"攻める大和撫子"の柔と剛
最近、社会に出て働くようになった私(笑)。
せっかくなので、通勤電車の時間を使い、先週読んだ本を一冊紹介します。
「山口恵梨子(えりりん)の女流棋士の日々」という本です。
山口恵梨子 女流二段は、鳥取県出身の女流棋士。
将棋ファンの皆さんにとっては、タイトル戦の聴き手や、
youtubeチャンネル、バイキングでの藤井くん特集などで(笑)、
すっかりお馴染みなのではないでしょうか。
"攻める大和撫子"の異名を持つ彼女が、一女流棋士として過ごす毎日を、
マンガ家の、さくらはな。さんが取材して描いた、エッセイマンガです。
普段、将棋に触れることが少ない人には、
女流棋士の世界など、なおのこと接点がないように思われますが、
そんな人が読んでも、十二分に楽しめる作品であると感じた一冊でした。
将棋の棋風も、TV・youtube・イベント等の将棋普及活動への積極性も、
まさに"攻める大和撫子"そのものといえる彼女ですが、
私が読んでいて感じたのは、意外にも、彼女の持つ"柔"の部分です。
印象的だったシーンが3つありました。
1つ目は、彼女がまだ"聴き手"として駆け出しだった頃のこと。
"藤井システム"でもお馴染み、藤井 猛 九段による解説の聴き手を務めた際、
当時、すっかり緊張してしまって、「はい」しか言えなかった彼女(笑)。
気の利いた返事の一つも出来ないまま、時間だけが過ぎていきましたが、
藤井九段のトーク力のあまりの高さに、お客さんは大盛り上がりでした。
2つ目は、彼女が一般の方を相手に指導対局を行った時のこと。
自らは、指導する立場であるにも関わらず、指した相手がかなりの強者で、
"王手飛車(取り)"をかけられるなどして(笑)、まさかの敗北を喫しました。
プロがまともに指して、一般の方に負けてしまい、
最初は焦った彼女でしたが、ふと正面の相手を見ると、
楽しく将棋をさせた喜びに溢れた表情をしていました。
その時、プロとして相手をねじ伏せるのではなく、
"プロとして、将棋を楽しんでもらう"ことが大事だと気付いたそうです。
3つ目は、youtubeチャンネルを立ち上げた当初のこと。
慣れない動画撮影・編集に四苦八苦し、自分には無理だと思った時、
既に、youtuber女流棋士として、登録者数を順調に伸ばしていた、
後輩の女流棋士・香川 愛生 女流三段に相談を聞いてもらうべく、
自宅まで菓子折りを持って向かった彼女(笑)。
その後、動画編集を仲の良い友人に任せ、
喋りで噛んだ部分はバンバン切ってもらう方向で(笑)、
彼女のチャンネルは、現在もコンスタントに動画が投稿されています。
この3つから感じ取ることができた、彼女の持つ"柔"の部分。
それはずばり、"相手に任せてみる力"です。
ちっちゃいプライドやメンツを、頑なに守ろうとしがちな男性には、
なかなかこれが難しいと思う方も多いのではないでしょうか。
「俺が、しっかり勝たないと」
「俺が、ここは盛り上げないと」
「俺が、面白いもの作らないと」
そんな気持ちでいる限り、何かを誰かに任せてみることは困難でしょう。
しかし、彼女の柔軟性こそ、そこにあると感じられます。
「トークの上手い人に、この場は任せてみよう」
「相手の方に、将棋の楽しみ方を委ねてみよう」
「年下の後輩に、動画の作り方を教えてもらおう」
「仲の良い友達に、動画の編集を任せてみよう」
相手に任せてみればみるほど、不思議な位、
彼女の人生は上手くいっているように思います。
もちろん、何でもかんでも人に丸投げするのが良い訳ではありません(笑)。
※そういう上司が身近にいる人は、要注意です…
しかし、"相手に任せてみる"ことが、不思議と上手い人も、
世の中には、一定数いるように感じています。
相手に「任されたから、頑張ってみようかな」と思わせられるような人物。
山口 恵梨子 女流二段も、おそらくその一人です。
きっとそれは、本人の人柄や、将棋界に対する姿勢も含めてでしょう。
13年以上にも及ぶ女流棋士生活、また、そこに至る日々の中で、
"楽しいものは、自分一人の力では作れない"ということを、
肌感覚で学び、自らの人生で検証してきた人なのだと思います。
将棋界は、単体の力を比べ合って、誰が一番強いかを決める世界。
しかし、人生は、そうではありません。
手伝ってくれた人や、任されてくれた人が多い程、
その人の人生は、より幸福度や充実度が増すということも考えられます。
実は、考え出すと、物凄く深いテーマなのかもしれないですね。
他にも、面白いポイントはたくさんあるエッセイマンガですので、
皆さんも、是非お手に取ってみてはいかがでしょうか。
さくらはな。さんの、ギャグセンスやテンポ感は悪くないです(笑)。
一部の女性マンガ家にあるような、ただキャッキャしてるだけで、
言ってることは全然面白くないという(笑)、
そういう類の漫画ではないので、どうぞご安心頂いた上、
奮ってお読み頂けたらと思います。
※12/11(金)追記。
Yahoo!にて、著者お二方のインタビュー記事が紹介されました。
大変タイムリーですので、こちらも良かったら。