では同様の目標を達成することが困難となる。モチベーションには感情のように波があり、モチベーションの高さに依存してしまうと目標達成率が不安定となるため信頼性が低いといえる。
上記より大きな目標は困難の度合いが高い、モチベーションへの依存性が高いことから、目標達成率が低くなりやすいと結論づけられる。
6.目標達成率を上昇させる手法
では反対に小さな目標を設定した場合の目標達成率について考察する。
まず何をもって目標が小さいといえるかについては、「いかなる時も達成が苦にならない」かつ「準備も含めて短時間で済ませられる」ことである。
「いかなる時も達成が苦にならない」とは調子が悪い時でも達成できるレベルを指す。モチベーションが上がらない時、体調が悪い時でもクリアできれば安定した達成率が見込める。
「準備も含めて短時間で済ませられる」は継続的な達成率に影響する。特定の場所でなくては出来ないとすると、そこへ移動するために時間とエネルギーを費やす。その時間やエネルギーが確保できないとしたら必然的に目標未達成となる。
上記のことから目標を小さくすること自体が目標達成率の上昇に繋がるといえる。
7.小さな習慣の効果
しかし目標を小さくすると達成率が上昇する反面、効果も小さくなることが懸念される。
大きな目標は、強度は高いが継続率は低い。小さな目標は、強度は低いが継続率が高い。
尚、ここでの「強度」とは目標の大きさ、「継続率」とは習慣的な達成率を意味することとする。効果が強度と継続率により表されるなら下式が成り立つ。
「効果=強度×継続率」(式A)
式Aより、目標に関わらず効果は同等であるとすれば、強度と継続率が反比例となる。
しかし時間と共に記憶の薄れや肉体の衰えがあることを加味すると、効果は実施する「頻度」にも左右されると推察する。その場合、下式が成り立つ。
「効果=強度×継続率×頻度」(式B)
また、継続率と頻度が比例関係にあると仮定すれば、更に以下の式が成り立つ。
「効果=強度×継続率^2」(式C)
例えば、小目標では毎日10頁、大目標では4日に一度40頁読めるものとする。200頁の本を読了するのにいずれも読まない日も含めて20日間要する。この時、大目標の強度は小目標の4倍、継続率及び頻度は小目標の1/4(0.25)倍となる。
<効果=強度×継続率>
・小目標の効果:10×1=10
・大目標の効果:40×0.25=10
式Aの場合、上記の通り効果は同じになる。しかし頻度を加味した式Cに数値を代入した場合は以下のようになる。
<効果=強度×継続率^2>
・小目標の効果:10×1^2=10
・大目標の効果:40×0.25^2=2.5
上記より頻度を加味することで、目標の効果に差が出ることが分かる。
先ほどの例では、200頁の本を読了したという結果は同じであるが、頻度の高い方が、記憶が鮮明なうちに続きを読むことができ、前回読んだ部分の記憶が想起されやすく記憶に定着しやすいと推察する。
記憶の定着しやすさの観点から、式Aよりも頻度を考慮した式Bないし式Cの考え方の方が真実に近いと考える。
つまり効果は強度よりも継続率や頻度による影響が大きいため、継続率に特化した小さな目標の効果は、大きな目標の効果を上回る可能性を有しているといえる。
8.おわりに
小さな習慣とは、心理的な影響を可能な限り小さくすることにより継続性を高め、効果を最大限のものとする非常に有効な手法である。この手法を用いることで新たなことに挑戦したい方や、挫折を経験したことがある方は従来の方法よりも成功体験が得られやすいものといえる。興味があれば参考文献を熟読し、実践してみることをお勧めする。
しかし手法の素晴らしさだけでなく、目標を小さくすれば効果も出にくくなるという思い込みを取り除いてくれた、作者の行動力と思考力に賞賛を贈るべきである。
常識を疑うことで見えてくることがある。万人が同じ手法で結果を出せるわけではない。自らの行動によって効果を確認し、試行錯誤を繰り返し実践していくのが必要であると著者は身をもって示してくれた。
本書が多くの人たちのもとに届き、変化の機縁となれば嬉しく思う。
9.参考文献
・スティーヴン・ガイズ『小さな習慣』(ダイヤモンド社、2017)
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