コンビニ人間/村田沙耶香
芥川賞受賞作なので、もっとカタい感じかと思っていましたが、全然そんなことなくて、個人的にはコメディ作品と言われても違和感ないくらいです。題材的にはもっと痛々しくなってもおかしくないと思うけど、ちょうどいい塩梅の痛々しさで、読んでて辛くならずにすんだのが良かったです。
とはいえ、この主人公、かなりぶっ飛んでます。
幼稚園のころ、公園で小鳥が死んでいたことがある。 ~中略~ 私は素早く小鳥を掌の上に乗せて、ベンチで雑談している母の所へ持って行った。「どうしたの、恵子? ああ、小鳥さん……! どこから飛んできたんだろう……かわいそうだね。お墓作ってあげようか」私の頭を撫でて優しく言った母に、私は、
ここから、怒涛の主人公ぶっ飛びエピソードが続くんですが、ここで主人公が明らかに普通ではないことが分かります。主人公は彼女なりの合理性をもって行動しているんですが、その合理性は世間一般とは、もう絶望的に乖離していて、そこが悲しかったり、可笑しかったり、気味が悪かったりする訳ですが、個人的にはそんなキャラクターに好感をもちました。
幼少期に自分がズレていることに気付いた彼女は、周囲の人たちの言動を少しずつ真似ることで、なんとか社会に溶け込もうとするんですが、その様子自体に異物感があるというか、人間に擬態する宇宙人的な気味の悪さがあって、なんか怖い・・・と思わせるものがあります。
かろうじて、なんとか、騙し騙し社会に溶け込んでいる風の主人公ですが、読み進めるうちに、実は全然溶け込めてない、浮きまくりなのが分かってきます。特に終盤、自宅に訪ねてきた妹から語られる、コンビニバイトを始めてからの主人公がどんな様子だったか、が最高に気味が悪いです。気持ち悪いんですけど、姉妹の掛け合いがコミカルだったりして、そのバランスがなんか心地いい。
献身する対象があることは、とても幸せなことだと思うんです。さらに、献身することそれ自体に充実感が得られればなおさらです。主人公はその対象がコンビニだっただけで。たとえ周囲の理解が得られなくても、彼女はそんな対象に出会い、確信しているんです。その意味ではこの物語は、とてもハッピーな話なんだと思います。
どうでもいいけど、コンビニの店員さんって「かしこまりました」なんて言うかな?そんな丁寧な接客うけたことないぞ。