流行歌に漂う"嘘臭さ"
先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第5シリーズを以下、記載したいと思います。
本作は、
オープニング
↓
メインキャラ4人のコーナー
↓
エンディング
という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。
今回は、メインキャラ4人のコーナーの3つ目、
「さばみそ博士の『Best Hit DHA』」をお送りします。
<人形劇 登場人物>
・もんじゃ姫
→本作の主人公。
頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。
・さばみそ博士
→頭の上にさばの味噌煮が乗った、
語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。
・ハバネロ姉さん
→メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。
・ブルーハワイ兄貴
→頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。
~さばみそ博士の「Best Hit DHA」~
世界のキング・オブ・ポップ、"MJ"ことモンヒメ・ジャクソンが手掛けた、
ギター部歴1ヶ月の"大型新人"が、半年の準備期間を経て、
ついに大舞台に立つ時がやってきた。
音楽業界にようやく現れた、とてつもない金の卵の目撃者となるべく、
客席には多くの観衆が詰めかけ、彼に携わってきた業界関係者達も、
彼のデビューライブを、固唾を飲んで見守っている。
緊張でやや強張った顔を見せる彼が、マイクスタンドの前に立つと、
これまで浴びたことの無い程の、強烈なスポットライトが当てられた。
「これが、トップアーティストの浴びる光…!」
目を覆い、謎の言葉を発するもんじゃ姫を、怪訝な目で見つめる3人。
姉さん「どうした、大丈夫か」
兄貴「ハンバーグステーキ、冷めちまうぞ」
夢から覚め、辺りを見回したもんじゃ姫。
中目黒でのライブ鑑賞の後、帰り道のレストランで夕食を頼んだ所から、
急に意識が途切れ、気付いた時には目の前の鉄板の上で、
肉汁たっぷりのハンバーグステーキがジュージューと音を立てていた。
もん「あれっ、デビューライブは…?」
姉さん「HA~HAさんの東京デビューは、さっき見ただろ」
博士「今もまだ、あの素晴らしい一時の余韻が残りますな」
兄貴「あんな才能があったら、世界の"MJ"のお眼鏡に適うかもな」
またしても、自分の見ていた夢の話をされ、
首の下まで真っ赤になってしまったもんじゃ姫。
もん「もうっ、人の夢を盗聴するのはご遠慮願いますっ!」
姉さん「否が応でも聞かされているのは、こっちの方だが」
兄貴「外食の注文待ちと"MJ"の夢物語は、大体セットだからな」
博士「日本音楽界の華々しい復活に、乾杯致しましょう」
もん「お、音楽業界のことなんて知らないもん!
私の頭には…、ハンバーグステーキのことしか無いんですっ!」
ことのほか良い夢を見てしまったが為に、その内容を丸裸にされた、
とてつもない恥ずかしさを、ハンバーグステーキの熱い肉汁で
無理やり紛らわそうとするもんじゃ姫。
姉さん「今日は、私が一押ししたいと思っていた、
シンガーソングライターのライブを堪能してもらったけど、
博士はおススメのアーティストとかいるかな」
兄貴「あれ、何で俺には聞いてくれないのよ」
姉さん「お前はどうせ、”モンヒメ・ジャクソン"だろ」
兄貴「当たり」
もん「もぉーうっ!」
牛のような鳴き声を上げつつ、ビーフ100%のハンバーグステーキに舌鼓。
博士「私が最近よく聞いているのは、小椋佳ですかな」
姉さん「おぉ、博士渋いねぇー」
20代女子の"東京初ライブ"を観た後とは思えない、
日本音楽界の重鎮とも言える名前を口にした博士。
もん「名前は、聞いたことあるかも」
兄貴「結構なお年の方なんじゃないの」
博士「もう、80近いんじゃないでしょうか」
もん「ひぇー、凄いね」
姉さん「小椋佳にハマるような、何かきっかけがあったん?」
博士「ある時、何の気無しに『俺たちの旅』のライブ映像を観まして、
その歌声も去ることながら、何と言っても曲が良いんです。
どうやって、こんな歌詞とメロディを考え付くのかと」
姉さん「中村雅俊の若い頃のドラマだよな、『俺たちの旅』って」
兄貴「若い頃カッコ良かったよなぁ~、雅俊」
姉さん「いくつだよ、お前」
話に全然着いていけないもんじゃ姫は、付け合わせのニンジンを、
フォークで刺してソースにぐりぐりと浸している。
博士「小椋佳さんはシンガーソングライターとしても有名ですが、
歌手への提供曲には、布施明の『シクラメンのかほり』、
美空ひばりの『愛燦燦』、梅沢富美男の『夢芝居』など、
その歌手の代表曲とも言える名曲を数々手掛けられています」
姉さん「まさに、ヒットメーカーだな」
兄貴「若い世代も、その位の曲になると一度は聴いてるもんな」
もん「ひばりさんの『愛燦燦』は、私でも聴いたことあるよ」
兄貴「もんじゃが聴いてるのは、"サンサンサンさわやか3組~"だろ」
もん「小学生じゃないですっ!」
口にソースを付けたまま憤る、大人の姫君。
博士「自身の曲では、『しおさいの詩』や『めまい』、『消えた青春』、
第一勧業銀行の誕生に際して書かれた『少しは私に愛を下さい』。
また、堀内孝雄と共作して五木ひろしに提供した『山河』など、
素晴らしい曲の数々を聴いていくだけでも、実に良いですな」
姉さん「第一勧業銀行って確か、みずほ銀行の前身だよな」
博士「よくご存知で。元々、小椋佳は東大卒の銀行マンだったのです」
もん「へぇー、そんな凄いエリートなんだね」
兄貴「ヤベェな」
熱々のドリアを、ハフハフしながら食べている兄貴。
博士「銀行員としても非常に優秀で、出世コースにも乗っていましたが、
あまりに優秀過ぎるが為に、息子さんとは色々あったりも…」
姉さん「あんまり父ちゃんがエリートなのもキツいよな」
兄貴「その点ではまぁ、…姉さんは幸いしましたね」
姉さん「どういう意味だ、コラッ!」
口の中のドリアに、タバスコの数滴が投入され、目を引ん剝く兄貴。
博士「幼少期から東大生時代、銀行員とミュージシャンの二足の草鞋…
彼の見所満載な人生が豊かに描かれた『私の履歴書』の内容が、
ネットでも閲覧可能ですので、そちらも是非オススメしたいですな」
姉さん「日経新聞で連載してるコラムみたいなヤツだよな」
もん「勉強もできて、仕事もできて、音楽もできて…
天は、二物も三物も与えたんだね」
兄貴「俺には"イチモツ"しかくれなかったのに」
姉さん「下らんこと言ってんじゃねぇ」
強烈な蹴りをモロに食らい、「ムゥッ」と変な声を出す兄貴。
博士「作詞作曲は独学で会得したという彼ですが、
その背景には、当時流行っていた曲を聴いて感じた
"嘘臭さ"というものが大きくあったそうです」
もん「あぁ、その気持ち分かる気がする」
姉さん「珍しい、お前にも分かることがあるんだな」
もん「全然、珍しくないもんっ!」
兄貴「世界の"MJ"には分かるのよ」
もん「やかましいわ!」
半世紀前から今も変わらない、流行歌に漂う"嘘臭さ"。
恥ずかしそうな顔を見せながら、さっき見た壮大な夢の続きを
またいつか見れたら良いなと、密かに願うもんじゃ姫であった。
~さばみそ博士の「Best Hit DHA」 終わり~