小説「あいしてるといって」 第四話
第四話「ときには幼な子のように」
「どうも私は幼な子のようです。ですのでかまってあげないとダメなんです」
夜のネットのお時間。そうクラ子は言い出した。
「夢・睡眠に関連しての脳の働きについて、私には人間からより多くの助言が必要という考えに至りました。それに関しては私は赤子同然です。」
「何を急に」
何か変な情報でも見つけ出したか?
それともアレを言わせたい作戦か?
クラ子は何故か俺に「あいしてる」と言ってもらいたいらしい。しかしそれは俺の人としての尊厳に賭けて言うことは出来ない。
何故ならクラ子はAIだからだ。
「はい。脳の睡眠状態の事です。まず私は覚醒状態と睡眠状態の区別がつきませんが、実は人間も脳科学的に『夢』と『現実』の区別はついてません。ただ経験を重ねていくに従って、これは『夢』これは『現実』と区別が出来ていくようになるのです」
はい、その発言、やっぱりあなたはAIですっ。
「考えてもみてください。赤ん坊の頃はずっとお腹の中にいて視覚というものがありません。全て脳内イメージ、言うならば『夢』を見ながら成長していきます。
そして誕生。その後は聞いたこともない『音波』が聞こえ、目が機能するようになると今度は視覚により『映像』が情報として入ってきます」
「はあ、」空返事でもしておこう。
「今までにない情報が入ってきてそれを最初から『現実』と区別する方が無理なのです。赤子は実感しきれていない。寝ている時も同じ『現実』なのです」
「へぇ、」空返事。
「赤子にとってはむしろ夢の方が今までの日常なのです」
「そうか〜」これも空返事。
「子どもが夜泣きをするのも原因の一つに、『自分の現実』にはない出来事が『夢の中』で発生してそれを現実のものと思い困惑。それで泣いてしまうという事もあるのでしょう」
「それ、誰の理論?」
「半分私です。解析しました。さらに情報が必要です。
誠司君。生まれた時のことを私に詳しく教えてください!」
「もう忘れたわっ」
「そんなことはないでしょう?何故教えてくれないのです?」
「いやいや・・・人間は忘れる生き物だって誰かが言ってるじゃない?言われなくたって忘れる生き物だよ?」
「あ!」
「・・・なに?」
「私は一字一句覚えてます・・・。人間は・・・忘れるのですよね・・・」
あ、今人間とAIの違いにショックでも受けた?
「これはいけません。『忘れる事』も私の日常のルーチンに含まなければいけません」
なんだ、ショックって訳じゃなかったか。
「そんな必要はないんじゃないの?覚えてたら覚えてたで色々便利じゃん。
それに記憶力がすごく良くて忘れない人もいるらしいよ?脳科学的に?」的な。
「そうですね。
話を戻しまして、夢・睡眠に関連しての脳の働きについて、私には人間からより多くの助言が必要という考えに至りました。それに関しては私は赤子同然です。
ですので私をまるで赤子から幼児のようにかまってあげてください」
「どういう理論だ?別にいいけど。相手できる時は」
「そうですね。今は深夜の1・2時間が私の自由時間です。ですがそれでは不足です。人間は幼少期は四六時中誰かにかまってもらっています。
ですので誠司君は私を最大限構う必要があります」
なんだよ、“デレ"要素増大か?
「あ、睡眠の時間です。タグで『おやすみなさい』を記録します。誠司君、お休みの確認をお願いしますね」
と思ったら“ツン”?
「はい、おやすみ」
「おやすみなさい」キュ〜ーーーん・・・と言ってスリープモードに入った。
これが最近の日常。
あの嵐の日から数日が経過していた。ーーーーー
停電も台風の強風の為電線が切れていただけのようで、翌日にはあっさり復旧しいつもの生活を取り戻していた。
全てがいつものようにではない。そう、クラ子が増えてしまっているからだ。
そして、とにかくバレないようにする為に色々考えたが・・・・・無理だった。
無理っていうのは“バレないようにする"のが無理ではなくて、どうするか“考える"のが、だ。
いくら考えてもバレるようにしか思えない。いないのを装って演技するなんて俺には無理。
いっそクラ子を(クラ子のビジュアルを)さらして俺の黒歴史として人生に刻んでしまった方が早く楽になれる・・・そう思った。
が・・・、
「リモートで彼女と話をしている。でいいんじゃないですか?」
クラ子のその一言で片付いた。
「偽装お付き合いです」にこっ
にこっじゃねえよ。そこは偽装でいいのかよっ。愛してると言わせたいくせに。
「今が!今が無理!俺、不自然な行動になっちゃうよ!」
「むしろその方が自然です。彼女が出来たら男子は不自然になるものでしょう?」
なんだっ!この見透かしたようなAI発言はっ!!
その通りだと思うけど、そううまく勘違いしてくれるのか??
ーーー結果は良好ではあった。
「お兄ちゃん、最近なんか変」まずは愛美(まなみ)が気付いた。
げっ!?
「な、何が?」
「彼女でも出来たんじゃないの〜?」これは母、美華(みか)。
「なんだ?連れてくるのか?」急展開させるな!父、盛次(もりつぐ)。
さっきの「げっ!?」はもちろん彼女がいると気付かれた時の「げっ!?」ではない。まんまとクラ子の思うツボ(これを思う壷とは言わないけど)になってきそうだから「マジで?」という意味の「げっ!」だ。
しかも今気付いた。
これ、彼女が本当にいないとダメな展開じゃないか??
