「おひっこし」 木村研

「ほらほら。ちゃんと並んで泳ぐのよ」
 町の銀行の池を泳いでいた、カルガモのお母さんがいいました。
 カルガモの子どもたちは、みんなで六羽。一列に並んで泳ぐれんしゅうをしていました。でも、すぐに、あっちにいったり、こっちで遊んだり。
とうとう、お母さんが怒りました。
「いいかげんしなさーい。おぎょうぎ悪いと公園の池に連れていきませんよ」
「はーい」「わかったよ」
 子どもたちは、お母さんの周りに集まって、
「ねえねえ。おぎょうぎよくするから、早くいこうよ」「うん。いこう、いこう」
と、いいました。
「じゃあ。お母さんについて来るのよ」
 お母さんが池の外にでていくと、こどもたちも、「ぼくも」「ぼくも」「ぼくも」と、池の外にとびだしてきました。
そして、よちよち歩いて表通りにでていくと、お母さんはびっくり。
「まあ。だれもいないわ」
と、目を丸くしました。だって、表通りなのに、人も車もだれも通っていないからです。
 お母さんが子どもの時には、たくさんの人が集まって、車を止めて歩く道を作ってくれたのに……。
「ほんとに、どうしたのかしら?」
 カルガモのお母さんが、不思議そうな顔をしていると、
「人間たちは、みんな、うちの中さ。コロナウィルスって病気がうつるから、外にでられないんだ」
と、町のカラスがいいました。
「そうなの」
 カルガモのお母さんは、だれもいない道を、子どもたちと遊びながら公園の大きな池まで、無事ひっこしをしました。
「でも。だれもいない引っ越しって寂しいわ。早くコロナがおさまって、みんな、わたしの坊やたちに会いにきて欲しいな」
カルガルの親子は、今日も、公園の池でみんなが来るのを待っていますよ。

(作者のことば)
『999ひきのきょうだいのおひっこし』(ひさかたチャイルド)は、2012年度のドイツ児童文学賞にノミネートされ、大賞はとれませんでしたが、子どもたちの選ぶ「金の本の虫賞」になりました。みんな、ひっこしが大好きなんですね。そんなことを想像しながら読んでいただけるとうれしいですね。

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