「物語に参加」の「参加」が「物語」を阻害することについて
これは、オンラインのトークイベント:米光一成×岸井大輔「物語に参加させるとはどういうことか1.5ーナラティブ、ストーリー、殴られる距離ー」(2021年9月8日今日だ!20:50 - 0:50オンライン)のために考え方を整理しているなかで考えたこと。 #物語に参加
前回書いた「マーダーミステリーを「物語に参加」という視点で考えてみる」のつづき。
前回は「参加」とは何かということをまとめたので、今回は「物語」とは何か?編。
ここで言う「物語」とは何かを整理しておく。
辞書的な定義を使うのが難しい。けっこう「文学」の範疇で語られているものが多く、ええー、じゃあ、演劇やゲームやマンガは?ってなっちゃうからだ。
たとえば広辞苑ではこうだ。
物語:
1)話し語ること。また、その内容。よもやまばなし。談話。
2)作者の意見または想像を基礎とし、人物・事件について叙述した散文の文学作品。
散文の文学作品! これらの定義では、演劇、ゲーム、マンガも、射程にいれたこの場では採用しにくい。
『物語論 基礎と応用』(橋本陽介・講談社)では、物語の定義がこうまとめられる。
時間的な展開がある出来事を言葉で語ったもの
さらに補足的にこう記されている。
演劇、映画、漫画などは小説とは異なるようだが、語られているとみなすので、物語に含まれる。
「語る」とは、何を意味するのだろうか。
「語る」と言ってしまうと、どうしても話している姿に引きずられるので、「語る」を「表現する」に言い換えよう。
もうひとつ。
「人生は、私が主人公の物語だ」という言い方がある。だが、「人生」まで物語の範疇に拡散してしまうと、なんでもかんでも物語になってしまうので議論のフレームとしては使いにくい。
ここで、「物語かどうか濃度」を考えてみる。
それぞれのジャンルのもの(小説、演劇、漫画、ドキュメンタリー、スポーツ中継、歴史叙述、人生)が、「物語だ」と言われたときに、そうそう!と言える度合いを考えてみよう。
[小説、演劇、漫画]>[ドキュメンタリー]>[スポーツ中継]>[歴史叙述]>[人生]
だろうか。
この「物語かどうか濃度」のグラデーションはどのように生じているのか。と考えて、「物語」を少し狭く限定するために物語の定義を更新してみる。
物語:時間的な展開がある出来事を意図をもって編集し表現したもの。
人生は、「ある意図をもって編集し」てはいないので「物語」ではない。「歴史叙述」は、いくら客観的な記述を試みても、どうしても「ある意図をもって編集し」てしまうので「物語」的な要素が入り込む。
一方で、ある人の人生を、誰かが語った場合は、「意図をもって編集し」たものなので「物語」となる。
「歴史叙述」が、客観さを纏って、それを疑いなく受け取ったときは「物語」っぽさを感じない。
では、メイクドラマと言われたりする野球はどうか。これも「ある意図をもって編集」されていないので「物語」ではない。
では、野球の試合を編集した映像はどうか。たとえば、その日の試合を振り返るスポーツニュースのようなものだ。
「時間的展開がある出来事」であるし、「意図をもって編集し」ているので「物語」といえるだろう。
だが、「野球の試合」が「物語」ではないのに、「試合を振り返ったスポーツニュース」を「物語」だと言うのは、感覚的におかしい気がする。
たとえば、映画は「物語」だ。だが予告編はどうだろう。予告編を物語だというのは腑に落ちない。
だが、予告編も「時間的展開がある出来事」であるし、「意図をもって編集し」ている表現だ。
ここで、「意図」が「どういう意図なのか」が問題になる。
少しジャンプする。
前回、「参加」を、「なかま(ともに事をする人)になること」と定義した。
とすると、「物語」であるためには「参加」はノイズとなる。
物語が「時間的な展開がある出来事を意図をもって編集し表現したもの」であるなら、「意図をもって編集し表現」する主体が必要となる。
たとえば、分岐型のアドベンチャーゲームでは、往々にしてトゥルーエンドが存在し、「一番正しい物語」が、存在してしまう。
製作者が「意図をもって編集し表現したい流れ」がトゥルーエンドへのルートだ。
だが「参加」は、それを乱す。参加者は、分岐型アドベンチャーゲームで、違う選択肢を選ぶ。参加感が高ければ高いほど選択の権利が増えるのだとしたら、正当なルートが乱される要因が増えていく。
「参加」は「物語」を、「意図をもって編集し表現したい」という点において阻害するのだ。
トークイベントのための整理にしては長くなってきた。
米光一成はゲームの側面から、劇作家の岸井大輔さんは演劇の側面から「#物語に参加」についてトークする。
事前打ち合わせでは、岸井さんからは「演劇における<参加>と<参加できない>の歴史」みたいな話が出てくるらしいよ。乞うご期待。
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