この記事書いたのだあれ? 新聞記者署名記事年鑑 日本経済新聞 2023年9月暫定版
日々の新聞記事で見かける記者の署名、あなたはどれくらい気にしたことがあるでしょうか?
この記事では、先に公開した「この記事書いたのだあれ? 新聞記者署名記事年鑑 朝日新聞 2023年9月暫定版 全データ公開」を補足する意味で、日本経済新聞の署名記事を取り上げて紹介しようと思います。
とはいえ、マンパワーの問題で収集したサンプルは9月1日(金)から7日(木)の1週間のみとなります。
記事収集のルール
朝日新聞版に準じますが、日本経済新聞の場合は地域面として「東京・首都圏経済」が含まれます。紙面ビュアーのみで提供されている各エリアの「地域経済」、土曜日の「プラス1」、日曜日の「NIKKEI The STYLE」はカウントしません。朝刊の囲碁将棋欄も画像で提供されるためカウントしていません。
日経と朝日の署名記事本数の違いはなぜ?
日本経済新聞の日ごとの一覧が30日前までしか遡れないのだが、いったん本数を整理してきます。
日経は朝日よりも記事本数が多い
まず目を引くのは、日本経済新聞がそもそも出している記事本数の多さだ(署名記事に限らず)。
4日(月)~7日(木)の間に854本の記事を出しているのに対して、朝日新聞は553本。
7日の朝刊だけ見ても、日本経済新聞が189本。対する朝日新聞は121本。1.56倍の開きがある。
差が付いた理由として日本経済新聞には「東京・首都圏経済」面の記事本数が含まれていることもある。とはいえ、3日間で25本(7日は9本)なので、決定的な要素とはいえない。
では、紙面のページ数が大きく違うのだろうか。
サンプルとして7日を比べて見ると、日本経済新聞は最終の文化面が40面。うち、編集記事の入らない全面広告面は10あった(女性誌「Precious」と、野村不動産、腕時計のSwatchが6面、三井不動産、アリナミン製薬。すべて全15段カラー。うらやましい)。よって、記事ページは30面となる。
朝日新聞は30面。うち編集記事の入らない広告ページは6面。つまり記事ページは24面。
つまり、1.25倍の差なのだ。では、あとの0.31を生み出したの要素は何なのだろう。
基本的には、WEB記事の1本1本が細かく切り分けられているのだと思う。
そのぶん、日々の一覧ページは冗長になるため、見出しに大小を付けたり、主要記事には要約を足したりと工夫を凝らしている。
(朝日新聞は一覧TOPセレクトした主要記事の一覧を載せているので、ページの長さではあまり差が出ていないのだが)
こうした差は、日本経済新聞が記事を多様な媒体で活用する際の取り回しが良いように、記事の最小単位とは何かを一定のルールの下に定めているのではないかと思われる。
複数署名の記事が少ない
朝日新聞は9月1日から7日の間に454本の署名記事が出て、のべ574人が執筆に関わっていた。1本あたり1.26人。
日本経済新聞は同期間に363本の署名記事が出ていて、関わった記者はのべ422人。1本あたり1.16人。数字上も差が出ている。
それだけではない。
日本経済新聞で3人以上の記者が執筆に名を連ねている記事は一週間でわずか5本。
1日2面(総合1) 迫真半導体再興、ラピダス駆ける(4)50歳だらけの入社式
2日35面(東京・首都圏経済) 建設のプロ、墨田で自主防災組織 工具・装置使い実践訓練
3日7面(総合5) そごう・西武、地方店に難題 赤字体質 見えぬ打開策
7日2面(総合1) 迫真動き出すインボイス4 「マイナと同じ轍踏めない」
7日7面(金融経済) 孫氏が描くAI新戦略 SBG、アーム7兆円上場 アップルなど10社出資 半導体、連携強化へ
7日9面(グローバル市場) 円安、原油高と再び共振 ドル高・貿易赤字拡大で 財務官「あらゆる選択肢で対応」
それに対して朝日は24本もあった。
つまり、朝日新聞は複数の記者が関わって、多様な取材ソースから1本の記事を作ろうとするのに対して、日本経済新聞は各記者が個別の切り口で取材したものを個別の記事として記事化する傾向が強いと言えるのではないだろうか。
そういうスタイルのほうが、WEB記事の速報にも対応しやすいメリットも考えたのことかも知れない。
署名記事が多い面はどこか
9日の紙面に注目したついでに、どの面に署名記事が多いかという視点からも見ておこう。
国際面に署名記事が多い傾向は他紙と変わらないと言えるかもしれない。
スポーツ面は、一般紙に敵わないのは仕方ないと思っていたが、実際は5本の署名記事が出ていて、同日の朝日新聞4本を上回っていた。おそらくスポーツ担当記者は朝日新聞より少ないはずだが、共同配信記事をつかいながらメリハリのある紙面作りがされている。
特徴的なのは社会面に署名記事が1本もなかったこと。一方の朝日新聞は6本の記事に12人の記者が名前を連ねていた。事件や出来事を客観的に伝えるか、これこそが新聞が取り組むべき社会の問題という気概を示すか、両紙のあり方の違いが見えて興味深い。
ちなみに一週間だと朝夕刊あわせて8本(のべ12人)と、ない訳ではないがやはり少ない。
