よもぎと海底探索 その0

 海を進むは小さなボート。誰も知らぬ航路をなぞっていく。
 舟を漕ぐのは大きなアフロ。凪いだ海を進む力は、寝息とリズム良く揺れるその反動…ではない。
 一際大きく頭が下がった瞬間、ぶわっ!勢いよくアフロが飛び跳ねた。水面に集まり反射した光が一気に目に飛び込み、ムッと目を細め小さな手で眠気まなこを擦る。そうしている内に徐々に紺碧こんぺきの海原が見えてきた。


「ここ、どこ。」


僕はボートをおじじに借りて楽園の海をお散歩してた。
暖かい日差しで自慢のアフロがぽかぽかしてきて気持ちいいな。
鯨が遠くでジャンプして、マンタが僕の上をひゅーんと飛んで。
僕をあやすように波がザブンザブンとボートを揺らしてた。
目を閉じて、それらを心で感じていると、ほぉんって声が聞こえてきたんだ。
マンタでも鯨でもクラゲでもない、遠くから波を伝ってきた、響くような声。
何だろう?うーん?何で声だって思ったんだろう?うーん?
目をつぶって、ぽかぽかのアフロを感じながら考えてたんだ。

ほぉん、ほぉん、ふぉん……


そこまでは確かに覚えてる。
そうして気づけば広い海。
でもここからは大きな島も、マンタも見えない。
アフロはぽかぽかしてないし、なんならちょっとヒヤッとしてる。


「ボートさん、ここはどこでしょうか。」
ボートは何も応えず、静かな海を黙々と進む。

「ボートさん、ボートさん。もしかして迷ってしまいましたか。」

 やっぱり何も応えない。
 仕方がない。よもぎは水面に手の先を浸ける。波紋をボートと並走させながら風の街道で教わった歌を歌った。

「ふーん、ふっふふぅん。ふーん、ふっふふーん。」

 終わりの見えない暇を潰していると、またまぶたが降りてきた。こくんこくんと頭が水面に浸かりそうになった時、


ほぉん


それは大きなオカリナやパイプを鳴らすような、くぐもって響いてくる声。楽園で聞こえた時より大きく思える。少し湿った頭をあげキョロキョロと辺りを見回すと、ボートの進む先、水平線が少しだけ盛り上がっていた。


空は一面雲に包まれていて、それなのに一面よく見えて、まるで光を閉じ込めてるみたい。
風も波も無い海は、なんだか怖い。マンタも鯨もいないし、僕をお昼寝に誘う事もない。寒くないのに何だか冷たい。

でも、あのくぐもった声を聞くと、僕はあそこに行かなきゃいけない気がするんだ。

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