『クロノ・クロス』~フィルターをかけずに見るこの世界
『クロノ・クロス』と『クロノトリガー』
『クロノ・クロス』というと、『クロノトリガー』からの流れを汲んだ続編であるという認識を持っているのが普通だと思うのですが、これが単純な続編ではないというのが個人的な感想です。
『クロノトリガー』の続編としてはふさわしくないという話も聞いたことがありますし、『クロノ・クロス』自体は好きであっても、「『クロノトリガー』の続編でなければ……」という話も聞いたこともありました。
こういった話を聞くたびに、『クロノトリガー』という前作がどれだけ偉大な作品であったのかを痛感すると同時に、どうしても『クロノ・クロス』という作品に、偉大な作品の続編であるというフィルターがかかってしまっているように思えて残念でなりません。
当然、続編あるいは関連作品であれば、前作や元になった作品が偉大であればあるほど、評価のハードルも上がるのですが、それだけで済ませるにはどうしても惜しい作品だと思うのです。
今回は、極力フィルターをかけずに見たときに『クロノ・クロス』という作品が、わたしの目にはどのように映っていたのかを書いていきましょう。
ネタバレを含んだ内容に言及しているので、その点についてはご了承ください。
時空旅行と次元旅行の違いから見る両作品
まずは『クロノトリガー』と『クロノ・クロス』の一番の違いに触れてみましょう。
『クロノトリガー』は、主人公たちの住む時代を起点としてその過去から未来までの時間軸を旅して、いずれ訪れることになる世界の終わりを防ぐために奔走するというストーリーになっています。
対して『クロノ・クロス』は、「あるタイミング」を起点にして分岐してしまったふたつの世界がテーマになり、主人公・セルジュがもう一方の世界に迷い込んでしまい、自分の住む世界へと戻るための旅をする中で自分が分岐した世界のキーマンのひとりであることを知り、陰謀に巻き込まれていくという話です。
『クロノトリガー』における「時空旅行」は、同じ世界の過去・現在・未来を行き来しているため、過去で行動した出来事が直接世界を変えてしまいます。
SFジャンルにおけるタイムトラベルを扱った作品とほぼ同様の描写がされていて、これを利用したギミックがゲームの随所に散りばめられていました。
『クロノ・クロス』における「次元旅行」は、パラレルワールドを行き来する話になります。
まったく違った時間の軸を持って独立しているふたつの世界の話になるので、基本的にはいくら行動を起こしてももう一方の世界には作用するはずがないのです。
そもそもジャンルの違うSF要素を扱っているため、その面白さは違ったものになってくると思います。
『クロノトリガー』にあった、過去からの作用が物語に直接影響する面白さは、『クロノ・クロス』には存在していません。
そういった意味でも、単純な続編ではないとわたしは考えています。
『クロノ・クロス』の面白さ
この項目は完全にわたしの主観になってしまいますが、『クロノ・クロス』の面白さとは、ふたつの世界の食い違いがどのように物語の本筋に関わってくるかという点と、キャッチコピーの「殺された未来が、復讐に来る」とはどういうことなのかという点、そして、ヒロインのキッドとこの世界の関係だと思っています。
『クロノトリガー』もゲームの面白さとは別にストーリーの深さが良い味を出していたとは思いますが、『クロノ・クロス』はそれ以上にストーリーに比重を置いた作品だと思っています。
物語の裏までを知ろうとすれば、作りこみの深いストーリーに圧倒されることもあるかと思いますが、目に見えた話だけを追ったときに、その内容に説明不足な点が見られるのも間違いないと思っています。
説明不足である点以外にも理由はあって、『クロノトリガー』から大きく変わってしまった世界観と、前作主人公たちの不遇な未来を見せつけられることにどうしても目がいってしまうことも、物語の理解を妨げる要因として挙げられるでしょう。
『クロノトリガー』の不幸な未来としての世界
『クロノ・クロス』が否定的な意見を持たれる理由のひとつとして、この世界観が『クロノトリガー』の不幸な終わりの延長線上に存在しているということでしょう。
また、作中においても、前作のキーパーソンたちは直接登場せずに哀しい結末を想像させる描写がされています。
