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【インタビュー】PAC CAT「心で動くっていうことが、僕にとって原動力」【OTAQUEST】

「OR x TWELVE ARTIST x OTAQUEST+DA.YO.NE」は、自身もアーティストでもある編集者の米原康正が毎月1名の若手アーティストにスポットを当て、12ヶ月にわたり12人のアーティストを紹介していくプロジェクト。東京・渋谷に誕生した新スポットMIYASHITA PARK内のカルチャーハブステーション「OR」を舞台に、作品の展示、音楽イベント、コラボアイテムの作成、ポップアップストアなどを実施している。
その第一弾のアーティストとして、2020年11月の「OR」を彩ったのが現代美術家として活躍するPAC CATだ。独学で作品を制作し、自由な素材、技法選びとコンセプチュアルな表現を特徴としている。本展では2020年のパンデミック、特に東京で生きるなかで受けた外出自粛下での特殊なコミュニケーションとそれに伴うストレスからインスピレーションを得た作品を発表。ここではそのPAC CATという人物像に迫った。

*この記事は、”HYPER OTAKU MEDIA” 「OTAQUEST」に、1月4日に掲載されたインタビュー記事を日本語として掲載しております。オタクエストは、日本の様々なカルチャーを世界に向けて発信しております。こちらのサイトも是非チェックしてみてください!


PAC CAT【TWELVE ARTISTS vol.1】

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【Profile】
現代美術家。東京在住。00年代から独学で作品を制作。自由な素材・技法選びとコンセプチュアルな表現が特徴。2020年のパンデミック、特に東京で生きるなかで受けた、外出自粛下での特殊なコミュニケーションとそれに伴うストレスからインスピレーションを得た作品を発表。様々な暗喩に満ちた同シリーズでは電話PVC素材が重要なモチーフとなっている。


「これ僕が描いた作品じゃないんですよね」


OTAQUEST:米原さん(本展示企画のキュレーターを務める米原康正)がキーパーソンとなって☆TakuもDJ出演したパーティには、たくさんの人が集まりました。

PAC CAT:イベント自体が生きた作品であるなと。良い意味で実験的な面もあるスキームだと感じました。空間や照明、人が入って自分の作品が違う表情になるのは新鮮でした。

OTAQUEST:作品の評判やお客さんとのやりとりはどうでした?

PAC CAT:例えば僕の作品を見た人から「かわいいですね」って言われた時、僕は「これ僕が描いた作品じゃないんですよね」って言うようにしています。そもそも「芸術家です」って自分から言うのはあまり好きじゃない。僕のプロフィールを読むとそういった内容は書いてはありますけど、あれは人に書いてもらったものなので、自分でも「俺って現代美術家なの?」って思いつつあえて使っています。

OTAQUEST:「僕が描いた作品ではない」と言うことには、どんな意図があるんですか?

PAC CAT:驚きって人の脳が動く振れ幅としては最大値で、脳内でビッグバンが起こる。つまり解釈を考えることで宇宙が作られていく。僕はそういうものこそがアートなんじゃないのかなって思います。“かわいい”もひとつの視点からの解釈であり、ほかにも違う視点があるという認識を持ってほしいからわざとそういう風に言っています。

OTAQUEST:自分の想定以上の切り返しをしてくる人がいたらどうですか?

PAC CAT:むしろ興味ありますね。応戦すると思います(笑)。

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"マイミク"だった15年前の出来事から


OTAQUEST:ちなみに米原さんとはどんな出会いだったんですか?

PAC CAT:面識はなかったけどマイミク(相互フォロー)だったんです。米原さんって時代に合わせて変化する人というか、芯はありつつも、側を変えて時代にマッチさせるっていうイメージがありました。その頃、同じようなカルチャーがループされていることに対して米原さんにどう感じているかを、顔を合わせた事もないのにメッセで聞いてみたんです。そしたら好意的に長文で返事をくれました。15年くらい前の話です。

OTAQUEST:そこから米原さんとどんな交流をしていったんですか?

