日本のことを英語で発信するのに役立つ(かもしれない)本
さて、今回はまた洋書の紹介です。
一昔前は英語を学ぶことは欧米の文化を知るためという人が多かったかと思うのですが、今は日本のことを発信する手段として英語を学びたいという人もたくさんいるのではないかと思います。でも、日本のことを話すための単語の多くは普通の教科書や単語帳には出てきません。それならば、手っ取り早く、そのジャンルの洋書を読んで覚えてしまおうという作戦です。
ご紹介するのは3冊。民俗学者・宮本常一さんの本の英語版と外国人ジャーナリストによる日本近代史の本と芥川龍之介の短編集の英語版です。
1. ”The Forgotten Japanese — Encounters with Rural Life and Folklore” by Miyamoto Tsuneichi, Translated by Jeffrey S. Irish
私の好きな本、宮本常一さんの『忘れられた日本人』の英訳。元の本が出版されたのは1960年ですが英語版が出たのはつい最近の2010年。これをAmazonで見つけたときは、昔の日本の地方の民俗を調査した本の英訳なんて他所の国の誰が読むんだ、翻訳を出した出版社は何を考えてるんだ、と正直思いました。
でもね、この本は日本人こそが読んだらいいと思うんです。英語で日本のことを話すために。
以前、ちょっと記事で触れたことのあるサミュエル・P・ハンティントンの『文明の衝突』には、世界を文明で分類すると、日本は世界で唯一、一国で一文明圏をなす国と見なすことができるとありました(学者によっては日本は中華圏)。この宮本さんの本は地方の老人たちから聞き取った昭和初期以前の暮らしぶりをまとめたものなんですが、中世の生活様式を色濃く残す日本の田舎の中には、とても民主的な村運営やヨーロッパと比較すると驚くような女性の自由が見られた地域があったことなどが書かれています。世界では宗教に基づく文明間の争いが絶えないにもかかわらず、世界の多くの人が宗教は道徳に不可欠であると考えているという調査を読んだことがあります。それを踏まえて考えると、一神教が根付かなかった日本という国で、武士のような行動規範のない庶民たちがどのような知恵や価値観で集団内の平穏を守り、互いに助け合い、民主的な村落を経営していたかを学び発信することは、異なる宗教の共存や世界共通の道徳規範を考える議論への多大な貢献になるのではないかと思います。そう、私は「日本スゴイ!」と言いたいわけでは決してなく、ただ、文明的に特異な存在である日本が主流と異なる視点を提供することは国際社会への贈り物になるはずだということを信じているわけなんです。まあ、日本の評価が上がると海外在住日本人の私が生きやすくなるのは事実ですが。😋
2. “Inventing Japan:1853-1964”
by Ian Buruma
2冊目はイアン・ブルマというジャーナリストの本。幕末から戦後の高度成長期までの激動の100年をコンパクトに解説した本。
外からの視点というのが興味深いですし、海外読者向けのため、日本の歴史や政治についての予備知識を前提としていないので、私のような学校で習ったことを全部忘れた人でも大丈夫です。英語もシンプルで読みやすいです。
歴史関連の単語や固有名詞をたくさん学べます。「西南戦争」を会話で使うことはなかなかないとは思いますが。
the Satsuma rebellion — 西南戦争
regimental flag — 連隊旗
to atone for this disgrace — この不名誉を償うために
3. “Rashōmon and Seventeen Other Stories” by Rhunosuke Akutagawa ( Penguin Classics)
これは、日本語と読み比べ用です。「あ〜、こんなふうに英語に訳すのか」といった感じで。日本語の原作の方はネット図書館の青空文庫で無料で読めると思います。私は「葱」という話がコミカルで好きなのですが、これも”Green Onions” という題名で収められています。英訳は村上春樹作品の翻訳で知られるジェイ・ルービン氏で、序文を村上春樹が書いています。ご興味ある方はどうぞ。
余談ですが、私が持っている紙の書籍は浮世絵が表紙ですが、Kindle版は漫画調のイラストが表紙みたいですね。一瞬、漫画版が出ているのかと思って中身を確認してしまいました。が、中身は普通の小説集です。