詩 「終電車の風景」

小田原行きの終電車に乗った

飲みかけの350ml缶とペットボトルが床に点在している

座席に座ると

座席の前の光景を二度見した

左から

手を繋いでいる隣の女をニヤニヤ見つめる男

手を繋いでいる隣の男をニヤニヤ見つめる女

目をつぶっているタコ

十秒に一回タコを頭突きするスーツ

スマホ 

の後ろでニヤニヤする巨漢

丸まったティッシュ

座席を三人分使って体を横たえる金髪

町田で座席はほぼ埋まった

ティッシュの席には誰も座らない

ティッシュが座っているから

こんな眺めはいいなあと思った

僕はスマホを見るふりをして観察を続けた

これは素直な光景だ

座りきれなかったスーツがドアを背もたれにして寝始めた

相模大野に到着するとき

静かな車内に嗚咽が響いた

大勢が席を立つ

ドアが開いた時、寝ていたスーツの首が車外にはみ出た

僕もあわてて空き缶を蹴り飛ばしながら降りた






この詩は鈴木志郎康「終電車の風景」に対するアンサーです。


千葉行の終電車に乗った

踏み汚れた新聞紙が床一面に散っている

座席に坐ると

隣の勤め帰りの婆さんが足元の汚れ新聞紙を私の足元にけった

新聞紙の山が私の足元に来たので私もけった

前の座席の人も足を動かして新聞紙を押しやった

みんなで汚れ新聞紙の山をけったり押したり

きたないから誰も手で拾わない

それを立ってみている人もいる

車内の床一面汚れた新聞紙だ

こんな眺めはいいなァと思った

これは素直な光景だ

そんなことを思っているうちに

電車は動き出して私は眠ってしまった

亀戸駅に着いた

目を開けた私はあわてて汚れ新聞紙を踏んで降りた

「終電車の風景」鈴木志郎康

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