PAC CAT:マスタードホテルっていうデザインホテルの支配人と仲が良かったんですけど、『美術手帖』(日本のアートマガジン)とコラボすると言っていたので僕が絵を描いていることを伝えると、展示してもらえることになりました。米原さんにインスタで「よかったら見に来てください」って送ったら本当に来てくれて。「この展示作品はいくら?」みたいな(笑)

OTAQUEST:ストレートですね(笑)

PAC CAT:値付けとかもよくわかっていなかったので、「じゃあ話そう」って誘っていただき米原ご夫妻とお会いして、他のギャラリーの見学もしてみることになりました。雑味もない状態で展示されている作品を見て、「美術館ってこういう感じだったな」と思い出しましたね。

OTAQUEST:展示における無機質な空間って一種の演出ですよね。

PAC CAT:展示について学ばせてもらいましたね。そしたら米原さんが「渋谷にORっていういい展示場所あるよ」って言うので、僕の作品を任せることにしたんです。で、蓋を開けたらこれまで見学してきたギャラリーと様子ちげえじゃねーかって(笑)。もちろんいい意味で。僕の作品との相性も考えてくれてるんだなと。

「他のアーティストとのコラボレーションにも興味」


OTAQUEST: ボックス席でお酒を飲んでいるお客さんの頭上に、正方形サイズの小さめの作品が飾ってあるのがとてもさりげなくて、一番空間としてハマっているように感じました。

PAC CAT:“ヤクを捌いて豪邸を建てたやつの家にありそうなドラッギーな作品”って形容をされたことがあって、そのアプローチに近いかもしれません。他の人の展示を見てみたいですね。これ以上にハマってたらちょっと悔しい。

OTAQUEST:運営側も慣れてきますし、後に出す方が有利ではあるかもしれません。

PAC CAT:作品自体の演出で負けたくない。僕は前例がない状態で全力でやったけど、もう1回僕がやることになったらそれより上に行く。それとは別に、他のアーティストとのコラボレーションにも興味があって、音楽的にはジャムセッションのような。マインドとマインドが一枚のものにハマる。そういう関わり方ができるのも面白さのひとつですね。

OTAQUEST:手の内のさらけ出し合いっていう。

PAC CAT:お互いすり寄せ合わなくても面白そう。例えば僕が描いたものを渡して、相手がそれを消して上書きするみたいな。

OTAQUEST:ぐちゃっとされたり。

PAC CAT:あれ、俺が描いたの無くなってるじゃんみたいな。作品を燃やされたとしても破片が残ってれば。実際にやられた場合は、結構頑張って描いたんだけどなあとか思うところもあるでしょうが(笑)。念のため最初は複製を渡そうかな(笑)。

OTAQUEST:燃やされるかもしれない(笑)。さて、今回の展示作品はテーマである「新型コロナウイルス」っていう先入観で見ていくと、さまざまな解釈や思考が生まれて面白かったです。PVC素材を使っているのが特徴的でした。


「疑問を持ってもらうのが僕の作風」


PAC CAT:様々な場所でパーテーション、シールドとして身近なものになってきたPVC素材。外出もしないし服なんて何でもいいやってなってきた側面もあり、人のモチーフにシールドとしてPVCを着せたり、トゲを生やしたりディスタンスを強制的に作ることで、比較的露骨なメタファーを表現しています。

OTAQUEST:ソーシャルディスタンスやステイホームによる孤独感……昨今の情勢で表出してきた価値観に、疑問を投げかけるような作品群ですよね。1点、女の子がぬいぐるみを抱きしめる象徴としてモチーフとしてはポピュラーな存在だけれど、あえてなぜ熊なのかなっていうのは思いました。

PAC CAT:熊は単体でもシリーズで見ても成り立つ意図がちゃんとあるんですよ。思考の脳内ビッグバンがアートっていう解釈から、ここでは答えを言いませんが。その人の答え自体が作品だったりすると思うので。疑問を持ってもらうのが僕の作風でもあるので、あえてツッコミどころを残してるようなロジックで作っています。そこを考えてくれっていう思考の余白。

OTAQUEST:トラディショナルな作家ではないとご自身でもおっしゃっていますが、どういう道筋でアートの世界に入ってこられたんですか?

