よもぎの海底探索 その3

怖いことは避けるべきだ。
それは僕のためでもあって、仲間のためでもある。

でも、それでも、やっぱり止められない時がある。
ごめんね。胸の奥が熱くなって、どうしようもないんだもの。


蟹面さんがいなくなった。
みんなが狼狽えて心配している。おさげさんは今にも泣きそうで、より懸命に探している。けれど一向に見つからない。
よもぎも空の上から探すと、傷ついた大きな塔の側で揺れる小さな船を見つけた。

あの下は、暗黒竜がいる場所だ…。

舟へ降りて見ると、船底から真下へロープが伸びている。
それは底も見えないずうっと下まで、蟹面さんが見えない底まで行ってしまったという事だ。

僕には分からない。
どうしてそこまで、誰かより凄いままでいたいのか。
分からない…けど、君と競って自然とそう思ってしまった。
君はきっと、ずっとそうやって過ごしてきて、それが当たり前で。それでいてすごく素直なんだ。
そんな君に、君を想うみんなの事を考えなしに、僕が試すようなことを言ってしまったんだ。

みんなの顔が、おさげさんの心配する顔が思い浮かぶ。

よもぎは怖く暗い水底を、その先に伸びたロープを見つめる。
そして海面に上がり、大きく息を吸って、冷たい闇の底へ泳ぎ出した。

冷たい、苦しい、怖い。
それも、暗闇に浮かぶ蟹面さんを見つけて吹き飛んだ。
よもぎのようにぷくぷくと泡を出していない。

急いで引き上げないと!

蟹面さんを抱き抱え、一心に海面を目指す。

その時、

ほぉん

あの声が聞こえた。
探していたあの声の主がいる。けれど、真っ暗の底知れない闇の、自分の更にに下から聞こえてくるのだ。

だめだ、だめだ、だめだ。
あの子が呼んでいるけれど、いるけど、少なくとも、今はだめ!

遺跡で石を探している途中で見つけた、大きな、暗黒竜より大きな、赤い目が沢山ある竜。
よもぎはただ眺めているだけだった。しかしよもぎが見ているということは、それもよもぎを見ていたということだ。


それはよもぎの真下から赤い沢山の目を静かに光らせながら、2人に迫る。
ゆっくり静かに、牙だらけの大きな口を開けた。






気づけば、暗闇。
何回かは来たことがある。暴風域の先で倒れた時や、雨林で寝ていたら雨に打たれてるのを気づかなかった時とか。

いつもと違うのは、隣に蟹面さんがすやすやと寝ていること。そして、胸の灯りが灯っていること。

ここはいつもの場所じゃない…?

ぽけーっと立ちすくんでいると、後ろから気配を感じた。
中くらいの蝕む闇が生えている。
幸い胸の火は消えていない。
よもぎは恐る恐る蝕む闇を溶かしてみた。

1つ、2つ…
だんだんと根元が見えてきた。

あっ!こんなところにいたんだね。
探したんだよ…忘れてなんかなかったよ。本当だよ。

3つ目の蝕む闇を溶かし終えると、灰色に固まったマンタが現れた。
丁度、潜水能力をくれたあの子にそっくりだ。

固まったマンタに暖かな火を分け与える。
ジリジリと冷たい体が和らぎ、

パリン!

光が弾けた勢いでよもぎの体は後ろへ吹き飛んだ。
起き上がり、光の方を見ると、マンタがふわりと泳いでいる。

ピューィー

マンタが一声上げると、大きく輝き出した。



それは大きく振るえたかと思うと、苦しそうに牙だらけの口を大きく開けた。

噴き出すは大小様々な魚、そしてマンタたち。
蟹面さんを抱き抱えたよもぎを、上へ、上へ、と運んでいく。
ちらりと水底へ目をやると、赤い沢山の目は沢山の魚たちで見えなくなっていた。

舟へ帰ると、みんなが待っていた。
蟹面さんが恐る恐る大きな石をおさげお髭さんへ渡そうとした。が、おさげお髭さんはそれを制し、蟹面さんを抱き上げぎゅーっとハグをした。
嬉しそうに照れる蟹面さん、その帰還にみんな嬉しそう。

僕も満足。やっぱりみんな笑顔がいいよ。

そうして頷くよもぎに蟹面さんが近づき、ありがとう、と、それに続いて、他の3人も胸に手を当てた。
彼らは光となり、天へ還っていく。

残されたおさげさんとよもぎ。
2人は嬉しそうに顔を見合わせ、ピッピーと敬礼した。





「それ、結局誘き寄せられただけじゃないですか!!!気をつけてくださいよ!!!ふわふわした優しいだけの国ではないのですよ!!」

潮風でキシキシになったアフロが、楽園の滝の流した後、優しくついばみながらほぐされてゆく。鳥が一生懸命作業しているが、優しい刺激が心地いいのか、よもぎはうつらうつらしている。

「楽園で気をつけようなんて思わないよ…。」

「そーの油断が命取りなんです!もう!羽は散らしてなんぼとかいう時代も終わったんですよ!世界は刻一刻と変わり続けてるんですから!あっ、ほら見てください!そろそろですよ!」

「何が…うわっ!」

ゴゴゴゴと地鳴りがしたかと思うと、あたりがオレンジ色に染まる。
そして蝕む闇を生やしたウミガメが目の前を横切っていく。

「ちょっと出かけてる間に、色々変わったんだねぇ…。」

「ちょっと?何回日が登って落ちたと思ってるんですか!長らく顔を見せないで、心配したんですからね…!🥺」

「そんなに?環礁にいたの1日だけだったと思うけど?」

「え…?」

「「?????」」


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