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時代が追いついた頃に不在

 自分でも信じられないし驚いているのだが、なぜか唐突に「SOUL'd OUT」にハマってしまった…!「信じられない」とかあえて言う理由が、彼らがデビューした当時、私は「ダサい」と断じて受け受けられなかったのだ。あまつさえついこの間までネタ枠として扱ってすらいた。ひどい。謝罪。それが一体、なにが起きたというのか?

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 まず、このところ聴きまくってわかったこととして、私だけでなく当時、いろんな分野から彼らの音楽は「ダサい」と言われた。言われたはずなのに、今聴くとめちゃくちゃ新しいのだ。10年以上前の曲が、今リリースしたと言っても自然なほどに新鮮なのだ。それで考えた。当時ダサいと感じた人たちは、私も含めてある程度洋楽のヒップホップを聴きなれていた種類の人種だと思う。となると日本語ラップ自体にまず嫌悪感があった。「SOUL'd OUT」以外にもたくさんの日本語ラップを用いる人たちはいたが、その線引きとなっていたのは、「予定調和の旋律」なのだ。和製ヒップホップであろうと、この曲展開だとこういう流れになる、というある種の想定ができるものだ。

 ところが「SOUL'd OUT」においては、その予定調和と無縁のオリジナリティしかなかったのだ。それなので、「こんなんヒップホップじゃない」と断じる短絡的な経験値脳だったんだと、今はわかるのだ。しかし、当時からメインMCのDiggy-MO'のラップスキルは段違いであって、曲全体をダサいと論じた輩においてもこれは認めざるを得ないレベルなのだった。

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 あの頃、和製ヒップホップがあふれては隆盛し、そしてまた衰退しては新しい音楽が生まれた。その新しさはプロが生み出すのではなくネットを使って市井から誕生する時代になった。その、誰もが新しい旋律にいち早く触れられる時代になると、「SOUL'd OUT」が当時やっていた先進性がやっと理解できるようになった、というわけなのだ。

 聴いていて肩透かし食ったり、え?と驚いたりするような転調や、何を言っているのかわからないけれど抜群のセンスのラップだとかがこの時代においては非常に新しく感じられる。毎日毎日、それでもネタのつもりで聴いていたのに日ごとに夢中になっていくのが自分でもわかった。
 これはふつうに素晴らしい音楽。稀有でたぐいまれな音楽。

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 惜しむらくは、もうバンドは解散しているだけでなく、Diggy氏はなぜか表舞台に現れない。作詞や曲提供をしているようなのだけど、あの唯一無二のパフォーマンスをなぜかしなくなっていた。なぜ?

 過去曲のYouTubeでは数百万PVを誇るが、コメントは年々増え続けごく数ヶ月前のものが多い。そして、多くの人が私のようにリアルタイム時に敬遠していた人たちが今になって開眼していたり、親が聴いていて知ったという若い高校生だったりと、実にバラエティ豊かなリスナーを増やし続けているのだ。そして異口同音に語られるのが、「彼らは早すぎた。時代がやっと追いつこうとしているがそうすると彼らがまた引き離す」といったコメントだ。本当に、今の時代であったらネットから世界へ飛び出してもおかしくないだろうにと思う楽曲の数々なのだった。

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 一方で面白いのが、メインMCのDiggy氏はネットミーム化しており、彼が発する「ア アラララァ ア アァ!」という音声は「Diggyの鳴き声」と呼ばれ愛されている。確かにどの曲でも一度は差し込まれる「ア アラララァ ア アァ!」は、巻き舌気味で実に難しい。今をときめくR指定氏も、Diggy氏に影響を受けたというが、ラジオなどで大いにネタとしつつ愛がつわたってくる。

 とにかく尋常でない英語のうまさで、少ない情報を調べると独学で身に着けたというから驚き。完全にネイティブかと思うばかりのうまさなのだが、英語が近い環境にいたということや、とにかくよく勉強をしたという。

 どれだけネットミームとして愛されているかはこの動画を観てみてほしい。面白過ぎて際限なくリピートしてしまうし、タイトルの「Diggy-MO'を育てる学校」、むしろ育てて輩出してほしいと思ってしまう。


 表舞台から遠ざかったのにはパーソナルな理由や考えもおありの事と思う。けれど願わくば、歳月を経てさまざまの変容を遂げた最新のDiggy氏のパフォーマンスをぜひ観てみたいものだと思う。

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