PAC CAT:トラディショナルでないとは言い切れない。ペンを持って紙に描くとか、古典的な要素はあります。僕の髪型と同様、伸ばしてるとこはトラディショナル、刈りこんでいるところには新しいものが生えていくという感覚です。

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ミュージシャンからアーティストへ


OTAQUEST:いつから絵を描いているんですか?

PAC CAT:年に1回、正月に実家に干支を描いて帰ってくるってことを習慣としてやっていました。

OTAQUEST:美大を出て卒業制作をして、という道筋ではない?

PAC CAT:ではない。元々僕は音楽をやっていたんです。親は大学には行ってほしかったようで、美術系の大学には合格したんですよ。でも僕はその時、特殊メイクに興味があって専門学校に行きたかった。だから落ちたってことにしちゃおうと。受験票とかを勝手に書き換えて、これダメだったねって。専門学校へ行くための裏工作をして、特殊メイク・特殊造形・ヘアメイクなどを2年間学びました。

OTAQUEST:そこから音楽やアートにどのように関わっていくんですか?

PAC CAT:19歳の頃、BOOM BOOM SATELLITESのアートワークを手掛けていたデザイナーと出会い、僕が造形したものを写真に撮りたいと言ってくれたことが転機でしたね。僕もその人を真似て写真を撮ったり、デザインをやっていたら、THE MAD CAPSULE MARKETSのソロワークの写真を撮ることになりました。中学生のころ飯も食わずにマッドのCDを集めていたので嬉しかったですよ。その打ち上げでボーカルのKYONOさんと話したとき、新しいバンドやるからリハーサルを撮影してほしいと頼まれました。行ったら歌詞カードを渡されて、リハスタで歌ってみてくれって言われて歌ったら、このバンドで今度サマソニ(フェス)に出るからって(笑)。そこからサマソニやライジングサンに出たりツアーをやったり、完全にミュージシャンになりました。

OTAQUEST:すごくイイ話なのに、音楽をやめてしまったのはなぜですか?

PAC CAT:いきなりサインくださいとか言われるようになったりして、その感じは面白かったんですが、それも繰り返す事でだんだん飽きてくる。同じ曲をやり、練習してステージに出てテンション上がってる風に見せないといけないこともあり、リアルとの違和感を感じることもありました。ライブ会場の空気感は好きなので、あくまでもそうゆうこともあるっていう話ですが。昔、The ProdigyのKeith Flintが、俺の仕事はステージに上がって数秒でブチ切れることだ、と言っていたのですが、そこに答えがあると思います。ちなみに、いま音を楽しんでいないだけで、音楽をやめたわけではないです。

OTAQUEST:音楽は人前で“きちんと”演奏するのがスタンダードですもんね。

PAC CAT:何をもって完成かってことなんです。緻密に長い時間かけて完璧にやるのもいいんですけど、それって苦しくない?って思うんです。僕はリハのときのように心が燃えてるうちに、煮込むんじゃなくてパッと炒めたい。僕にはそれが合ってるかな。まあ、煮込みの要素も必要だったりするので煮込み炒めですかね。

OTAQUEST:アートに対する姿勢もパンクな音楽遍歴と通じていますね。

PAC CAT:マインドはそうですね。パンクだったりポストパンク的であったり。極力型にハマりたくないのもあり作品ごとに作風も違ったりするんで、人から「これは合同展ですか?」と聞かれたこともあります。自分自身、まだ模索中なので例えば1週間後に同じインタビューを受けた場合、全然違うことを言っているかもしれない。今日まで育ってきた人間トータルの魂というか、人間味を作品に凝縮しています。

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「心で動くっていうことが、僕にとって原動力」


OTAQUEST:継続的に絵を描くことの楽しさを感じた瞬間はいつですか?

