「空飛ぶ本屋さん」 はらまさかず
ひなちゃんがお母さんと本屋さんから出てきました。これで3件目。ひなちゃんは、結局、本を買ってもらえませんでした。お母さんは、何でも好きな本を買っていいといつも言うのに、ひなちゃんが選ぶと、もっといい本にしなさいと、必ず言うのです。 ふと気づくと、二人の目の前に小さなバスがとまっていました。バスには、
『なつめの本屋さん』
と書いてあります。
となりには、メガネの女の人がいました。
「いらっしゃいませ」
ひなちゃんとお母さんは、本屋さんに入りました。
なかには本がぎっしり。
「何でも好きなの買っていいわよ」
お母さんがまた言いました。
ひなちゃんは期待せずに、本を一冊、取りました。
『空飛ぶ本屋さん』という本です。
本をひらくと文字が鉛筆で書かれていました。手作りの本です。
読んでいくと、それは、だれにも内緒で自由に本が買え、夜空を飛んでこっそり来てくれる本屋さんの話でした。
「ああっ!」
となりで見ていたお母さんが大きな声をあげました。
「こ、これ、私が子どもの時に書いた話だ」
なつめさんが、ふふふとわらいます。
「これ、いくらですか」
お母さんが言いました。
「あげます。でも、そのかわり、女の子が何を買ったか見ないこと」
なつめさんが言いました。
お母さんは、ひなちゃんにお金をわたします。ひなちゃんは、一人で本屋さんに入っていきました。お母さんはバスのなかでお留守番です。
なつめさんの本屋さん、みんなのところにも、いつか来ますよ。
(作者のことば)
本屋のなつめさん、久々の登場です。これは3作目にあたります。なつめさんの1作目は53話、2作目は57話です。あわせて読むよ、楽しいですよ。