コンチネンタルタンゴって何なのさ
今回は番外編のお話。
私たちタンゴ・グレリオが演奏しているアルゼンチンタンゴとは別に「コンチネンタルタンゴ」というジャンルがあります。
実はこのコンチネンタルタンゴ、アルゼンチンタンゴを演奏する人間にとってはちょっと扱いにくい一面があります。
往年のタンゴファンの間ではこのコンチネンタルタンゴが根強い人気で、たとえば「ジェラシー」「碧空」「奥様お手をどうぞ」「夜のタンゴ」「小さな喫茶店」などの人気曲をリクエストされることがあります。
またアルゼンチンタンゴとの違いなどもちょくちょく質問を受けますね。
代表的な作品のひとつ「ジェラシー」。
デンマークのヤコブ・ゲーゼが1925年に発表しました。
ただこのコンチネンタルタンゴ、そもそも独立した音楽ジャンルと言っていいものなのか…
ネット上でコンチネンタルタンゴについて調べてみても、皆が好き勝手に論じている感じで、なんとなく分かったような分からないような、あいまいな感じです。
じつはこの「あいまいさ」こそがコンチネンタルタンゴの正体であると私は考えています。
コンチネンタルタンゴの定義
いろいろとあいまいな中でも比較的はっきりしている部分をまとめて、コンチネンタルタンゴを定義してみるとこの3点を挙げることができます。
主に1920~30年代のヨーロッパの曲が中心(一部アメリカ産も)
日本では1950~60年代に爆発的にヒット
continental tangoは和製英語(?)で日本のみの呼称
ヨーロッパのタンゴブーム
1920~30年代のヨーロッパではアルゼンチンタンゴのブームが巻き起こり、その影響でヨーロッパでもさかんにタンゴが作曲されるようになり、タンゴを題材にした映画も作られるようになります。
実際、先ほど名前をあげた名曲の多くも映画に関連して作曲されたものです。
しかし、はやりものの常でブームが過ぎ去った後は、こういったヨーロッパ産タンゴも下火になっていきます。(フィンランドのように独自のタンゴ文化が根付いた国もありますが)
本家アルゼンチンタンゴがその後1940年代以降も発展し、音楽的にも洗練されていったのとは対照的です。
日本のタンゴブーム
1950年代以降の日本でコンチネンタルタンゴのブームの火付け役は、アルフレッド・ハウゼ楽団、マランド楽団といったヨーロッパのタンゴをレパートリーにする楽団の演奏でした。
当時の日本は外来の音楽が人気でしたが、特にこれらの楽団の華やかで甘いメロディのタンゴは大いに受けたようです。
戦後の復興が進み人々の心境が変化していく中で、こういった外来音楽の明るい響きは心の励みになったのでしょう。
そもそも「コンチネンタル」って?
それにしても「コンチネンタルタンゴ=大陸のタンゴ」とはいささか奇妙なネーミングです。
いったい誰が「コンチネンタルタンゴ」と呼びはじめたのでしょう?
確証はないですが、当時アルフレッド・ハウゼ楽団などのレコードを販売したり、来日公演を行う時の一種のキャッチフレーズのような感じで広告屋さんが考案したんじゃないかなと類推しています。
1920~30年代のヨーロッパのタンゴ・ブームの時でも、国をあげて「ヨーロッパの新しいタンゴを作ろう」というムーブメントがあったわけでも、ヨーロッパ風タンゴの後継者が後を引き継いでいったわけでもありません。
このあたりは意識的に自国の新しい文化「タンゴ」を育てていこうとし、伝統を引き継いでいったアルゼンチンとは事情が違います。
特に体系だっていなかったヨーロッパ風タンゴを、アルゼンチンタンゴと双璧をなすようなイメージでまとめるために、「コンチネンタルタンゴ」という呼称が生み出されたのではないでしょうか?
コンチネンタルタンゴの編成
日本でのブームのためか、一般にコンチネンタルタンゴというと、アルフレッド・ハウゼ楽団などの編成や演奏スタイルがイメージされるようです。
つまり・・・・
・比較的大きな編成で演奏される
・アルゼンチンタンゴではあまり使わない打楽器を多用
・編曲はいたってシンプルでソロや変奏などもあまりない
・リズムは軽快でシンプルな4ビートやハバネラが中心
といったスタイルで、音楽的にアルゼンチンタンゴとは「似て非なる」部分が多いのが分かります。
実際にアルフレッド・ハウゼ楽団の「碧空」を聴いていただくと雰囲気が伝わるでしょう。
「アルゼンチン」タンゴも演奏します
これらの楽団はヨーロッパ産のタンゴだけではなく「ラ・クンパルシータ」「エル・チョクロ」といったアルゼンチンタンゴのもレパートリーにしていたので、分類がますますややこしくなります。
こちらがアルフレッド・ハウゼ楽団の「ラ・クンパルシータ」。
アルゼンチンタンゴの「ラ・クンパルシータ」については下の記事にまとめていますので、参考に聴き比べてみてください。
先に「コンチネンタルタンゴはジャンルとしてあいまい」と書いたのはこういったコンチネンタルタンゴの特徴が原因です。
つまり「大衆向けの音楽なので、ヨーロッパ産でもアルゼンチン産でもウケれば何でもOK!」というおおらかな感覚が、コンチネンタルの楽団にはあるのです。
本家アルゼンチンタンゴが「伝統」「革新」「タンゴの心」等々、なにかと口うるさい一面があるのとは対照的です(汗)
コンチネンタルタンゴの明朗快活な雰囲気に親しんだ人からすると、アルゼンチンタンゴはけっこう根暗でややこしい音楽にも思えるようです。
中でもコンチネンタルタンゴの甘~いムードとは真逆のポジションにいる私たちタンゴ・グレリオ…
コンチネンタルタンゴを語るときは、ついつい恨み節が混じってしまう気もします(;^_^A
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