「なつめさんは本屋さんです(2)」 はらまさかず
なつめさんは、若く見えますが、おばさんです。ずっと、子どもたちのお話を集めていたなつめさんは、おばさんになってから古い小さなバスを買い、本屋さんを始めました。
けんちゃんが、
「ねえ、お父さん、電車にのろうよ」
といいました。
「やだよ。毎日のってるもん。休みの日は、のりたくない」
「じゃあ、駅に行こうよ」
二人が歩いていくと、駅前にバスがとまっていました。バスには、
『なつめの本屋さん』
と書いてあります。
となりには、メガネの優しそうな女の人がいました。
「いらっしゃいませ」
けんちゃんとお父さんは、本屋さんに入りました。
なかには本がぎっしり。でも、本をひらくと、鉛筆で書かれた文字。それは手作りの本でした。
「あっ!」
お父さんが声をあげました。
「これ、おれが子どもの時に書いたお話だ!」
なつめさんが、ふふふとわらいます。
それは、お父さんが子どものころ、満員電車が嫌になったお父さんのためにつくってあげたお話でした。
「これ、いくらですか」
「お金じゃなくて、かわりのお話とこうかんこ」
なつめさんが紙と鉛筆を出しました。
お父さんは、お話がうかばなかったので、かわりに、けんちゃんが書きました。
なつめさんの本屋さん、みんなのところにも、いつか来ますよ。
(作者のことば)
娘がむかし、私のために、満員電車が楽しくなる話というのをつくってくれました。実際、少し、楽しくなりました。