よもぎと小さな友だち 6
強い光は影を濃くしていくものさ。
⁶¹
君は美しいものを見て癒やされようとしているけど、
その姿はかえって君の深い傷を浮かび上がらせて、
ぼくもなんだか辛くなってしまう。
⁶²
おとなり、座ってもいい?
ここは冷たくて、誰もいなくて、きれいな場所だよね。
⁶³
ぼくもその楽器は触ったことないけど、
君の為にやってみるよ。
どこからか音楽が聞こえてくる気がして
ぼくはそれに合わせながら、なんとなくポロンポロンと弦を弾く。
⁶⁴
弦から手を離すと、君も誰かに背中を押されるように口を開いた。
「ぼくね、火の暮れるころが、大好きなんだよ。
ぼくの星にいるみたい。
いつだったか、日の入りを四十四度も見たっけ。」
いつものように楽しそうで、少し悲しそうな話し方はしなかった。
それはまるで、のどに何か詰まらせたみたいに、
「ぼくのバラも日暮れを見ているかな?」
胸に巣食った大きい何かを吐き出すような、
「強い風に、吹かれてやしないかな?」
今にも割れそうなガラスでできた鈴みたいな声。
君は必死に押さえつけていた心の栓を開けてしまったんだ。
⁶⁵
もちろん。
ぼくの心を少しずつ少しずつ音に込めて、君の為に。
君の涙が、思いが、バラさんに伝わりますように。
バラさんの思いが、君を癒やしますように。
⁶⁶
「ぼくは、彼女のすることで考えるべきだったんだ…。
言うことを取り上げるんじゃなくて、」
君は悲しみの心で見えない何かを見ようとしていた。
「きみも、
ぼくはあのバラに責任があると思う?」
⁶⁷
君の頭にぼくの手は届かない。
でも、ぼくの身長が低くてよかったよ。
君はぼくの自慢の頭をぽふぽふ出来るし、
ぼくからは君の涙がよく見えて、
君のほっぺを拭いてあげられるからね。
ぼくこそ、君の側にいさせてくれて、ありがとう。
⁶⁸
君は鳥を集めていつものようにゆっくり旅立っていった。
君と別れるときはいつも寂しくなるけれど、
今日はあんなに辛かった胸がぽかぽかするんだ。
きっと、また会おうね。
⁶⁹
あの子のことを話すと、バラさんはいつも思い出を見せてくれるけど、
そのたびに思うんだ。
⁶⁷
いつも自分の事を考えているようで
いつもお互いを想っているところが
とても良く似ているなって。