「らくがき」 木村研
お母さんが、一人で買い物にいってしまいました。
しんちゃんは、一人でおるすばんです。
テレビは、ワイドショーばっかり。どのチャンネルでも、マンガはやっていません。
「つまんないの」
しんちゃんは、テレビを消して、ごろんと横になりました。すると、目の前に赤いクレヨンが転がっていました。
火をはく怪獣をかいたときに使ったクレヨンです。
しんちゃんは、お絵かきをした時のことを思いだして、赤いクレヨンで、床に怪獣をかいてしまいました。
「ガオー」
怪獣が、いきなり火をはきました。
「あちちち。危ないじゃないか」
しんちゃんが怪獣をつきとばすと、
「やったな。ガオー」
と、怪獣が戦いをいどんできました。
しんちゃんと怪獣の戦いが始まりました。
怪獣は、なかなかてごわい。
しんちゃんは、おおいそぎで
仲間のお助け怪獣やヒーローをたくさんかいて、怪獣を追いつめました。
その時、お母さんが帰ってきました。
「おかえり」
しんちゃんが、玄関にでていくと、大きな荷物をかかえたお母さんが、
「そんなに汗かいて、どうしたの?」
と茶の間に荷物をおろして、「まあ」と目を丸くしました。だって、部屋中に、いっぱい落書きがしてあったからです。
お母さんは、冷蔵庫をあけて、冷たい牛乳を飲んでから、
「いいじゃない。まだまだ、外に行けない日は続くんだから、にぎやかな壁紙って、楽しいんじゃない……」
と、いいました。
「やったぞ。ガオー」
怪獣が、しんちゃんに、そっとブイサインを送りました。
(作者のことば)らくがきと思うと腹も立つでしょうが、壁紙の絵を描いてくれたんだ、と思うと気分転換になりますよね。そんな気持ちで、子どもたちと一緒に、もう少し生活を頑張ってくださいね。