しかし、この描写・表現だけで前作を蔑ろにしていると判断するには早く、なぜこんなことになってしまっているのかを考えると、意外に納得のいく答えが用意されていると思います。
ふたつの作品をつなぐ鍵
このふたつの作品を繋いでいくうえで、説明しなければいけないのが、『クロノクロス』における世界の分岐点と、キッドの正体、実際に何が起こっていたのかということでしょう。
世界の分岐点
まず世界の分岐点ですが、これは主人公・セルジュが幼い頃に死の危機に瀕した時点です。
彼は7歳の頃に「オパーサの浜」で溺れてしまうのですが、そこで何者かに助け出されます。
ここが世界の分岐点となり、セルジュが助け出された世界とそのまま死亡してしまった世界とに分岐してしまうのです。
キッドとは何なのか
作品冒頭で、「ラジカル・ドリーマーズ」と名乗る盗賊の少女が登場します。
彼女こそが本作のヒロインであるキッド。
過去に『クロノトリガー』の登場人物であるルッカに拾われ、育てられたという過去を持つ少女です。
作中の分岐要素はありますが、素直にいけば、セルジュは「凍てついた炎」という秘宝を手に入れることを目的とした彼女と旅を共にすることになります。
その後、キッドは血清の存在しない猛毒に倒れたり、ナイフで腹を刺されたりといった感じで幾度となく命の危機に晒されます。
しかし、そのたびに何事もなかったようにケロっとした顔で復帰するのです。
さて、彼女の正体についてはあとに回しましょう。
では、何が起こったのか
ここから前作『クロノトリガー』の話を絡めて話を追っていきましょう。
『クロノトリガー』において、世界を滅ぼすものであったラヴォスを打ち倒し、見事平和な未来を手に入れました。
それは、作中でクロノたちが見た、崩壊してしまったA.D.2300ではなく、滅びを回避して文明が発達した未来です。
ラヴォスとは、そもそも太古の時代に星に落下し、眠り続けてきたのですが、古代のジール王国が卓越した技術力をもって、その力を利用しようとしたことをきっかけに目覚めてしまい、星を滅ぼす存在として確立してしまいます。
その時に、時空の渦に飲み込まれ、ジール王国の関係者はまったく関係のない時間軸へと飛ばされることになります。
作中、未来において時を渡る翼・シルバードをクロノたちに託した、理の賢者・ガッシュもそのひとり。
古代から未来へと飛ばされたガッシュは、滅びの未来を改変したエンディング後の時間軸においても未来に存在したままになっています。
そこでガッシュたちはラヴォスが変容した時喰いの存在を知り、それに対処すべく時間研究所という施設を設立します。
その後、『クロノ・クロス』の舞台であるエルニド諸島にて「凍てついた炎」を発見し、それを利用した過去への転移などの研究のためにエルニド諸島にクロノポリスという施設を立ち上げます。
さて、先ほどから出ている「凍てついた炎」というアイテム、実はラヴォスの欠片だったのです。
これを用いた時間転移の実験の際に遥か過去のラヴォスがこれを観測。自身が滅ぼされる未来を観測してしまいます。
そして、古代のラヴォスのもとへとクロノポリスが引き寄せられることになったのです。
そうした異常な状況に、今度は「星」自体が防衛行動を取るかのように、かつて人類と敵対して敗北したはずの恐竜人が栄えた世界の時間軸上にある、クロノポリスと同様の研究をしていたディノポリスを古代に引き寄せることで両者がぶつかり、戦争へと発展しました。
結局人類の勝利となるのですが、クロノポリスのメインシステムである「フェイト」はこの時点で暴走。
フェイトによってこの先の未来やエルニド諸島が形作られていくことになります。
これが、『クロノトリガー』の舞台となったガルディア王国が滅亡する未来を生み出し、『クロノ・クロス』の世界へと繋がっていくきっかけになっています。
つまり、多くの人が受け入れられないであろう「『クロノトリガー』は、ガルディア王国が滅亡しバッドエンドとして終わる」という状況はタイムクラッシュが原因で引き起こされたものになるわけです。
さて、お気づきでしょうか。このラヴォスの取った行動、実は『クロノトリガー』において、ラヴォスに対してクロノたちが取った行動の逆になるわけです。
どちらも自分が生き残るための行動を起こし、ラヴォス側の策がうまくいったひとつの未来の可能性が『クロノ・クロス』であるだけなんですね。
キッドの正体
最後に、キッドの正体とその役割について触れましょう。
