2024.02.26 付き添いで慣れ親しんだ道を、患者として初めて歩いた

大学病院

2月26日、紹介状を持って、「ホームグラウンド」と言えるくらいに馴染みのある病院の駐車場から入口に続く歩道を歩いていた。
母のがんも、父のがんもここで手術し、治療してもらった。
更に母は、何かと病院に縁のある人で、がんになる前にも、2度ほどここにお世話になっていた。
だから、わたしは、この病院内のことはかなり詳しく知っている。
「〇〇の検査室」とか言われても、迷わずに行けるくらいに。
そんな、慣れっこになった通路を、自分でもびっくりするくらい「重たい足取り」で歩いた。
「今からがんの検査をしてもらいに行く」
昨日まで他人事だった事だ。
いつもは、すたすたと前を歩く人を抜かして歩いていたのに、この日はあとから来る人にどんどん抜かされた。
ここに、患者として通ってくる人たちは、みんな、病気の治療という事に向き合っている。そう思うと、そういう人たちに対して尊敬しかなかった。

受付を済ませて、乳腺外科のある場所へと行く。
隣りにある一般外科は、父も母もお世話になり、父は現在進行形で数ヶ月に一度、検査に通っている。
いつもは付き添いで座るその椅子に、この日は「患者」として座った。

大学病院の検査って何をされるんだろう…と思いながら自分の番が来るのを待った。
待った。
待った………

そもそも、この日は予約なしの、いわゆる「飛び込み」だった。
待ち時間の長いので有名なこの病院のことだから、まあ、待たされるんだろう…という覚悟はしていた。
暇つぶしの道具もしっかり用意した。
ちょうど編みかけのセーターがあったので、それを一式。
本。
スマホはもちろん、ワイヤレスのイヤホン。
もう、なんでもござれ状態で待合室にいた。

10:00すぎに窓口にファイルを出した。
1時間は待ったうちには入らない。
昼近くなると、待合室の人はどんどん減っていった。そりゃそうだ。病院の診察っていうのは、たいてい、午前と午後に分かれているのだ。
途中、院内にあるコンビニにいって、わりとのんびり買い物もした。
もう、編み物も飽きた。
そうだ、スマホで先週見ていなかった大河ドラマを見よう!と思い立ち、1話分がそろそろ終わる…という頃、やっと診察室に呼ばれた。

場所は違えど、父や母をなんども連れて入ったことのある診察室だ。モニターが何台か置いてある机の前に、乳腺外科のDr.がいた。
「失礼します」と、いうと、「あー」だか、「えー」だか、とにかく、めんどくさそうな感じで、椅子に座るように言われた。
「紹介状の病院の先生はなんて言ってたの?」と聞かれたので、「こちらで検査をしてもらってくるようにと言われました」と伝えた。

伝えながら、猛烈な違和感に襲われていた。
おい、先生よ、あんた、わたしの顔を見たかね?
母の主治医も、父の主治医も、診察の時にはいつだって正面を向いてくれた。
初対面から、ああ、この先生にお任せしようと感じさせるものがあった。
なのに…このDr.にはそういう気持ちがちっとも湧いてこないのだ…

検査は予約なんだよね〜とかなんとか言いながら、モニターを見て、「今日はエコーとマンモしかできないけど、やってく?」と聞いてきた。
え?今日、検査する気満々で来たんですけど、そんだけですか?と思ったが、せっかくなので、できるものを受けようと思い、「お願いします」と答えた。

CTや、MRI、針生検(針を刺して、腫瘍を調べるという、恐ろしげな検査)などは、後日になるとのことだった。

乳腺外科を後にして、エコーの検査室に行くと、ベテランな感じの女性スタッフの方がいた。わたしのカルテを見ると、「そうなんですね…この歳になるとね、いろいろでてくるんですよね。でも、その度に、メンテしながら使っていくようにすれはいいんですよ」というお話をしてくださった。
たぶん、朝から気を張り詰めていたのだと思う。この言葉を聞いて、泣けてしまった。
メンテナンスか…そういう考え方もあるんだ…

エコーの次はマンモである。
知っている人は知っている。
そう、マンモは痛い。すごく痛い。
想像してみてほしい。
円錐形の体の一部分を、板で挟んで、問答無用で可能な限りうすーくうすーく引き伸ばすのだ。
こんなに痛い思いをしているのに、タダで帰るなんて悔しすぎる。機械を操作している女性技師さんに尋ねた。
「もっと大きいおっぱいだったら、こんなに痛くないんでしょうか…」
すると、予想外にも、大きいからいいというわけではないという答えが返ってきた。
薄く伸ばすという特性上、容積がたくさんあると、画像の判断が難しくなるそうだ。
「ちょうどいい大きさですよ」
と言われ、痛いかどうかは置いておいて、わたしの乳はマンモの検査をしやすい、というお墨付きをもらうことができた。
これで、今日ここに来た甲斐があったよ…

10:00に病院についてから6時間。
検査と会計を済ませて、建物の外に出た時、外は夕暮れていた。

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