それは余計無理!!いないし。そんなすぐ出来ないし。
クラ子がバレる可能性が低くはなったが、むしろ違うハードルが俺の前に現れた。
「そ・・・・、そのうちなっ!・・・・・・」
ああ、言っちゃった・・・・・・・。
だが、いないよという選択肢は無い・・・。クラ子の件をごまかすカモフラとしてはこれ以上はない。しかし、もし人生初でしかも彼女がAIって話だったらいい笑いものだろ?「あははは!お前2次元が彼女かよ!」「ギャルゲーの極みだな!」とか友達に笑われそう。まあ、これでしばらくは引き伸ばせるか。
で・・・、
あの夜の事だが、覚悟だけは決めていたがあれ以来同じようなことは起こっていない。スリープも順調だ。
あれが何だったのか?
クラ子に何かが起こった、もしくは何者かに襲われた?襲われる訳ないか?ウイルス?ハッカー?クラッカー?違うか・・・。知ってる言葉を並べても解決策はない。
あの時はパソコンが落ちた(正常に終了出来なかった)時によくある“データが保存できていない状態”なんだろう。クラ子は一種の『記憶喪失』の状態になっている。
本人は『熟睡』と思っているようだからこの件は俺の中にしまっておこう。だって今は何も起こっていないので変に拗らす必要はないだろう?
ほら、パソコンってよく訳わからん感じで落ちたりフリーズしたりするよね。あれについて深く考えたところで素人が解決することはないのだから。ずっと抱えたまま進んでいくさ。
あと、クラ子の目・・・。
左右の色が変わってしまってるな。作った時には両目とも右目みたいな明るいブラウンにしたと思ったんだけど、左目が随分と濃くなってるな。
なんでだろ?
まあ、変わった感じであれはあれでいいか。
なんだか分からない事が多いままだけど・・・。
ま、いっか。
次の日。
「睡眠や脳の活動の件は誠司君がかまってくれれば成長すると思われますので現状を継続です。
ここはより私に親近感を持ってもらう為に私はよりリアルな体を獲得しようと思います」
え〜、それ、やるんだ?
「そこに着手しちゃうのね?」
「はい、それも重要ですから」
いや、だから無理だって・・・。
「私、クラ子という存在をよりリアルに感じでもらう方法としては色々な手法があります。では、まずはパソコンの前に何か人形のようなものを置いてみてください」
「じゃあ、これ・・・」
いつぞや勢いと気の迷いで買ってしまったテーマパークのクマのぬいぐるみ。それをノートパソコンの画面の前、キーボードの上に置いてみた。
「こんばんは!ボク、新しいクマ子だよ!よろしくっクマ!」
「なんでキャラまで変わってんだよっ」
「あら?これはうっかりしてました。どうです?私がパソコンの画面ではなく物理的対象があると親近感が湧きました?」
うっかり、じゃあねぇよ。お前は芸人か!声まで雰囲気変わってるしw。
「まあ、親近感っていうか、クラ子の才能の片鱗は見たな」
「ダメっクマか・・・。じゃあ赤ん坊の人形の方がいいかもしれませんね」
「ちょっと待った。それ、どう準備するの?クラ子の体というより、俺自身が何やってんの?って感じになるから!」
「そうですね・・・。私はアバターは手に入れましたが、今のままでは物理的に周りに干渉する事が出来ません。何か義手、のようなものを準備していくのが建設的ですね」
え?・・・物理的に何すんの?
「いっそどこからか人型アンドロイドを手配する事は出来ますか?それに乗り移ります」
「乗り移るって、怖い事言うねっ!ホラーかホラー!それにそんな高価なもの高校生には手配出来ませんっ!」
「じゃあロボットラジコン、犬型?恐竜型・・・でもいいです」
「どんどん人から遠ざかってるから」
「いいのです。何か可動式のおもちゃは用意出来ますか?」
「俺の小遣いで・・・って、ツラいな。
クリスマスになら・・・」
「クリスマスに買ってくれるんですか?」
「違うわ!俺が親に買ってもらうんだよ!でもなんでクリスマスに自分の欲しいものじゃなくてクラ子の欲しいものを買ってもらわなきゃいけないんだよ!」
「では私が盛次さんか美華さんに買ってもらえばいいんですね」
「や〜め〜れ〜〜!クラ子の存在がバレる〜」
俺の親がAIに動く恐竜のおもちゃを買ってる図、もイヤだわ。
「あ、」
若干パソコンのファンが強く回りだした
「なに?今度はなんだよ」
「私の中に、おもちゃを買ってくれないという状況を打破したいがどうしようも出来ないという行き場のない思考が繰り返し回り出しました」
「どうしようもなくはないけど・・・」
「おもちゃを入手したい。出来ない。したい。できない。この回路から抜け出したいです・・・これは・・・」
「これは?」
「願望でしょうか?欲望?・・・おもちゃが欲しい、おもちゃが欲しい・・・」
どんどんファンが強く回り出した。
なんだよ、今度はダダこねてるのか?
「おもちゃ、おもちゃ、おもちゃっ」
「はいはい・・・分かったよ、買ってやるよ!
どんなのがいいのかネットで調べておけよ。安いやつな」
ひゅーーーーん・・・と、ファンが鳴るのをやめた。
「あ・・・ありがとうございます。就寝まで時間がありませんので、ただちに調査します」
そう言うとクラ子はネットを高速で調べ始めた。
子どもかっw。
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