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韓国映画「息もできない」


韓国映画「息もできない」。noteを始めようと決めまして、初めに書こうと決めたのはこの映画でした。なぜなら、この映画は今まで観た映画の中で最も美しいと思うから。美しいの感覚には色々とあると思いますが、しばしお付き合いいただければ幸いです。

この映画、日本語では「息もできない」と割と受け止めやすい邦題になっていますが、韓国語の原題は「トンパリ(=クソバエ)」とものすごいスラングです。もちろん原題が示すとおり、映画の中は暴力描写とスラングとショッキングな映像や内容が多く含まれます。韓国映画には、「過激な暴力描写」や「とことんタブーを描く」という良くもあり悪くもあるという諸刃の剣的な部分がありますが、さてこの映画はどうなのか。

主人公のひとり、ヤン・イクチュンが演じるサンフンは、高利貸しの取り立てを仕事にしています。母親と妹は父親のDVが主な原因として、みたところサンフンが中学一年生ぐらいにすでに亡くなっています。(DVは直接の原因ではないですがはしょります)サンフンは父親が二人の死の原因だとして恨んでおり、映画の割と冒頭で出所してサンフンと同居しはじめたことがわかります。母親と妹を殺した父親と同居しているサンフン。

もうひとりの主人公は、キム・コッピ演じるヨニ。彼女は高校三年生ですが、勉強に集中できません。なぜなら、屋台を経営していた母親はある日屋台を取り壊しに来た悪漢に殺されます。そして、おそらく父親はベトナム戦争に出征したことで、精神が少しおかしくなっており、ヨニの母が死んだことを受け入れられていません。そしてそんな家庭環境で少しずつ悪の道に進み始めている弟もいます。

二人の生活環境はまったくもって「良い」とは言い難いものです。簡単に言えば、希望なんてものを持ちようがないような環境。でも、その二人が出会うことで(出会い方は壮絶w)、少しずつ二人の中に何だか希望のような温かいものが感じられるようになります。でも、二人の環境は、それがどういうものなのか判断できる余裕すら与えません。少しずつ二人が近づく中で(表現し難いですが、確かにつながっているような感覚を二人が持ち始める中で)、それぞれにさらに追い打ちをかけるような、強い痛みを伴う出来事が二人に訪れます。

それらの出来事は、サンフンにとっては過去を思い出しながら激しい怒りを感じながらも、そうするしかなくて、でもそれが正しいことなのか判断ができないような出来事。ヨニにとっては、環境を受け入れて自分なりに生きていこうと、進んでいこうとしているのに、すべてを裏切られ絶望を感じざるを得ないような出来事。

そんな夜に二人は漢江という川辺で夜中に、一緒にビールを飲もうと会います。お互いが何かいつもと違うということに気づきながら、二人とも本当のことは相手にいいません。でも、「何か」があったことを察しながら、二人は川辺で涙を流します。このシーンは、誰に何を言われようとも今までの映画で一番美しいシーンです。何を言ってるんだという方がいれば、それは私の表現力が拙いだけです。

そして、エンディングにつながるわけですが、この「息もできない」、ほんとうにいい映画です。この映画をいい映画と明言せずしてなんとしようか。未見の方は必見、ご覧になった方はもう一度泣きましょう。

「息もできない」(監督:ヤン・イクチュン、2008年公開、韓国映画)



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