ピアノ相克譚
味覚と嗅覚の消えた本日、コロナ療養一週間目となる。ほんとはこのレポートを自分の備忘録で書こうとしていたのだけど、書いていてまったく楽しくなくて基本的に見返すことのない下書き入りになりました。南無三。
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先日長年の謎が解けた。母が「親指ピアノ」なるカリンバを弾きたいというので、買ったのだが、母としては楽器が弾けることにあこがれをもっていたそうだ。それで、ピアノは物理的に現物がないので無理としても、時間の有り余る今、テレビで見てこれならやってみたい!と思ったという。
無論、関心を示すことがあれば歓迎なので買ってプレゼントしたわけだが、驚いたことに母は絶対音感があるようで、耳で聞いた音楽は音階になおすことができるということを知った。
たとえば、カリンバ用の楽譜も買いそろえたので、それを見ながら練習していても、原曲をまったく知らないとイメージがしづらい、というでYouTubeで音源を探してかけてあげる。するとそれを聞きながら楽譜を見ずに音階にして弾きだすわけだが、その方が本人は楽なんだって!えー!
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私たち三姉妹は幼少期にピアノを強制的に習わされ、姉のみが自発的にやりたいと言ったことで、長年ピアノとの関係も良好であるし、生まれた二人の娘にも自分の使っていたピアノを用いて英才教育をしている。私と妹はといえば、むしろやりたくなかったのに「高価なピアノを買ったのだから全員でやれ」ということで習わされ、正直に言って一度もピアノを弾くことが楽しいと思うこともなく8年も続けた。途中、部活に専念したかったのでやめたいと申し出ても、父親に数時間「説話」を受けてやめることを許してもらえなかった。なんとピアノの先生が引っ越すことになって終わることができた。
さて冒頭の話である。
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「楽器が弾けるっていいわよねぇ。ピアノやってみたかったんだもの」と母。
「私はピアノが大嫌いだった。やっと大人になってなんの感慨もなく聴くことだけは好きになったけど。やめたくて仕方なくてもやめさせてもらえなくてどんどん嫌いになった」と私。
母、驚いていわく「そうだったの…?」
「え、そりゃそうじゃない?私が習わせてと言ったのはバレエと剣道だよ。どっちも聞く耳持たずで問答無用でピアノやらされたんだから好きになるわけがないよ」。
「だって長女だけ習わせたらみんなかわいそうと思ったのよ。公平にしようと思って」と母が言い、そんな理由だったのか、と愕然としたわけである。
ぜんぜんかわいそうじゃないんですけど?笑
考え方が根本的に違うわけなのでもうそこはいったん置いておくとしても、母なりに「ピアノを弾ける」ことへの憧れがあり、それを自発的にやりたいと言った長女だけに機会を与えることがためらわれたという理由は、相いれないとしても、親心だ。それを責める気持ちにはなれない。
私は今、わりとピアノの音がないと落ち着かない生活になっていて、一人の時間には大抵ピアノ曲を流している。誰からも強制を受けず、自らが「これを好き」と言えるような時間の流れを介在させて、やっとピアノの音が好きになれた。親は子のためにいろいろとしてあげようとするんだろうけれど、自分の例をひとつとっても難しいもんだな、と思う。
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これまた不思議なことに、ピアノをモチーフにした作品をすごく好む傾向がある。漫画で言うと「ピアノの森」、「のだめカンタービレ」しかり。
映画では「敬愛なるベートーヴェン」がダントツで好きなんだが、これアマプラにも出ないし、鑑賞できたのはあのとき劇場で、たった一度きりなのだ。ぜひもう一度観たいと思いながら歳月が流れている。