自叙伝「#車いすの暴れん坊」#31 障害者だからできる仕事
就労する場合、障害者の就労はいかに健常者の作業能力に近づくかによって、就労 できるかが決まる。
例えば、下半身が不自由であっても、両手が健常者と同じように 使えれば工場のような流れ作業もできるし、パソコンでプログラムを組んだり、数値 を打ち込んだりする作業は変わらなくできるだろう。
ただ、俺たちのような重度障害 者は手もまともに使えない。動く機能としては、肘が曲がる、手首の甲の部分が上を 向く、それぐらいしか動かせないのだ。
当然、パソコンのキーボードを打つにしても、手に装具を付けてペンなどを挿して、そのペンでひとつずつキーボードを叩いて行く。ホームポジションにブラインドタッチなんてのはどう頑張っても無理。
当然、スピー ドを重視する仕事では健常者や手の使える障害者には敵わない。唯一、勝負できることがあるとすれば、それはデザインセンスであったり、新しいプログラミングを組む能力であったりするのであろう。
そんな想いもあって、俺が障害者の就労を考える場 合、そういった視点とは別の視点で考えるようにしている。
それは障害者だからこそ、障害者の今の自分だからこそ持っている能力、俗に言う「障害力」を使って就労でき ないだろうかということだ。
例えば、最初に俺が立ち上げた有限会社ヘルプメイトグ ループ、この会社は障害者が必要なものを開発し、障害者が必要なものを仕入れて販 売する会社だ。障害者だからこそ、どういう障害者にどういうものが必要かというこ とが分かるわけである。
そして障害者の自立支援にも同じことが言える。俺たちが自立支援センターおおいたでやっている自立支援というのは、重度の障害者でもヘルパーなどを使って、普通の生活ができるということを知ってもらうこと。
そして、どういう制度があって、どういうふうに不動産屋と交渉して住宅を改造していくのか、またヘルパーとの付き合い方などを教えていく。
これは、重度の障害を持っている俺たちだからこそできることで、たぶん軽度の障害者や健常者の人が言っても心に響かないと思っている。
そして自分たちが生活してきた手段や方法、経験というのを伝えて行く。重度の障害者を雇用することによって、自立生活を支援する仕事をしてもらうことが可能となる。
また、ユニバーサルデザインやバリアフリーのコンサルタントやコーディネート、これについても同じことが言える。重度の障害があるからこそ、どういう構造であれば重度の障害者でも使えるかが分かる。
当然、聴覚障害者の方や視覚障害者の方、子供、高齢者の方が、そういうものが使いやすいかを一緒に考える。だからこそ、本当に使いやすい良いものができる。
ハートビル法で考えられている数字は、実際に使う上では、使いにくい部分も多い。それはなぜかというと、洋式トイレの便器にしても、ハートビル法では40センチと決まっている。しかし実際に車いすの平均を測ってみると45センチくらいはあるだろう。
なぜこういうことが起きるかと言えば、車いすの上に褥瘡予防のクッションを敷くのだが、そのクッションが5センチから10センチくらいはある。この高さというのが考慮されていないのだ。
だから車いすからトイレに移るときはいいのだが、トイレから車いすに戻るときに、高くて移れないという障害者も多い。
各個人の住宅であれば、そこに住んでいる人の高さに合わせればいいのだが、公共のトイレであれば、ある程度平均的な高さをとらなければならない。だから例えば多目的トイレが2つとか3つ作れるのであれば、40センチ45センチ50センチと高さを変えて造る必要もあるだろう。
*ハードビル法:「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」
の略称で、不特定多数の者が利用する建築物を建築する者に対し、障害者などが円滑に建築物を利用できる措置を講ずることを努力義務として課すもの。