キッドの正体とは、『クロノトリガー』においてラヴォスの力を利用しようとして滅亡のきっかけを作ってしまったジール王国の王女・サラです。
正確には、ラヴォスに飲み込まれて絶望の淵に立っていたサラが偶然観測した男の子=セルジュの助けを求める声に呼応して、それを助けるために生み出した分身なのですが、サラ自身であることは間違いないです。
彼女の役割は男の子を助け、クロノポリスのフェイトの陰謀を阻止する世界を作り、タイムクラッシュで歪んでしまった世界の歴史を正すことでした。
セルジュは、オパーサの浜で溺れる以前にヒョウ鬼に襲われて瀕死の重傷を負い、それを解決すべく父親たちとともに旅に出た際に、何の因果かクロノポリスへと迷いこんで、「凍てついた炎」の力で生存することになります。
この際にフェイトからクロノポリスの権限を奪いとってしまいます。
オパーサの浜でセルジュが溺れてしまった事故は、実はフェイトがセルジュから権限を取り戻すために行った行動だったわけです。
つまり、世界の分岐とは、単純にセルジュの生死ではなく、生死の分岐によってクロノポリスの権限がフェイトへと戻ったかどうかの分岐でもあるわけです。
こうしたキッドの行動は、フェイトから権限を奪ったセルジュに、時喰いに飲み込まれてしまったサラを助け出すように仕向けるためにガッシュが打ち立てた「プロジェクトキッド」によるものであることも本編で一応は語られます。
さて、キッド=サラは、セルジュを助け、世界を正す可能性を残しながら、本編では彼とともに歩み、時喰いからサラを解放することで、この世界を本来の正常な時間軸へと戻しました。
本来の時間軸へ戻ったことで、タイムクラッシュが原因でできた歪んだ歴史は消え、すべての人からその時間軸の記憶を消滅しています。
ただひとり、サラであったキッドを除いて。
彼女は多くの世界渡り歩き、いつか出会うはずのセルジュを探して旅をする。
エンディングに登場するキッドは、そんな旅の中でようやくセルジュとの出会いを果たしたのでしょうか。
答えは分かりませんが、そこはプレイヤーそれぞれの想像で補った方が良いでしょう。
「殺された未来」とは
最後に、キャッチコピーである「殺された未来が、復讐に来る」についての考察をして締めとしましょう。
「殺された未来」とは、ラヴォス自身が滅びたことによって消滅した『クロノトリガー』作中の未来だと思っています。
また、その一方で人類に打ち勝ち、反映した恐竜人たちの未来でもあると考えています。
恐竜人たちは進化して龍人という存在になり、タイムクラッシュ後の未来である本編では、そんな彼らが龍神として登場しています。
しかし、フェイトによって彼らは封印されてしまいます。
そして、分岐してしまった世界では、それぞれの世界で生き残った龍神、滅んでしまった竜神とが存在しています。
物語後半で、フェイトの消滅とともに封印が解かれると、彼らはついに「人類への復讐」を始めるのです。
これが、キャッチコピーの真意でしょう。
物語だけに目を向ければ龍人たちの復讐劇。
しかし、事の発端から見るとラヴォスからの復讐劇でもあるわけです。
こういった物語の深さにわたしは惚れこみました。
先に語ったとおり、並行世界をテーマにした作品であり、前作『クロノトリガー』とはまったく違ったものになっているのは確かです。
しかし、本作中で起こっていることを考えれば、大筋は時空の歪みとそれを正す話であり、『クロノトリガー』の正当な続編として見ることもできるのです。
『クロノ・クロス』については肯定的な意見もあれば、否定的な意見もあります。
そして、環境的にも今後新規にプレイする機会というのはあまり多くないと思います。
ネタバレを含んだ記事の最後に書くべきことでもないとは思うのですが、どうかこの作品を遊んだ方には、目の前で展開しているストーリーを余すことなく、舐めるようにして見てほしいのです。
一度『クロノトリガー』の続編であるというフィルターは外して、この世界を眺めてみてほしい。
もしかしたら、今まで抱いていたものとは違うものが見えてきて、このゲームに納得できるかもしれません。
さて、今回はこのあたりで。
かなりの長文にお付き合いいただきましてありがとうございました。
また来週。
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