冷酷または宿命という名の美
本当だったら封切り後、すぐさま観たかった『DUNE2』をやっと鑑賞してきた。しかも今まで私の映画鑑賞パターンは上映時最終回オンリーで、あえて人の少なくなった時間帯に行くのだったけれど、いまはまだ母を夜一人おいて外出するのも気が引けて、どうしたもんかとウンウン悩んだ結果、平日の仕事の予定が少ない真昼間に鑑賞する、という荒業を選択。いくらなんでも仕事をしている身なので、『DUNE2』の3時間という長丁場に行方をくらますのは冷や冷やものであったが、どうにも仕方なく決行したのだった。
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1より2は格段に面白いと聞いていたが、私の抱えている問題とややシンクロしていたこともあって気分が乗らず、吐き気をもよおすほど精神に堪える。腹の底に響くような重低音のサウンドも拍車をかけて、仕事の連絡も気になるしで1時間半あたりで退出してしまおうかと悩んだが、「あど10分、あと10分」の繰り返しでようやく2時間を超えたあたりから物語が急激に面白くなる。
もともと砂漠の映像美が魅力で気に入っていたシリーズなのだが、美という意味ではティモシー・シャラメを抜きに語れないだろう。出自の血(父君がフランス人)のなせるわざなのか、退廃的な美が漂う。しかも終盤で覚醒してからの宿命に従って生きることを選んだ冷酷な美しさは素晴らしかった。
しかししかし、そのストーリーラインの重たく垂れこめた暗黒ぶりにやられてしまい、夜半まで気分がすぐれず物語に完全にのまれてしまったのだった。
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ティモシーの美しさを考えていたら、「いまの時代が欲するパワーが彼なのか」と思いつらね、不思議な気持ちになる。長いことその王座にいたのはやはりトム・クルーズだろうし、トムには由緒正しきアメリカンの明るさと正義、力強さとして時代が彼に投影するものがあったと思う。単純な映画スターとか集客のできる役者、スターというものでなく、数十年にひとりという感じで宿命的に顕れる俳優というのが在ると思う。
ティモシーの時代がトムほどに長くつづくかはわからないけれど、折れそうな細い肢体、正統派アメリカンでない退廃を備えた優男の魅力、混迷の世に生まれ落ちたダークヒーローのようなスターを時代が求めたんだとしたら、これはまた面白いことだ、と思うのだ。