また、文化面もゼロ。朝日新聞であれば、聞き手、構成、といった形で署名がついてくるが、日本経済新聞の場合は見当たらない。記者職の会社にとっての位置づけの違いを見るようで面白い。どちらかというと日本経済新聞は「機能」として、朝日新聞は「人」として見ている要素が強めのように思う。
ビジネス、投資情報、マーケットといったページはそれぞれにコラム的な署名記事を配してはいるが、基本的には無署名で短めの客観的経済情報を多数盛り込んでいる印象だ。
それぞれが1記事としてPVを稼いでくれるだろう。記事ページの広告枠は抑制的だがない訳ではない。
署名、無署名の使い分けが戦略的
そのように考えると、日本経済新聞の場合は署名記事と無署名記事の役割を明確に線引きして使い分けているように見える。
客観的な事実関係の記事だけでは、無味乾燥になってしまう。有料会員の獲得はストレスニュースだけでは難しい。署名によるコラムや解説的な記事があることで、信頼感や共感を生み出す役割を担っているのだろう。
日本経済新聞の署名で特徴的なのは、その肩書きだ。
AI量子エディター、DXエディター、M&Aエディター、コモディティーエディター、サイエンスエディター、デジタルマーケティングエディター、マクロ経済エディター、企業税務エディター、社会保障エディター、新興・中小企業エディター、税財政エディター、都市問題エディター
こういった肩書きはほかの新聞では見たことがない。当初、外部有識者かと思ったが、どうやら社内のようだ。
新聞記者は外部の有識者に聞いて回って記事にするものかと思ったら、日本経済新聞では自らを権威化しているようだ。
しかし、学者ではないといった遠慮が「エディター」という肩書きなのだろうか。これについては、読者に対してきちんと説明するページがあったほうが良いと思う。
というページがあるが、そこのはエディターについての説明はない。
日本経済新聞社のベテラン記者は専門分野の豊富な知見を生かし、新聞紙面だけでなく大学の授業や公開講座、企業・団体の行事など、様々な場面で情報発信しています。講師や司会、執筆者などでの起用をお考えいただく場合は、下記のお問い合わせフォームからご連絡ください(法人研修向けの講師をお探しの方はこちら)。
という案内があって直近の講演事例も載っている。
44人の記者の写真、氏名、専門分野が記載され、個別のページに遷移すれば経歴、活動実績、執筆記事が確認出来る。
とはいえ、これはあくまで講演会講師等の派遣ビジネスのためであって、署名をフックに読者とより深いエンゲージメントを築こうという視点とは違うように思える。
日本経済新聞で最も多くの署名記事を書いた記者は?
サンプルが1週間分しかないのにランキングするのも恐縮だが、237人の記者のお名前を確認出来た。
第1位
1位だけで4人もいた。
井上航介 7本
タイ・タクシン元首相、恩赦申請
など、バンコク発の記事が相次ぎました。
甲原潤之介 7本
北朝鮮、韓国占領を最終目標 米韓の拠点射程に全軍訓練 軍事力誇示に躍起
など全てソウル発の記事でした。
田島如生 7本
習氏、G20欠席か 米中首脳会談、回避の見方
など、すべて北京発の記事でした。
木寺もも子 7本
ウクライナ復興支援事業、トルコ商務相「日本と協力」
など、おもにイスタンブールからの記事でした。
実は上位6位、12人まで、すべてが海外駐在の記者だった。
国内で何かのテーマを追いかけてたくさんの署名記事を書き続けることは日本経済新聞だと難しいのかも知れない。
署名のルールが厳格化されていることには、善し悪しがあるなあと思う。
読売、毎日、産経、東京新聞の状況は?
読売新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞については、9月1日の朝刊をめくって目視で拾っただけなので、これまた同列には並べられないが、一応記しておこう。
もっとの署名記事の本数が多かったのは、昔から署名記事が多かった毎日新聞。全体のページ数が広告を含めて24ページというところからも、その多さが分かる。ひとり一人の記者が八面六臂で筆を振るっている様子が見て取れます。
連名の記事も9本と多く他3紙を圧倒している。お互いにカバーし合いながら書いている感じが伝わってきます。他紙は読売新聞が3本、東京新聞、産経新聞が2本でした。
ちょっと古いデータですが、2020年のABC部数を加味すると、こういう順番になります。
終りに
今回は日本経済新聞を朝日新聞と対比しつつ読み解いてみました。
また、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞についても、簡単にですがまとめてみました。
ひとくちに署名といっても、各社のありようが様々ということがお分かりいただけたかと思います。
1つの決まった形に決着していないということは、まだどのようにも変えられる可能性があるということだろうと思います。
署名を切り口に、新聞の可能性をさぐる考えが広がって行けば幸いです。
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