よもぎと小さな友だち 4
すてきな場所に立ってるね。
そこからは何が見えるんだい?
³⁸
「空が星たちでかざられているのと、同じだね。」
きっとこの場所や生きものが好きなひとが、大切にしてきたものなんだろうね。
³⁹
「あの像まで行ってみようよ。」
君はそう言うやいなや、自慢の足で風のように走り出した。
⁴⁰
「飼い慣らすことはできるかな?
一生のお友だちになれる?」
⁴¹
ぼくが飼い慣らすってどういうことだろうと
像をじっと見ながら考えていたのだけど、
そんなことはお構いなしに、君の好奇心はどんどん出てくる。
「しーっ」
周りにあるものを吹き飛ばすくらいの、花火より大きな音。
君の好奇心が溢れる音じゃないかな。僕はそう思うよ。
そしてまた風になって走り出した。
⁴²
これは火山っていうの?
「ぼくは火山を三つ持っていて、毎週すすはらいをするんだ。
二つは活火山で、一つは休火山なんだけど、
いつ爆発するか、わからないからね」
君は火山に詳しいんだね。まるで火山の先生だ。
⁴³
情熱のこもった講演が終わると、今度は耳を澄ませる。
どこからかざーざーと聞こえてくるね。
行こう行こう。滝ならすぐそこだよ。
⁴⁴
「水は、心にもいいものかもしれないな…」
君は火山の先生でもあるし、詩人でもあるのかもしれないね。
⁴⁵
次は近くの洞窟へ。
風になれる君なら、ここは気にいるかもしれないよ。
洞窟を滑って、
その先は、白い砂浜に広い海。
⁴⁶
「この島のいちばん高いところまで、つれていってくれる?」
もちろん。
ぼくは君をおんぶするから、しっかりぼくの頭を掴んでね。
そういえば、ここには大きな鯨がいるのだけど、
今ごろどこを泳いでいるんだろう。
⁴⁷
しゅっぱつ!
島の周りをまわりながら、
ぼくのお気に入りの場所に少しだけ寄り道して、
ほら、ここがてっぺんだよ。
⁴⁸
ぼくらのために用意されたような
ふたり分の椅子に座って、少し休憩。
波の音をゆったり聞いていると、君がぽつりと話しだした。
「知ってるかい…?
『飼い慣らす』ってどういうことか。
それはね『仲良くなることだ』って、
キツネが教えてくれたんだ。」
そうか、あの時見た大きいお魚さんや、像の生き物と、
君は仲良くなりたかったんだね。
すると君は勢いよく立ち上がって、
海の向こうを指さした。
島々に響き渡るような歌声が聴こえて、
大きなマンタがぼくらのいる島めがけて飛んできたんだ。
そしてマンタは、高い高い山の岩肌を滑るように登って、
さらにさらにずーっと空の上へ。
そしてまた歌いながら海の向こうへ飛んで行った。
ぼくらはあの時同じ気持ちだったんだ。
何も言わずグータッチするくらいに。
⁴⁹
君は鳥たちを呼んで、
そしてぼくに大切なことを教えてくれたんだ。
「仲良くなったら、おたがいに、離れちゃいられなくなるんだ。
十万もの子どもたちの中で…
ぼくにとって、きみが、この世でたったひとりになって。
きみにとっては、ぼくが、かけがえのないものになるんだ。」
そう言うと君は、また鳥と一緒に、
ゆっくりと旅に行ってしまった。
またね。
⁵⁰
バラさん、
あの子はたくさんのすてきなものを知ってるんだね。
ぼくがバラにそう言うと、得意げにぼくを思い出の光で包んでいく。
⁵¹
思い出は傷で、
同じ傷でも
疎ましく思ったり、
美しく思えたりする、
きっとそういうものなんだ。