PAC CAT:さきほどお話したBOOM BOOM SATELLITESの映像を作った会社で今働いていますが、ニューヨークから仕事で来ていた画家が帰るときに残していった画材があって、それを使って自分で描いてみたんです。そしたら楽しいなと。音楽を作ってた頃と比べると自由度が高いと感じました。

OTAQUEST:音楽と絵の自由度の違いを感じた部分を教えてください。

PAC CAT:音楽ってミックス・マスタリング、そこにデザインが入って、PV、MVがある。音楽単体ではなく何かしらのビジュアル的要素が加わって完成されるという認識で。全て自分でやってしまう方もいるかもしれませんが、僕でいえばミックスやマスタリングが得意ではないし、その作業がそもそも好きでなかったりするのです。絵は描くのも仕上げも全部自分でできる、外注が必要ない。そりゃあ絵も、本当の意味で1人で作ってるわけではないけども、ある程度の1人っていう意味で、不自由の中の自由ですね。

OTAQUEST:昨今ではYouTube含め映像で音楽を聴いている人も多い印象があります。映像と絵画を比較するといかがでしょう?

PAC CAT:個人的には音楽は試聴においてお客さんの時間を取りすぎな気もします。一個の作品を全部見ないと“見た”とは言えないというか。例えばAメロは好みじゃないけどサビは好きだっていう曲があったとして、少なくともその曲の映像では、好みでないAメロを聴きながらサビまで待たなくてはいけない。いつ映像的に好みの展開がくるかもわからないですからね。そうやって細部まで見ることを強要されるのがスマートではないというか。絵は概要をサクサク見られる媒体で、解釈も人それぞれ。あと、音楽は自分とのバイオリズム、気分によってハマるハマらないが変動しがちだったり。絵に関してはそれが緩やかな印象です。

OTAQUEST:芸術表現っていうものの純粋な部分を突き詰めたくなるんですね。他に、PAC CATさんにとって絵の表現が自分に合っていると思う部分はどこでしょうか?

PAC CAT:自分の意思を込めやすい。音楽はデジタルで作曲する場合などは特に、メーカーが出している音色やエフェクトを切って貼って組み合わせるからコラージュに近い気がする。絵の場合はペンや画材は誰かが作った物だけど、音楽と比べると占有率というか、他者に侵食されてる割合は少ないかなと感じます。

OTAQUEST:音楽を分解してしまうと全部記号になっちゃうっていう意味ではそうですね。絵の自由度の高さを感じたとおっしゃっていたときは、どんな作品を描いたんですか?

PAC CAT:繊細さはないけどパッション感があるものをサイズは少し大きめでしたが、数時間で描き上げました。その時は既にコロナ禍にあったので、コンセプトを作ってリモートワークをテーマに電話機をオマージュしました。猫をモチーフにしている作品は、干支に猫がいなくて描いたことがなかったから描いています。というのは半分ユーモアですが、加えて猫という動物は、さっき言ったように自由に見えて不自由な生き物を体現している動物でもあるから描き続けています。

OTAQUEST:今に至るまで描き続けていたものが今回の展示に繋がったんですね。

PAC CAT:絵の心地よさを見つけてから、気持ちいいことってやり続けたくなるじゃないですか。オランウータンにオナニーの仕方を教えたら死ぬまでオナってるとか聞いたことあるのですが、人間もそういうとこあると思うんです。

OTAQUEST:今、ある作品の「何かに酔っ払って生きてないと、人間やってらんねえ」っていうセリフが思い浮びました。

PAC CAT:好きな音楽を聴くとか、好きな何かをする。やらなければいけなんじゃなくて、好きだからやる。心で動くっていうことが、僕にとって原動力。気持ちいい場所を見つけて動かされている。僕の人生でいろいろ見てきたものを描いているので、「伊達にあの世は見てねえぜ」というところでしょうか。

OTAQUEST:改めてPAC CATさんの経歴を聞くと、今回の展示でDJとコラボするなど再び音楽と交わった点も面白い試みでした。

PAC CAT:人間ってわりといい加減で、記憶も曖昧な残酷な生き物だと思います。僕にとって絵はそのときの感情を思い出したり、確認するための記憶と感性のマーキング。僕に合ってるというか、人の構造に合っている気がします。


text by Tomohisa Mochizuki
photo by Fumiaki Nishihara (OTAQUEST)


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