死にたい夜に効く話【19冊目】『宇宙から帰ってきた日本人』稲泉連著
そういえば、子どもの頃から宇宙に行きたいと思ったことがないな。
いや、海外旅行にそこまで行きたいと思ったこともないし、国内旅行もろくにしないし、なんなら家の近所に出かけるのすらめんどくさい。宇宙どうこう以前に、単にわたしが出不精なだけな気がしないでもない。
そんなわたしでも、少なからず宇宙飛行士と呼ばれる人たちに興味があるのは、宇宙兄弟の影響であることはもう間違いない。
宇宙を目指す人たちと彼らを支える人たちの物語に、何度泣かされたか。そして大人になるにつれて、むっちゃんがいかにいい男であるかがわかってくるのである。つまり、わたしの宇宙に関する知識は宇宙兄弟が全てなのだ。
『宇宙から帰ってきた日本人』
宇宙飛行士12人のインタビュー記録。
立花隆さんの『宇宙からの帰還』のオマージュ作でもあるらしい。(残念ながらわたしは未読)
他の飛行士の方とのお話と噛み合わせながらの構成や話の引き出し方、表現の仕方に著者の熱い宇宙愛と宇宙飛行士たちへのリスペクトを感じた。
この本は、基本的な(あるいは専門的な)知識を得るためというのとはまた違う。実際に宇宙へ行った人が見た宇宙、そして地球の様子。その時感じた、感動とか畏れとか、単純な言葉で片づけられない感情とか、かなり感覚的な部分の話が全面に出てくる。
宇宙飛行士になる人っていうのは、とんでもなく頭のいい高学歴で、運動能力が高くて、鋼のメンタルを持つ人たちがなる職業だと思って、どこか線引きしている自分がいたけれど、読んで見ると、そうだよね、同じ人間だよなぁと思わされる。
とはいえ、特に船外活動の話では、高いところが苦手な自分としては想像するだけで怖すぎて、「やっぱ宇宙飛行士ハンパない」と思ってしまうんだけど。
飛行士によって感じたことは様々だったり、すでに宇宙を見てきた人たちと同じものを感じたりする。そうして、宇宙へ行ったことによって人生観を変えられた飛行士が多々いる中で印象的だったのは、「普通だった」と語る金井宣茂さんのお話だった。
すごい淡々としてる!
金井さんのお話を読んでいると、遥か遠い世界にしか思えなかった宇宙という場所が、急に日常生活の延長線上にあるようで、どうにも不思議な気持ちになる。
わたしが宇宙への憧れがどうにも薄いのは、あまりにもスケールが大きすぎて、憧れだったりトキメキを抱いたりする以前に、イメージがまるで持てないこともあった気がしてきた。宇宙というのは特別な人が行くところ。将来宇宙へ行けるようになっても、それはお金持ちだけ。だから、きっと死ぬまで自分には縁がないんだろうなぁってな具合に。
いつの日か、家族が「来週宇宙出張だわ〜」「じゃあしばらくお弁当いらないね」なんて光景が日本のあちこちでみられるようになるんだろうか。
自分が生きている間に、旅行の選択肢に「宇宙」が入ってくるのが普通の時代もやって来るんだろうか。
あと、宇宙飛行士になる人は、宇宙が好きでたまらない、ずっと宇宙飛行士になりたかった、そういう人ばかりがなっているのだと思っていたから、こういう人もいたのかと、正直それが一番の衝撃だったかもしれない。
そういえばちょっと前に、タカラトミーのロボットが月面着陸したというニュースが流れた。日曜の朝、子ども向け番組の間に流れるタカラトミーのCMで育った自分としては、マジか!?と衝撃が走ったのを覚えている。
時代はどんどん進化している。宇宙とか遠すぎてよくわからんわ〜なんて言ってた自分にも、いつか宇宙を身近なこととして実感できる日が来るのかもしれない。
本書では、個人が書かれた本も紹介されていて読みたくなってくる。ある意味、これまでの自分の人生で未開拓の分野なわけだから、新鮮味が増して楽しめそう。
でもまずは、宇宙兄弟を読まねば。
〈参考文献〉
稲泉連『宇宙から帰ってきた日本人:日本人宇宙飛行士全12人の証言』文藝春秋、2019年